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KOKAMI@network vol.11 『リンダ リンダ』

2012.06.11 Vol.555
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 KOKAMI@networkは鴻上尚史が、第三舞台、虚構の劇団とは別の場で、さまざまな人たちと出会い、公演するために作ったユニット。  今回は2004年に上演された音楽劇『リンダ リンダ』の再演。当時、ABBAの楽曲だけで構成されたミュージカル『マンマミーア』に刺激を受けた鴻上が作った作品で、ザ・ブルーハーツの名曲が全編に散りばめられた本作は日本版カタロミュージカルの走りとなった。「世界的に名の知られたミュージカルはすべて再演され、ブラッシュアップを繰り返しながら成長していくもの」と語る鴻上にとっても待望の再演だ。  存亡の危機を迎えたロックバンドが仕掛ける無鉄砲な計画に、人生に区切りをつけたい人々が次々と巻き込まれていく。ザ・ブルーハーツの楽曲のもと、夢見る時期を過ぎても、夢を見続けたいと決意した人たちの物語。  8年間の時間を経て、登場人物のロッカーたちを取り巻く状況も変わった。衝撃のラストは、世相を鑑みて、より衝撃的に書き直されたという。  主演はこの作品が舞台デビュー作となったSOPHIAの松岡充。今ではブロードウェイミュージカルの主役を務めるほどに成長した姿を見せてくれるはず。

【日時】6月20日(水)~7月22日(日)(開演は平日18時30分、土13時30分/18時30分、日13時30分。5日(木)は13時30分の回あり。16日(月・祝)は13時30分の回のみ。25・3・10・17日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】紀伊國屋サザンシアター(新宿) 【料金】全席指定 一般8400円、U-25 6000円(25歳以下、当日指定席引換・要身分証) 【問い合わせ】サードステージ(TEL:03-5772-7474 〔HP〕http://www.thirdstage.com/knet/lindalinda2012/) 【作・演出】鴻上尚史 【出演】松岡充、伊礼彼方、星野真里、丸尾丸一郎/田鍋謙一郎、岸博之、佃井皆美、三上陽永、小沢道成、大杉さほり、恩地徹、本多剛幸、明石鉄平/高橋由美子、大高洋夫

表現・さわやか『ロイヤルをストレートでフラッシュ!!』

2012.06.11 Vol.555
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 舞台や映像での俳優としての活動はもとより、最近では映画の脚本、コラムといった執筆活動でも活躍中の池田鉄洋が主宰するコントユニット「表現・さわやか」の約1年ぶりの公演。  実は池田は「表現・さわやかの活動に専念したい」と約20年所属していた猫のホテルをつい最近退団したばかり。今回はいつもの苦笑系コントを発展させ、ストーリーもしっかり盛り込んでいく。それに加えてミュージカル要素も取り入れて華やかに!と意欲あふれる作品となった。  舞台は定時制高校。そこは札付きのワル、仕事帰りのサラリーマン、ワケアリな女といった曲者が集う場所。その中に......ただ単純に家が貧乏で働かざるを得ない純朴な青年や、ただ単純に頭の悪い青年や、ただ単純に運の悪い青年がいた。そして彼らはみんな童貞だった。ある日クラスに、ものすごい美人が転入してくる。騒然となるクラス。しかしその美人には秘密があった...。  ショー的要素がふんだんに詰まった作品とあって、NHKエデュケーショナルの人気番組『みいつけた』でオフロスキーというキャラクターを演じ、そこでオリジナルの曲を作詞作曲し歌っている小林顕作をゲストに迎える。また前回公演で思わぬコメディエンヌぶりを発揮した及川奈央が連続出演。

【日時】6月24日(日)~ 7月1日(日)(開演は24~29日19時、30日14時/19時、1日14時/17時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】本多劇場(下北沢) 【料金】全席指定 前売4800 円、当日5000 円/フレッシュ券(22 歳以下・劇団のみ取扱い)3500 円 【問い合わせ】Little giants(TEL:090-8045-2079=平日12~19時 〔劇団HP〕http://h-sawayaka.com/) 【作・演出】池田鉄洋 【出演】小林顕作/佐藤真弓、いけだしん、村上航、岩本靖輝、伊藤明賢、池田鉄洋/石毛セブン、ぽんず/及川奈央

麿赤兒

2012.06.04 Vol.554

大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演『ウイルス』

世界の舞台芸術の中でも異才を放つ、日本の"舞踏"。その中でも国際的評価の高い大駱駝艦を率いる舞踏家・麿赤兒(まろ あかじ)が、創立40周年公演作品を語る!
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撮影・宮上晃一

