2007年、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が岸田國士の短編8作品を再構築し、ひとつの作品として上演した。その『犬は鎖につなぐべからず』は脚本的にも舞台上の風景的にも、それまでのナイロン100℃の作品とは一線を画すもので、大きな話題を呼んだ。
そして今回、7年ぶりに岸田戯曲のコラージュに再度挑む。表題作の『パン屋文六の思案』のほか『遂に「知らん」文六』『かんしゃく玉』『恋愛恐怖病』など、7編の戯曲がKERAの手によって80年以上の時を経てよみがえる。
前作に引き続き、衣裳監修にモダン着物のカリスマ・豆千代、振付には脱力ダンスの名手・井手茂太を招き、再びの和装劇を展開。また1994年の『NEXT MYSTERY』以来、約20年ぶりに観客に“ニオイカード”を配布。視覚、聴覚に加え、嗅覚でも観客を「KERA×岸田ワールド」に誘い込む。
STAGEカテゴリーの記事一覧
もう一度見たかった作品が座・高円寺で立て続けに再演
虚構の劇団『グローブ・ジャングル』
作家・演出家の鴻上尚史が若い俳優たちと自らの演劇感を共有しながら作品を作り上げるために結成した「虚構の劇団」。10回目の公演となる今回は旗揚げ作品を再演する。
舞台はロンドンの日本人コミュニティー。ここには、ネット社会で傷つけられた女、仲間が離れていってしまった元劇団主宰の男、かつて遊具を販売していたという男、新しい自分を演じるためにブログを始めた俳優志望の女、自殺をした男、といったさまざまな人間たちが集まってくる。そんな彼らが出会い、それぞれの人生の目的が明らかになることで物語は進展していく。
初演からは引き続き5人の劇団員が出演。この6年の間、劇団公演はもとより、外部出演でも実力を磨いてきた彼らが、作品をどうブラッシュアップしてくれるのか。
そして今回は「劇団鹿殺し」のオレノグラフィティ、「月刊 根本宗子」の根本宗子といった小劇場という枠を越えて活躍する2人が客演。2人が鴻上の作る世界でどう輝けるのかにも注目が集まる。
もう一度見たかった作品が座・高円寺で立て続けに再演
遊園地再生事業団プロデュース『ヒネミの商人』
作家・演出家の宮沢章夫が主宰する遊園地再生事業団の、伝説の作品といっても過言ではない『ヒネミの商人』が21年ぶりに再演される。
架空の今は存在しない「ヒネミ」という町にある小さな印刷屋でのやりとりが描かれている物語。特に劇的なことが起こるわけではないのだが、「喪失」とか「記憶」といった言葉が胸にしみてくる作品だ。
宮沢は当時、シティボーイズ、いとうせいこう、竹中直人、中村ゆうじらと結成した「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」での活動を終え、遊園地再生事業団を結成。劇作家、演出家として新たなスタートを切ったところ。旗揚げ公演の『遊園地再生』ではラジカルとは一線を画した作品を発表し、ファンを驚かせていた。
ちなみに宮沢はひとつ前の作品『ヒネミ』で、岸田國士戯曲賞を受賞している。この戯曲は出版されているので、観劇前に一読しておくとより作品への理解が深まるかもしれない。
斬新なキャスティングにひとまず目をひかれる『フローズン・ビーチ』
ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が1998年に書き下ろし、岸田戯曲賞を受賞したこの『フローズン・ビーチ』は、日本の演劇史上における「シリアス・コメディーの代表作」とまでいわれる作品だ。
舞台は不穏な空気が漂う南海の孤島。モダンな別荘に5人の女たちが集まった。家の主である双子の姉妹・愛と萌、継母の咲恵、愛の友人の千津とその友人の市子。それぞれの思惑が交錯する中、起きたのは殺人と事故死、行き違いと思い込み。その8年後、再び別荘に4人の女が集い、またしても復習と殺人が起こる…。
過去にナイロン100℃で1998年(初演)の後、2002年に再演されて以降、上演されることのなかったこの作品を石田えり、松田美由紀、渡辺真起子、山口美也子という斬新なキャストで送る。
1月に横浜でプレビュー公演を行い、全国を回ったうえでの東京公演。
