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「私」と「彼」、2人に何が起きたのか? 伝説のミュージカルが再演!

2014.10.10 Vol.628

 キャストはたった2人、演奏はピアノ1台。そんな型破りなミュージカルが再び日本再上陸を果たす。日本に初上陸した2011年から今回で5度目の上演。また大きな話題を集めそうだ。

 舞台は、刑務所での囚人の仮釈放審議会で、「私」は審議官に問われるままに、37年前に犯した自身の罪を語り始めるところから展開する。ニーチェを崇拝し自らを特別な人だと語る「彼」は、犯罪をすることでしか自分を満たすことができない人物。そんな「彼」を愛する「私」は、求められるままに犯罪に手を貸して行く。2人は、互いの要求すべてに応えるという契約のもと、どんどんエスカレートしていき……。

 1924年に米シカゴで実際におきた誘拐殺人事件をモチーフにしたサスペンス。ストーリーはもちろん、衝撃のラストへの展開、耳にしただけでミュージカルの様子がビビッドに浮かび上がってくるピアノの旋律など、本作は観劇した人の心をわしづかみにして離さず、記憶に刻み付けられる作品として、ファンを増やした。日本上陸からわずか4年で5回という上演回数を重ねているのも納得だ。

 最新公演では、「私」と「彼」を、尾上松也と柿澤勇人、田代万里生と伊礼彼方、そして松下洸平と小西遼生の3組の異なるペアで上演される。それぞれのペアごとに異なる印象を与えてくれるだろう。

 ミュージカルそのものはもちろん、上演期間中には、アフタートークも行われる。それぞれのペア、「私」役のみ、「彼」役のみなどさまざまなバージョンが用意されている。

 ローチケでは現在、全公演のチケットを発売中。

目のつけどころが普通じゃない!!
ペンギンプルペイルパイルズ『靴』

2014.09.28 Vol.627

 作・演出家の倉持裕が主宰を務めるペンギンプルペイルパイルズ。昨年春から立て続けに外部での作・演出の公演があり、あまり意識はしていなかったのだが、実は1年8カ月ぶりの劇団公演。そして2年半ぶりの新作書き下ろし。

 あるところに左右の足のサイズが大きく違う女の子がいた。いつも靴を新調するときはサイズ違いのものを2足買わなければいけなかった。しかし高校に入って、靴のサイズが左右対称でぴったり同じ女の子と出会う。以降、2人は一緒に店に行き、同じデザインでサイズ違いの靴を2足買って片方ずつ交換することで、靴を無駄にすることはなくなったのだが…。

 今回はタイトル通り、彼女たちが靴に関わる事件を解決しながら、靴を脱ぎ履きしつつ冒険するお話。

 外部ではコメディー色の強い作品が多めの倉持だが、こちらは不条理な匂いを漂わせた作品。どっちもいいけど、こういう作品もやっぱりいい。

目のつけどころが普通じゃない!!
ハイバイ『霊感少女ヒドミ』

2014.09.28 Vol.627

 本作は2005年にオムニバス形式の公演で上演され、2012年に再演された作品。舞台に白いパネルを立て、そこにプロジェクションマッピングで映像を投影し、俳優の演技と融合させるという手法を取っている。映像は映像作家のムーチョ村松が担当。

 作・演出の岩井秀人は2012年の『ある女』で劇中の映像をムーチョに依頼。岩井はその映像を見て、『霊感少女ヒドミ』の再演を思いつき、その年に再演。そして今回は“完全版”といった位置づけとなる。

 国道16号沿いのマンションに住むヒドミは胸の中に大きな空虚を抱え込んでいる女の子。なぜ自分がここに住んでいるのか分からない。そんなヒドミに念願の恋人ヨシヒロができるのだが、それを阻止しようとする地縛霊が現れる。

 全国6都市を回り、東京では1日だけだが3Dプロジェクションマッピングに挑戦。香川では野外上演も試みるという。

今週は客演の妙が楽しめる豪華3本立て!!
サンプル『ファーム』

2014.09.15 Vol.626

 劇作家・演出家・俳優の松井周が主宰するサンプルの1年ぶりの新作。今年これまで2本の再演を行ったなかで、松井は「人間が会話することを面白く見せたい」という思いに至った。そして今回、松井が手がけたのは会話劇。
 作品を作るにあたり松井は視点を変えることで、平凡な事象をまるで見たことのないような、考えもつかないような物語に仕立て上げる。

