今年は春に久々の新作本公演となる『ウェルカム・ニッポン』を大人計画メンバー総出演で行い、夏には代表作でもある伝説の作品『ふくすけ』の再演と精力的な活動を見せた松尾スズキが初めての一人芝居に挑むという。
その役柄は100歳を超える長寿のオカマ。その人生は日本の近代史に立ち会い生きてきた壮大な一代記。彼と出会った大勢の人々の証言により、彼のめくるめく人生と人物像が浮かび上がってくる。
そのさまざまなタイプの証言者たちを松尾が一人で演じる。また、阿部サダヲ、宮藤官九郎といった大人計画の面々が映像で出演する。
もちろんのことながら前売り券は速攻で完売。でも当日券はある。電話販売のスタイルなので、師走の予定が立たない人でも頑張ればなんとかなる!?
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STAGE 会場にとどまらない常識破りの見世物ミュージカル
2013年に「没後30年」を迎える寺山修司の作品を今年から3年間、11月に豊島公会堂で連続上演するというプロジェクトが始まった。これは区政施行80周年企画として豊島区と流山児★事務所との共催という形で行われるビッグプロジェクト。
この作品は1973年に市街劇として高円寺の公園で上演されたもの。今回は豊島公会堂にとどまらず、その手前にある中池袋公園をも舞台に見世物ミュージカルに変容させ上演する。劇は公園から始まり、その後、観客は豊島公会堂に移動する。なので観客は開演時間の10分前までに公園に集合とのことで、くれぐれも最初から劇場の席に座って待つことのないようにしたい。
天井桟敷の初演時には俳優たちが高円寺の街中を駆け巡った。今回も“アパートから一人の「銭湯帰りの青年」があふれ出した”という物語を軸に、登場人物たちが池袋の街を疾走する。
この街を巻き込んでの偶発劇。思わぬハプニングが飛び出すかもしれない破天荒な作品となる。
STAGE これぞ”演出の妙”。短篇集のつもりで見ていると…
主宰の前川知大は今春、「第63回読売演劇大賞」で、大賞と最優秀演出家賞を受賞した。読売演劇大賞といえば、その規模や歴史、過去の受賞者で判断する限り、演劇界の数ある賞の中でも今や最高峰にあるといっても過言ではない。
これまでは “リアリティーのあるSF”といった感じの、その特異な物語性や設定で、前川の作家としての評価に目が行きがちだったのだが、改めて演出、俳優を含めて、10年間イキウメがやってきたことが高く評価されたうえでの受賞だった。
今回は短篇のセレクションという形で2006年から始まり、これまで3作が上演されている『図書館的人生』からの選り抜きを「まとめ」として上演する。各々独立している短篇ながら、最終的には“図書館的人生”というコンセプトのもと「あれっ?」という感じで、最後にはあたかも一つの長篇だったかのように収まっていく不思議な作品。
前回公演では演出を小川絵梨子に委ねていたので、前川としては1年ぶりの演出。その“演出の妙”を感じるには最適な作品なのかもしれない。
STAGE 『木枯らし紋次郎』の枯れた世界観を現代にもってくる
猫のホテルも今年でかれこれ結成23年目になるという。
この間、外れのない作品を上演し続け、やがて劇団員たちは外部公演や映像の世界からも引っ張りだこ。そんななかでも年に1回フルメンバーで公演を打っていたのだが、あまりの多忙さに昨年公演の『わたしのアイドル』からは全員の出演にこだわらないスタイルに転換した。
といっても決してパワーダウンというわけではなく、その昨年公演からは主宰の千葉雅子が「やりたいこと」としていた3つの題材を作品化。一つ目は女優二人芝居。二つ目の今回は、幼いころに強烈な印象を植え付けられた時代劇『木枯らし紋次郎』の枯れた世界観をモチーフに天涯孤独な境遇に墜ちた男のギリギリの道行きを描くという。
国会議員としてはロクなもんじゃない谷口は、秘書の向井にいいとこ取りされる日々。巻き返そうと恩師の縁の地である寒村へ向かう谷口。しかしそこはとんでもない無法地帯だった。そしてならず者たちの飽くなき勝負が始まる…。
勧善懲悪の展開が主流の時代劇の中でも異質な『木枯らし紋次郎』の世界観を果たしてどう見せてくれるのか。そして結成23年のベテランたちの新たな取り組みに注目したい。
STAGE 「不寛容」をテーマに”今”を描く
鴻上尚史が自身の演劇観を若い俳優と共有しつつ作品を作り上げていくために、そして鴻上尚史が「いま」描きたいものを描くために旗揚げしたのがこの虚構の劇団。今年で5年目を迎えるのだが、現在のさまざまな事象を切り取った問題作を次々と上演してきた。