斬新なキャスティングにひとまず目をひかれる『荒野のリア』ティーファクトリー
今年がシェイクスピアの生誕450年のメモリアルイヤーとなることから、吉祥寺シアターでは昨年から、若手からベテランまでさまざまなラインアップでシェイクスピアの名作を上演する「シェイクスピアシリーズ」を展開中。
今回は川村毅が『リア王』を手がける。この作品は老王リアと3人の娘の物語というイメージが強いのだが、リア同様に子供たちに裏切られた、また裏切られたと誤解する、リアの重臣グロスターと息子たちの物語も綴られている。今回はリアとグロスターを中心に三幕以降を原作に忠実に上演していくという。
リアを演じるのは大駱駝艦の麿赤児。その佇まいから受けるぴったり感は半端ないのだが、実は麿がシェイクスピア作品のタイトルロールを務めるのは今回が初めて。そしてグロスターを演じるのは、最近の川村作品には欠かせない存在である手塚とおる。
麿と手塚の絡みが魅力的なのはもちろんのこと、道化を演じる有薗芳記ら存在感のありすぎる役者たちが揃って、そうそうお目にかかれない濃厚な舞台となりそう。
シチュエーションは違えどどちらも楽屋が舞台の作品
こまつ座 第103回公演『化粧』
今年30周年を迎えるこまつ座。このメモリアルイヤーに際し、昨年から特に再演希望の多い作品を上演してきたが、今回は井上ひさしが初めて書き下ろした一人芝居である『化粧』を上演する。
舞台はさびれた芝居小屋の寂しい楽屋。そこにいるのは大衆劇団「五月座」の女座長・五月洋子。本番前の慌ただしい楽屋に、昔、洋子が泣く泣く捨てた一人息子と名乗る人物が訪ねてくる。そして息子との再会と、洋子の十八番である母もの芝居『伊三郎別れ旅』の話が重なり合っていく。
この作品は、1982年に地人会の企画で上演、国内外で600回以上公演されてきた。
こまつ座では2011年に文学座の看板女優・平淑恵を迎え初めて上演。演出の鵜山仁は台本を大胆に新解釈。全く新しい「女座長・五月洋子」を作り上げ、全国各地で94回もの公演を行った。
劇中劇で大衆演劇を演じたり、実際には舞台には存在しない多くの登場人物を配するなど、観客の想像力を刺激する傑作戯曲だ。
シチュエーションは違えどどちらも楽屋が舞台の作品
ドリルチョコレート『あの世界』
最近ではテレビドラマ、ラジオドラマの脚本などにも活動の場を広げている、作・演出家で役者でもある櫻井智也のプロデュースユニット。
本作は2013年2月に上演された櫻井と有川マコトによるプロレスの控室を舞台にした二人芝居『真ドリル』の登場人物を増やしての改訂版にあたる作品。
平成26年3月、平成の「力道山vs木村政彦」と呼ばれる試合が後楽園ホールで行われようとしていた。その控室、片方の当事者である有川マコトの横にはかつて有川のタッグパートナーで、現在は引退し実家の駄菓子屋をたまに手伝っている櫻井の姿があった。試合まで1時間半、なのに2人はつまらないことで口論を始める。そこへ謎の女アニータとプロレス記者がやってきて話はこじれる一方に…。
虚実入り混じり、奥が深いのか浅いのかも判断が難しいプロレスをリスペクトしつつもいじり倒す。プロレス好きならはまる一本。よく知らない人もきっとプロレスが好きになる!?
ありそうでなさそう、現実と架空の世界を行ったり来たり
ちょっと変わった設定の中で繰り広げられる絶妙な会話劇が鉄板のMONO。
その変わった設定というのも、刑務所の中に突然に領土問題が発生したり、窃盗団の飛行機の中の話だったり。こう聞くと突飛な設定のようにもみえるが、幕が上がって芝居が始まると、俳優たちの佇まいがそう思わせるのか、なんとなくありそうな設定に思えてしまうから不思議だ。
今回の舞台はビルの天井裏。そこで「のぞき」をして過ごす人々のお話。
その天井裏には他の社員が知らない部屋がある。会社をリストラされたと思われている数名の社員が天井裏から社内の様子をのぞいていた。彼らは社長直属の「諜報課」だった。
登場人物たちはのぞくだけで、決してメーンストリームには加われない人たち。
この構造はまさに現代のネット社会を模したもので、外野から罵詈雑言を浴びせる人たちの気持ち良さと惨めさが入り混じった不思議な感覚が描かれる。
そう言われると見終わった後に自分がどんな気分になるのかも、ちょっと気になる!?