 今回はブタの身体の中で人間の内臓を育てる実験が始まったという新聞記事をきっかけに、常識を守りつつも、疑い、新しい常識を作ろうとする人間たちの物語を描くという。

 毛皮族の町田マリーが初出演。サンプルとはある意味、真逆なステージで活躍してきた彼女が加わることで作品にどのような影響を与えるのか。そして音楽として、即興演奏で知られるHOSEの宇波拓を迎える。こちらも新しい試み。いつもとは違った風景を見ることができそうな予感。

今週は客演の妙が楽しめる豪華3本立て!!
ナイロン100℃ 42nd SESSION『社長吸血記』

2014.09.15 Vol.626

 KERAの劇団では約2年ぶりとなる完全新作書き下ろし。タイトルだけみると完全にホラーだが、そういうわけではないらしい。

 社長というものは劇団主宰者に似ているに違いない、という発想から、とある会社で社長が行方をくらましたことによって起こる些末な騒動を中心に描く。KERA曰く「コメディーでありながら『血を吸うような権力者』の記録」といった感じのお話。

 今回は客演として、さまざまな舞台で活躍中の鈴木杏がナイロン100℃初登場。そして個性派のバイプレーヤー山内圭哉が5年ぶりにKERA作品への参加となる。

 加えて「キングオブコント2013」の優勝者である「かもめんたる」の岩崎う大と槙尾ユウスケが俳優として出演するのも注目。KERA自身、かもめんたるのことはかねてから注目していたという。この出会いによって作品にどんな刺激が与えられるのか。

今週は客演の妙が楽しめる豪華3本立て!!
T Factory『生きると生きないのあいだ』

2014.09.15 Vol.626

 川村毅は2010年に演劇活動30周年を迎え、初期の代表作といわれる『新宿八犬伝』全5巻を完結した。それ以降、劇作家として新しい文体を模索するため、自身の作・演出による舞台創作を休んでいたのだが、3年間の時を経て、今回新作を書き下ろし、その演出を手がける。

 主演に柄本明。川村とは舞台では初めての出会い。1991年に川村が監督した映画『ラスト・フランケンシュタイン』では主演を務めたのだが、当時はそれぞれの劇団である東京乾電池と第三エロチカのカラーが違いすぎ、舞台で一緒になることはなかった。それから24年が経って、やっと2人が舞台で対峙するというのも興味深い。

 柄本演ずる便利屋ハリーのもとにはさまざまな相談事が持ち込まれる。ある日突然、ここで働きたいという若者ジョニーがやってくる。どうせすぐに音を上げるだろうとジョニーを助手として雇ったハリー。この2人のもとにはまさに「生きる」と「生きない」の間をさまようさまざまな人物がやってくるのだった。

 もう一人の中心人物であるジョニーを演じる川口覚はさいたまネクストシアターの中心俳優だった今注目の若手俳優。

 また最近の川村作品では欠かせない存在である手塚とおるが映像で出演。こちらは隠し味的に楽しめるかも。

ピンターの作品を長塚圭史が手がける

2014.08.31 Vol.625

 阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史のソロプロジェクトである葛河思潮社。立ち上げ以来、三好十郎の戯曲を上演してきたのだが、今回はハロルド・ピンターの『背信』を上演する。

 ピンターはイギリスの劇作家で、映画の脚本も手がける。『フランス軍中尉の女』『日の名残り』と聞けば、ちょっとは身近な感じがするかもしれない。

 彼の作品は表面上はシンプルな劇構造を取りながら、その内側に凝縮された強い圧力を持つ感情が秘められているといったもの。その作品を多く手がけるデヴィッド・ルヴォーに言わせると「ピンターの作品は日本で上演するのに適している」のだそうだ。

『背信』は1人の女と2人の男による不倫劇。劇が進むにつれて時間が逆行していくという構造を取る。観客には劇が進み、時間がさかのぼるにつれ結果に対するプロセスが提示されるのだが、その過程で「背信」という言葉の意味が揺らぎ始める…。

野田秀樹の戯曲を気鋭の演出家が演出するシリーズ第3弾

2014.08.30 Vol.624

 国境も時代も、ときにはジャンルさえも超えて活躍し続ける演劇人・野田秀樹。本公演は、そんな野田の独自性に満ちた名戯曲の数々を気鋭の演出家たちが演出するシリーズの最新版だ。 

 野田作品は野田以外が演出を手掛けることが稀で、また再演の機会も少ない。そのため、このシリーズはスタート当初から演劇ファンを始め、多くの人から注目を集めてきた。これまで、松尾スズキ演出の『農業少女』(2010年)、マルチェロ・マーニー演出の『障子の国のティンカーベル』(2014年)が上演され、どちらも大成功のうちに幕を下ろしている。

