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描くことは、生きること。「ジェイムズ・キャッスル 展」

2015.06.20 Vol.645

 清澄白河から渋谷区千駄ヶ谷に拠点を移した小山登美夫ギャラリー。新スペースのオープニングを飾るのは、日本で初めてとなるアメリカの作家ジェイムズ・キャッスル(1899-1977)の展覧会。

 ジェイムズ・キャッスルは、ドローイング、コラージュの立体作品、ハンドメイドの本などを独学で、生涯を通じて制作した作家。生まれた時から耳が聞こえなかった彼は、通常のコミュニケーションの方法を持たず、また正式な美術教育も受けなかったが、70年近くもの作家人生で他に類を見ない、さまざまな作品群を残している。使用する素材も独特。ドローイング作品は、暖炉のすすと唾液を混ぜた独自の“インク”を、尖った棒や丸めた綿などを使って描いている。彼はまた、彼の家族が営んでいた商店と郵便局で手に入った、食べ物や製品の包装、マッチ箱、手紙を使って、コート、人物、動物などのコラージュの立体作品も制作した。モチーフとなるのは彼のごく身の回りにある、日常のもの。それゆえ時代や国を超え、見る者もノスタルジックな切なさを感じ取る。

 本展ではモノクローム、カラーを含む30点近くの ドローイングと、コラージュの立体作品「無題(バスケット)」を展示。

描くことは、生きること。「滅びと再生の庭」堀浩哉展

2015.06.20 Vol.645

 ドローイング作品の他、「堀浩哉+堀えりぜ」名義によるパフォーマンスや映像作品なども手掛け、国内外で作品を発表している堀浩哉。ミヅマアートギャラリーでは約4年ぶりの個展となる。

 前回の個展が4年前、つまり2011年、震災の年だった。あれから4年。震災がもたらしたものを見つめ続けてきた堀が、今何を見つめ、何を描くのか。

 今回の個展では2011年の震災後に制作された作品『記憶するために』を更新したシリーズ『滅びと再生の庭』を中心とした、新作ペインティングとドローイングを発表。『記憶するために』は、宮城県閖上地区の海の映像に「記憶するために」という文字を重ねた印象的な作品。今回、それを更新した作品で、4年の月日の経過により浮き彫りになってきたもの…自然がもたらした災害と文明がもたらした災害の違い…を、改めて感じる作品となっている。

 堀のドローイングは“線”を引っかき、“傷”をうがつように“書く=描く”。画面にかき重ねられる言葉=文字は、意味や物語から離れ、“線”のみがノイズとして、画面に“傷”を重ねていく。しかしそれは、滅びの繰り返しを語るものではなく、むしろ、それでも“生き続けていくこと”の痕跡を刻むもの。滅びと再生の庭に立った時、滅びを憂うのではなく、新しい芽の息吹と再生を願う。70年代から絵画を問い、直視してきた堀浩哉の試みに注目したい。

芸術家の創造意欲をかきたてるもの 星野美智子展

2015.06.07 Vol.644

 主にモノクロームながら、黒と白の濃淡による表現で、幽玄でイマジネーションあふれるリトグラフを手掛ける版画家・星野美智子の個展。
 星野は長年、『伝奇集』『砂の本』などで知られるアルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスからインスピレーションを得た作品を手掛けてきた。人の深層意識を具現化したような、星野独自の表現世界はボルヘスの作品と見事に共鳴する。

 本展では「闇は新しい神話が立ち上がる空間であり、幽明はイメージの創造空間である」というボルヘスの詩にちなんでの新シリーズ『闇の礼賛』を発表。一般的には老いや死といったイメージが浮かぶ“闇”を、ボルヘスはどうとらえ、それに星野はどう共鳴するのか。新シリーズをMフロアで展示する。

 また星野はこれまで同ギャラリーの前身・ストライプハウス美術館において、3回にわたり計約300点のボルヘス・シリーズの新作版画を発表しており、今回はそのなかから選んだ代表作も約30点、展示。

 星野はボルヘスの夫人であるマリア・コダマとも親交を持っており、会期中の6月13日には夫人を招へいしてのイベント『ボルヘス会15周年記念・迷宮忌の集い』も開催する予定。

芸術家の創造意欲をかきたてるもの 岡本太郎の『樹』

2015.06.07 Vol.644

 岡本太郎の作品には、頻繁に“樹”が登場する。さまざまな“いのち”を描き続けた太郎だが、中でも“樹”に対して大きな共感を持っており、天に向かって伸び行くその姿に、太郎は生命力のダイナミズムを見ていた。若々しく広がっていくさまに人間のあるべき姿を重ね、人が天と交流する回路であるとも考えていたのだ。単細胞からヒトまでが一本の樹に宿るさまを表した、太陽の塔の胎内に内蔵されている作品『生命の樹』。いきいきと躍動する不思議な生命体『樹人』。こどもの城(青山)のシンボルとして制作された、子供たちの多彩な表情が四方八方に伸びていくさまが印象的な『こどもの樹』。原始の呪力が生々しく投影された『樹霊』。生と死が対峙し戦うさまを描いた絵画作品『石と樹』。