そんな鴻上が今回選んだ作品のテーマは「不寛容」。
「社会」「学校」「家族」「友人」「コミュニティー」「世間」といった我々を取り巻く枠組みと、個人のアイデンティティの不和が生み出す現代の歪みから発生する事件が後を絶たない現在。その原因は「受け入れない気持ち」とか、「過剰な防衛本能」といった、まさに「不寛容」を起点とする感情から生まれている。
なるほど「不寛容」というキーワードで日々のニュースを眺めると、いつもとは違って見えたり、見方が全然変わったりする。常に新しい視点でものを眺めるきっかけをくれる鴻上と虚構の劇団。さて、このテーマのもとどのように“今”が描かれるのだろうか。
今回は、今年4月には鴻上の手を離れ、木野花との番外公演を経験した劇団員たちに新人劇団員も加わり、着実にパワーアップしたキャストにも期待が高まる。
STAGE 不器用な人間たちが繰り広げる日常にいい意味でイライラ
真面目に生きれば生きるほど周りから見ると滑稽に映る、感情が行きすぎた場合の怖さとおかしさ、平凡と思われていた人が時折見せる異常な行動……一皮むけると人間とはなんと面白いものなのか。ここの登場人物たちを見ているとこんな感想が浮かんでくる。そして、そんな不器用な人間たちが繰り広げる日常を、ちょっとばかりの刺激と不愉快なエピソードを織り交ぜて描き出す——劇26.25団はそんな劇団。
今回の舞台は関東の外れにある小さな町。弁当屋を営む女とその娘の暮らす家に、ある日、娘と異母兄弟の男がやってくる。3年ぶりの再会。実は女と男はある秘密を共有しており、男はある決意をここに持ってやってきたのだった…。
重苦しいエピソードや人間の不気味な習性で“重さ”を描くことが多いのだが、今回はその重さをよりリアルな出来事で表現。よりイライラさせられそうな——そんなところにも思わず期待してしまう。
STAGE 天童荒太の直木賞受賞作を堤幸彦×向井理で完全舞台化
作家・天童荒太の第140回直木賞受賞作である『悼む人』が完全舞台化される。全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける主人公を巡り、その悼む旅に随伴するさまざまな者たちのドラマを描いたこの作品。善と悪、生と死が交錯する至高の愛の物語だ。
主人公の“悼む人”を演じるのは向井理。ドラマ、映画といった映像作品でひっぱりだこの向井は2011年以来の貴重な舞台出演。向井をはじめ小西真奈美、手塚とおる、真野恵里菜、伊藤蘭と揃った出演者は、原作ファンを納得させられる絶妙なもの。演出は映像、舞台にとらわれずさまざまな分野で活躍中の堤幸彦。堤は天童の『包帯クラブ』の映画でも監督を務めた。脚本にはNHK大河ドラマの脚本も手掛ける大森寿美男。天童作品初の舞台化というだけでも注目が集まるところだが、キャスト・スタッフとも豪華な顔触れ。この秋、最も注目を集める作品といっても過言ではない。
東京公演は当日券は出るが、前売りは完売。しかしKAAT神奈川芸術劇場で行われる横浜公演(12月7〜9日)は11月3日からチケット発売。ぜひチャレンジしたいところだ。
STAGE 俳優とサーカスと音楽家が集結したなんとも想像のつかない舞台
『ファウスト』といえばゲーテの代表作とされる作品。ファウストは実在したといわれているのだが、ゲーテが『ファウスト』の題材にした、もともとのファウスト伝説が書かれている民衆本に興味を持った串田和美が自らの解釈で新たな『ファウスト』を作り上げた。
この民衆本を題材に串田は2008年に『ウル・ファウスト』、2010年に『Faust in Chino』とワークショップを開催。この〈ファウストプロジェクト〉のなかでさまざまな演劇的実験を行い、今回の本格上演にこぎつけたもの。
今回の『K.ファウスト』を一言で表すと、「芝居・サーカス・音楽が融合する見世物小屋的道化芝居」。
俳優はもちろんとして、サーカスパフォーマー、音楽家と多ジャンルから多くの個性的なアーティストが集結し、雄大な叙事詩が展開される。
ファウストとメフィストフェレスを演ずるは笹野高史と串田和美。物語の語り部的道化師カスペルに小日向文世と自由劇場時代から串田作品に出演している実力派が揃った。
そして音楽監督には、アコーディオニストのcoba。
なんとも想像のつかない舞台になりそうな予感。
STAGE 主演が黒沢あすか(女)から菅原永二(男)にまさかの変更!!