ありそうでなさそう、現実と架空の世界を行ったり来たり
「岩松了シリーズ」や松尾スズキ、倉持裕といった演劇界を代表するような作・演出家との一連の作品など、さまざまなプロデュース公演を手がけるM&Oplaysが今年から明日の演劇界を担う若い才能を育てるシリーズを開催。その第一弾となる。
今回は第56回岸田國士戯曲賞を受賞したノゾエ征爾を作・演出に起用。主演に大人計画の荒川良々を迎える。
話はある男の人生。男は「たいくん」という舞台や映像で活躍する有名俳優。演じるのは荒川。たいくんが“今現在”を基準にちょっと前のことやちょっと先のこと、かなり過去のことやかなり未来のことを語り始める。たいくんの人生には印象深い7人の男たちがいて、そんな男たちとのエピソードが非情でありながらたっぷりのユーモアを混じえた形で綴られる。
たいくん≒荒川?といった雰囲気を漂わせる部分もあり、フィクションとノンフィクションを行ったり来たりする。この絶妙なふわふわ感はノゾエならでは。
赤堀雅秋、小野寺修二といった個性的な俳優たちが7人の男たちを演じるのも興味深い。
STAGE クラシックな作品からアバンギャルドな作品まで
東京乾電池『チェーホフの「かもめ」』
『かもめ』はチェーホフの四大喜劇のうちのひとつで、作者自身の身辺に起きたことがいくつも盛り込まれ、「最も私的な作品」といわれているもの。
東京乾電池では22年前の1991年から4年間でチェーホフの四大喜劇を上演。その22年前にアルカージナを演じた角替和枝が今回は演出を担当する。
作家志望の青年トレープレフと女優を夢見る恋人ニーナを通して懸命に生きながらもすれ違っていく若者たちの姿を描いていく。
トレープレフとニーナはトレープレフの母である女優アルカージナとその恋人で流行作家のトリゴーリンに翻弄され、互いの生き方を変えられていく。トリゴーリンにひかれたニーナはトレープレフのもとを離れ、やがて女優となる夢をかなえていく。トレープレフも小説家としての夢をかなえ、そしてついに二人は再会するのだが…。
トレープレフにはCM映画などでも活躍中で、最近では東京国際映画祭出品作『なにもこわいことはない』や李相日監督の『許されざる者』などの話題作にも出演する岡部尚、ニーナは劇団入団当初から座長の柄本明の期待も大きい松元夢子が務める。
柄本は今回は舞台美術として参加する。
【日時】1月7日(火)〜12日(日)(開演は7日19時、8〜11日14時/19時、12日14時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)【会場】ザ・スズナリ(下北沢)【料金】全席自由 前売 3000円/当日 3500円【問い合わせ】東京乾電池(TEL:03-5728-6909=平日11〜18時[HP]http://www.tokyo-kandenchi.com/)【作】A・チェーホフ【演出】角替和枝【出演】宮田早苗、松元夢子、岡部尚、嶋田健太、谷川昭一朗、伊東潤、吉川靖子、山地健仁、吉橋航也、麻生絵里子、鈴木千秋、飯塚祐介、川崎勇人
STAGE 12月はスズナリ三昧!?
モダンスイマーズ『死ンデ、イル。』
作・演出を担当する蓬莱竜太の作る作品は人が生きていく中で避けることのできない機微、宿命、時代性にあふれている。
その物語は時に重々しく、時に切ない。登場人物たちの背負わされた業の深さに、思わず前のめりになってその世界に引きずり込まれる感覚だ。
今回は消えてしまった「彼女」をめぐる物語。その「彼女」を演じるのは新劇団員となった坂田麻衣。劇団としては“無骨な男たちの集団”というイメージがあった彼らだが、今回初めて新劇団員として女優を迎えた。
これまで大規模なプロデュース公演や映像の世界での経験をホームである劇団公演にフィードバックしてきた蓬莱。劇団員としての女優の誕生で、製作過程に置いてより幅広い選択が可能になるに違いない。
また今回の公演から「より多くの方々にモダンスイマーズを、演劇を、知ってもらいたい」という思いからチケット代を一律3000円とするという大きなチャレンジを始めた。「一度演劇を見て見たかった」なんて人はもちろん、チケット代高騰でついつい演劇から足が遠のいている人にも朗報だ。
古山と小椋がWキャストでの出演となるので両バージョンを楽しんでもらいたい。
【日時】12月12日(木)〜22日(日)(開演は平日19時30分、土日15時。18日(水)と20日(金)は15時の回あり。21日(土)は19時30分の回あり。開場は開演30分前。当日券は開演の45分前)【会場】ザ・スズナリ(下北沢)【料金】全席指定 3000円【問い合わせ】モダンスイマーズ公演事務局(TEL:070-5556-2722[HP]http://www.modernswimmers.com/)【作・演出】蓬莱竜太【出演】古山憲太郎、津村知与支、小椋毅 西條義将、坂田麻衣【客演】松本まりか、西井幸人、宮崎敏行/高田聖子