 樹というモチーフを使って、太郎は何を表現したかったのか。本展では、樹をモチーフとした作品の数々を紹介。さまざまな太郎の“樹”を見ながら、彼が感じた生命のダイナミズムを感じよう。

時は流れ、続いていく。「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」

2015.05.24 Vol.643

 20世紀を代表する巨匠・サイ トゥオンブリーの個展が、日本の美術館で初めて開催。2011年に死去したトゥオンブリー本人が出品作品の選定に関わり、サンプトペテルブルグのエルミタージュ美術館をはじめとする欧米の主要な美術館で開催された個展を、原美術館の空間に合わせて再構成したものとなる。

 サイ トゥオンブリーは1928年にアメリカに生まれ、アメリカで頭角を現した後、ローマに移住。60年代以降はヨーロッパとアメリカで高く評価され、1996年には高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)も受賞した。絵画と彫刻の両方で旺盛な制作活動を展開したが、とりわけ他の追随を許さなかったのは独特なスタイルを持つ絵画作品。その作風は即興性と激情性にあふれ、無秩序なようでいて“描画された詩”ともいえるような、テーマ性を感じられる。また、よく見ると鉛筆、絵の具、クレヨン、チョーク、ペンキなど、さまざまなマテリアルを使っており、その奔放さも醍醐味だ。

 1950年代に一世を風靡していたジャクソン・ポロックやマーク・ロスコら抽象表現主義の第二世代と見られることもあるトゥオンブリーだが、イタリアを拠点とした彼はアメリカのアートシーンとは距離を置き、独自の表現を発展させていった。そんな孤高の作家の情熱を感じることのできる展覧会だ。

時は流れ、続いていく。「アイ・ラブ・アート 13 ワタリウム美術館コレクション 古今東西100人展」

2015.05.24 Vol.643

 国内外のさまざまな現代アーティストに注目し、鑑賞者をアーティストの作品世界の奥深くへといざなうユニークな展覧会の数々を企画してきたワタリウム美術館。『古今東西100人展』と題し、ワタリウム美術館の現代美術コレクションを中心に、112人のアーティストを選び、インスタレーション・立体・彫刻およそ40点、絵画・ドローイング・50点、写真80点、版画35点、映像作品5点、および記録映像の中から5点、これら約225点を一挙展示。

 出展作品は、まさに古今東西。日本の作家では、岡倉天心、南方熊楠、滝口修造、岡本太郎、草間彌生、河原温、オノ・ヨーコ、寺山修司など、その時代を代表する芸術家や文化人の作品が登場。海外作家では、ビデオアートの先駆者ナム・ジュン・パイク、思想家ルドルフ・シュタイナー、ダライ・ラマ14世など、過去の展覧会や講演会でも話題を呼んだ作家たちの作品も揃う。まさに、現代アートの“伝説”ともいうべき作品や記録が一堂に会する機会。同館がこれまで、アーティストとコラボするかのように作り上げてきた一つひとつのアート空間がよみがえる、注目の展覧会。

2次元で感じる3次元 伊藤彩「穴」

2015.05.09 Vol.642

 一見、荒唐無稽でチープなモチーフが描かれた世界。しかし見ているうちに、その世界には異なる次元がいくつも存在するような、不思議な感覚にとらわれてしまう。

『Art Camp in Kunst-Bau 2007』(サントリーミュージアム[天保山])でサントリー賞、『アートアワードトーキョー丸の内 2011』でシュウウエムラ賞及び長谷川祐子賞を受賞した、期待の作家・伊藤彩の個展。

 伊藤の作品が持つ“奇妙さ”には、そのユニークな制作プロセスが関係している。伊藤はまず、自身で制作したキャンバスのペインティングや紙のドローイング、陶器の立体物、布、家具などを室内に配置し、ジオラマを作る。このジオラマの大きさは、時に幅、高さ、奥行きが5mを超えることもあるという。そして、ジオラマの作品世界の中に伊藤が入り込み、写真に撮ることで、自身も思いもよらなかった構図やアングルの視覚的効果を念入りに検討したのちに、実際の絵画制作に入る。

 伊藤が「フォトドローイング」と呼ぶ、このプロセスによって、その作品には、濃密なリアリティーを持つ構図が乱立する。作品全体を見た者の空間認識を混乱させつつ、個々のモチーフがそれぞれの空間にいざない、見る者を世界に引き込んでしまう。

2次元で感じる3次元 青山悟展「名もなき刺繍家たちに捧ぐ」

2015.05.09 Vol.642

 刺繍というメディアの枠を拡張させる作品を数々発表している作家・青山悟の展覧会。青山は、工業用ミシンを用い、近代化によって変容し続ける人間性や労働の価値を問い続けながら、“刺繍”というメディアに対するイメージを刷新させる斬新な表現を生み出してきた。