2006年に初演され、鶴屋南北戯曲賞を受賞した代表作が待望の再演。
舞台は放課後の職員室。教師が談笑しているところへ一人の保護者がやってくる。その保護者の息子は数週間前に自殺未遂をはかり、今も意識不明。母親はそれを担任の責任だと言い張り、毎日学校に乗り込んでくるのだった。謎が疑心暗鬼を呼び、放課後の職員室は修羅場と化していく…。
劇団員は主宰の本谷有希子一人の「劇団、本谷有希子」は出演者は全員客演とあって、そのこだわりのキャスティングにはいつも注目が集まる。
今回は当初、黒沢あすかが主役の女教師「里見」を演じることとなっていたのだが、初日まで1カ月を切ったところで体調不良のため降板。代役にはなんと菅原永二が起用された。大ピンチのはずなのだが、女性の主役に男性を起用するという大胆な試みに、ついつい「見たい」という興味をそそられる。
出演者変更に伴う払い戻しはあるようだ。黒沢ありきでチケットを買った人もいるだろうからそれもやむなしだが、通常だったら見られないレア感たっぷりな作品になることは間違いないだけに、払い戻しなんて野暮なことはしないでそのまま見にいくべき。
劇団鹿殺し『田舎の侍』
鹿殺しは昨年から今年にかけては、本多劇場、青山円形劇場、そして紀伊國屋ホールといった中規模な劇場で作品を発表。大きくなった舞台空間をもてあますこともなく、劇場の規模が少々大きくなっても変わることのない熱量で観客にビシビシ迫ってきた。むしろ縦横無尽さに拍車がかかり、そのダイナミックなステージングには貫禄すら漂っていた。そんな彼らが久々に駅前劇場に帰ってくる。
今回は持ち前のロックオペラに時代劇を載せる。派手で熱い舞台になるのはもちろんだが、そんななかでも作家の丸尾は、名はなくとも侍として生きた人たちが「どう生き、どう死んだか」に着目し、侍的な生きざまを描いていく。
最近は大物の客演を呼び、その新たな魅力を引き出す演出も高い評価を得ている。今回は元唐組の丸山厚人、コンドルズの山本光二郎、ファントマの元看板女優・美津乃あわが出演。また新たな一面を見せてくれるに違いない。
『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』
THE SHAMPOO HATの作・演出を務める赤堀雅秋が書き下ろし、演出に河原雅彦という豪華な顔合わせが実現する。興味津々な組み合わせだ。
赤堀はその作品では、人間が思わず目を逸らしてしまうような人間のダメな部分や闇の部分をごく自然に描き出す。でもそれは実は誰の心の奥底にも潜んでいる部分なわけで、地味なストーリーながらもぐいぐいと、その脚本の世界に観客を引き込んでいく。演出を務める河原はその幅広い活動っぷりから過激で扇情的な演出家というイメージを持たれがちだが、実は脚本の世界観を損なうことなく独特の演出を施す職人肌の面も併せ持つ演出家。
2人のパブリックなイメージからは、ひとまずは「どういう作品になるのか…?」との思いが先に立ちそうだが、お互いに新たな面が引き出されるような、そんな予感のする作品だ。
舞台はとある地方都市の寂れた町。この静かな町で発生した「飼犬連続殺害事件」を軸に、普通の人々の淡々とした日常と、鬱屈した感情が描かれる。