『小指の思い出』は、野田が主宰し、日本の演劇シーンに新たな潮流を生み出した劇団・夢の遊眠社中期の傑作。車にあたって金をせしめる「当たり屋」を生業としている男女の物語と、ニュールンベルグの魔女狩り・地下牢に幽閉された少年の中世の物語が交錯し展開する物語だ。

 本公演で演出を手掛けるのは、注目度が急上昇、今後の演劇界をけん引していく演出家の1人とされる藤田貴大(劇団・マームとジプシー)。『小指の思い出』は中学生の時にビデオで見たといい、彼の原点ともいえる作品への挑戦でもあ
るだけに、期待も高まる。

 もちろん出演陣も豪華だ。シリアスな役柄から『あまちゃん』の前髪クネ男役などユーモラスな役まで見事に演じ切る勝地涼を始め、現代アートから舞台まで多岐にわたる活動をくり広げる鬼才・飴屋法水、マームとジプシー旗揚げから劇団に参加している青柳いづみ、さらには舞台・映像等で独特の存在感を発揮する松重豊ら個性的な役者陣が揃う。

 野田秀樹と気鋭の演劇人のコラボ。舞台上で起きる化学反応が楽しみだ。

とことんこだわるのが関西流!?『こわくないこわくない』クロムモリブデン

2014.08.17 Vol.624

 作・演出の青木秀樹はその時々の社会問題をそっと作品に忍ばせ、見る側にちょいちょいいろいろなことを考えさせてくれる。声高な主張ではなく、すれ違いざまに囁くような、いわば気づきを与えてくれる。高い問題意識のわりに控えめな自己主張が心地よい。

 今回は“子供が普通とは違った育てられ方をしたらどうなるのか”という発想から生まれた作品。
 物語は子供のできない夫婦が、隣の空き家で謎の子供を見つけたところから始まる。子供の後をつけて行くと、やがてネグレクト(育児放棄)された子供たちが集められて生活を送っている地下室にたどり着く。何とか地下から子供を連れ出した夫婦だったが、今度は謎の集団にさらわれることになり…。

 時節柄、九州のほうで起こった事件を想起させてしまうのだが、脚本はもっと前にできているので基本的には関係なし。でも作品のテーマからまたいろいろと考えさせられそう。

とことんこだわるのが関西流!?『ビルのゲーツ』ヨーロッパ企画

2014.08.17 Vol.624

 初めて舞台を見る人に何を勧めるか——という悩みを持つ人も多いだろう。その点、このヨーロッパ企画は最適な劇団なのでは?

 その作品は、トリッキーな劇構造に、ごく普通の日常会話を積み重ねてコメディーへと昇華させる。

 舞台の設定と構造がとにかく絶妙。そこでどんな切羽詰まった状況に置かれても、なにかおかしみがにじみ出る登場人物たちが繰り広げるゆる〜い会話がつぼにはまる。アドリブに聞こえるところも、実は脚本通りというくらいのナチュラルさなのだ。

 今回はタイトルを見ると某マイクロソフトの創業者が出てきそうなのだが、さにあらず。建物のビルディングに出入りするときにカードなんかをかざすゲートがあるが、そのへんにまつわるエピソードで物語は展開していく。

 作・演出の上田誠曰く、今回の作品は「ゲートコメディー」とのこと。ここしばらく続いている「企画性コメディー」の第4弾だ。

 なにやら思わぬ仕掛けに翻弄される登場人物たちの右往左往っぷりが目に浮かぶ。

 今では各メンバー多忙につき、本公演が年1回になっているので、ここを逃すと来年まで見られないということも忘れずに!

岸田戯曲賞受賞者による2本の作品 はえぎわ『ハエのように舞い 牛は笑う』

2014.08.03 Vol.623

 今年で15周年を迎えたのだという。旗揚げから数年は“とがった”とか“奇抜な”という言葉で形容される作品が多かった「はえぎわ」。というかノゾエ征爾。それがいつのころからか、見る者に人生を深く考察させるような作品が増えてきた。

 こう書くと年齢とともに角が取れて丸くなったような印象を受けるかもしれないが、そんなことは決してない。人間、根っからの奇抜さはそうそう抜けるものではないわけで、そういった部分は作品中の所々で顔を出す。

 かつては作品中にまんべんなく散らばっていた奇抜さが、今ではひとつ所に集中しているとでも言おうか。この成熟した奇抜さとベーシックな部分が絶妙に並び立つことによって、互いを際立たせているといった感じ。

 本作は「はえぎわの、新たな一歩の最初の一歩」となる作品という。さて、ここからまたどんな歩みを見せてくれるのか。

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