 今回の新作は、イタリア人アーティスト、アリギエロ・ボエッティ(1940-1994)の地図作品《MAPPA》の制作に携わったアフガニスタンの刺繍職人たちへの興味が発端となったという。

 美術と工芸の歴史や、西洋と東洋を隔てる政治的関係性といったMAPPA》に込められた背景を考察しつつ、青山が今現在、彼にしかできない世界地図を作り上げる。

 世界地図とは一見、普遍的な存在でありながら、常に変化をはらんでいるもの。世界の秩序が大きく変容し、地図上の境界もあいまいになる今日、綴られるのはどんな地図なのか。アフガン難民の女性たちによって制作されたというボエッティの作品が今も何かを訴えているように、青山の作品も、さまざまな問題を抱えた現在の境界線を縫い取っていく。

“かたち”に感じる、考える「小田薫 展 対峙」

2015.04.26 Vol.641

 金属を素材に、ごく身近にあるような建物を連想させるオブジェを制作する注目の作家・小田薫による、アートフロントギャラリーでの初個展。

 小田薫は1979年東京生まれ。東京藝術大学で鍛金を学び、2007年に同大学院修了後、本格的に作家活動を始めた。
 観音開きの扉が着いた、小さな建物のようなオブジェ。その形は見慣れているようでいて、現実には無い不思議な夢想感を漂わせる。

 小田の作品の多くは作家が日常で出会った建物や設置物がベースになっている。しかし、金属という固い素材でしっかりと形を作りながらも、作家の関心は外形を再現することには無い。むしろ、かたちどることができない何かを感じさせることにあるようだ。

 一方で近年では、アンテナを大きく突き出したビルや家から外に伸びる影など、建物の内から外へ出ていくものを表現することも増えている他、昨年は平塚市美術館の大きなロビーの空間を使い、建物が橋でつながるインスタレーション作品を発表した。

 本展ではギャラリーの2つの空間を使用し“モノ”的魅力にあふれた作品と、部屋そのものを作品空間とした本格的なインスタレーションを展示。

 自分の心の中にある建物を訪ね歩くような、楽しくも不思議な体験ができそう。

“かたち”に感じる、考える「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」

2015.04.26 Vol.641

 パリのポンピドゥー・センターの分館として2010年にオープンしたポンピドゥー・センター・メスと、多彩な文化活動を支援しているエルメス財団による共同企画で開催された展覧会が、日本に巡回。ポンピドゥー・センターをはじめ、ピカソ美術館、ル・コルビュジエ財団、国立自然史博物館といったフランスの名だたる美術館、博物館のコレクションから、本邦初公開品を含む名品が多数出展されている他、日本展限定で、長次郎の黒樂茶碗など日本文化の名品も登場する。

 会場に集うのは、世界各地から集められた、古今東西、多種多様な“シンプルなかたち”の数々。古くは先史時代の石器から現代アートまで、ジャンルは美術や工芸、デザインの領域はもちろん、考古学や生物学、機械工学の影響を受けた作品約130点の作品が一堂に展示される。

 さらに本展では、森美術館のための新作も登場。グザヴィエ・ヴェイヤンや大巻伸嗣ら日仏の現代アーティストたちが森美術館の広い空間を生かした大型インスタレーションを展開する他、田中信行、黒田泰蔵も新作を発表する。

一度で何倍も楽しめる! コレクション展「ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」

2015.04.12 Vol.640

 開国以来、日本は常に西洋からの衝撃“ウェスタン・インパクト”を受けながら近代化をはかってきた。一方で、来日した西洋人たちも日本の文化や芸術に“ジャパニーズ・インパクト”を受けていた。本展では、アメリカのボストン美術館と東京藝術大学の2つのコレクションを合わせる“ダブル・インパクト”によって、19世紀後半から始まる、日本と西洋との双方向的な影響関係を再検討。それぞれのコレクションに収蔵されている明治期の重要な作品を紹介し、“明治ニッポンの美”の魅力に迫る。

 展覧会では時代とテーマによってプロローグから第5章までの構成ごとに作品を紹介。日本美術の優れたコレクションを持つことでも知られるボストン美術館からは、江戸時代後期に製作された、すべての関節や胴体が自由に動く全長2メートル弱の巨大な竜の置物『竜自在』や本邦初公開となる橋本雅邦『雪景山水図』などが出展。一方、近代日本美術では国内屈指の質量を誇る東京藝術大学のコレクションからは、1872年に当時新技術であった油彩に挑戦した高橋由一の『花魁(美人)』や横山大観の東京美術学校卒業制作『村童観猿翁』が出展。

 2つのコレクションの選りすぐりの作品群からは、工芸から日本画、洋画、彫刻まで、多彩な分野で優れた作品が登場した“文明開化”期ならではの息吹を感じることができる。

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