 今や海外でもよく知られている、日本の前衛的舞台芸術・舞踏。舞踏というと白塗り、剃髪、不思議な動きといった言葉で語られるが、ときとしてそこに"スペクタクル"が加わるのが大駱駝艦の舞台だ。しかし今回は"ウイルス"というミクロの世界がテーマだという。もはや、どんな舞台になるのか想像もつかない。そもそも麿当人が「どんな作品になるんでしょうねえ」と笑う。だが、その目は楽しげだ。 「そういうものをやるからには一応勉強しようと(笑)、科学の雑誌や文献を読んでいるんですけどね、これが面白いんですよ。ウイルスが生き物に対してどう作用するかなんて話を読むと、そこにものすごいドラマがあって。ときにホラーだったり、エロチックだったりね。自分の預かり知らぬところで、細菌だのウイルスだのが作用して、体にいろいろな変化が起こるわけだけど。ウイルスというと悪いモノというイメージだけど、実際は生物の多様性や進化にも関係しているそうですよ。しかもこれがまたすごい戦略性を持っている」  ちなみに細菌とウイルスは別物でね...と、すっかり科学にハマっている様子。 「だって、踊るもとになる情念さえも科学的な作用といえるわけでしょ。うれしいとか悲しいとかいった感情はホルモンの影響だとか、FOXP2という遺伝子が言葉を操る力に関わっているとかね。なーんだ、結局科学的な現象なのか、と(笑)」  が、もちろん舞踏家である麿が、科学的な結論で留まるはずもない。 「あらゆる生き物はDNAを運ぶ器みたいなものだ、という人もいるでしょ。単なる器という言い方もできるけど、一方で、今生きている人間は何万年という時を背負っているともいえる。ウイルスに至っては何十億年も前に誕生したといわれているわけで。それはすごい物語になると思うんですよ。人間にもウイルス的な面があるしね。星に寄生して食い尽くして他を探そうとしたり、やっぱり自然は大事だといって木を植えたり...実にウイルス的ですよ。人間がそんなことをするのも、本当のウイルスの作用かもしれないけど(笑)」  麿の中では科学と芸術が森羅万象のひとつとして、ごく自然に融合する。 「なんでも踊るネタになるんですよ。そこからどんな"をどり"が出てくることやら分かりませんが(笑)」  今度の舞台には、創設40年という時の重みも加わる。 「こんなことを40年もやっているなんてバカだなあと思いますけどね(笑)。でも人間が面白くてね。動きも形もひとつとして同じじゃないし、見る度に違ったりして。それでまたウイルスがこの先、人間をさらに進化させるかもしれないし(笑)」  思えば舞踏という表現には"型"や"ルール"が無いが、踊り手たちの"進化"はどこに現れるのか。 「型にはめて踊るものじゃないから、難しいところなんですけどね。例えば、目の前の湯呑茶碗をつかむとすると、若い時は普通にすっとつかみますよね。でも年をとると手がズレて茶碗にぶつかったりする。そこで距離感というものを初めて意識する。ショックでもあるんだけど、ちょっと新鮮で面白い(笑)。若い時は何も考えないで茶碗をつかめるけど、それでは"をどり"としては、つまらないんですね。どこかにズレや迷いがあるほうが、リアリティーが出たりする。若い人はなんでもすぐできちゃうけど"できる"って面白くないんですよ。それは本当に年をとらないと分からないだろうなあ。ざまあみろってね(笑)。生き物にはいろいろな呪縛があるけれど"をどり"では、呪縛されている様を見せたり、呪縛から逃れようとする様を見せたり。何が正解で何が間違いかなんてことがないですから」  麿がいざなう"ウイルスの世界"で、我々は自分たちの遺伝子に組みこまれた"希望"を見つけることができるかもしれない。
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撮影・荒木経惟

大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演 『ウイルス』
振付・演出・出演:麿赤兒 音楽:土井啓輔、ジェフ・ミルズ
【公演日時】7月5日(木)~8日(日) 【会場】世田谷パブリックシアター 【チケット】発売中 S席(1F・2F全席指定)前売4500円 当日5000円 チケット販売窓口:大駱駝艦 0422-21-4984 ticket@dairakudakan.com 世田谷パブリックシアターチケットセンター:03-5432-1515(10時~19時)

夜ふかしの会コントライブ『嬉々』

2012.06.04 Vol.554
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 主宰を務める岡田幸生を中心とした5人の役者と2人の放送作家により結成されたコントユニット。お笑いライブやイベントへの出演はもちろん、年に1~2回ペースでコンスタントに単独ライブも開催している。  そのかたわらでメンバーは映画、舞台にも出演するなど、演劇とお笑いをまたにかけ活動中。その芸風は演劇にもお笑いにもカテゴライズできない、不可思議なものとなっている。  ライブは基本的にオムニバス形式で進行。5~10分のコントをメインに、時には5秒のショートコントが混ざったりコントとコントがつながっていたり。6人でやるときもあれば、たった1人でやるときも。はたまた映像コントだったり文字だけだったりと、パターンは変幻自在。構成の妙で飽きることのないライブとなっている。  ちなみにメンバーの鬼頭真也は「本の紹介をする」というなんというか、誰も思いつかないネタでピン芸人日本一を決める「R-1 ぐらんぷり2009」のファイナリスト(7 位)となった男。といえば、このユニットのポテンシャルはただならぬものと分かってもらえるのでは。

 【日時】6月14日(木)~17日(日)(開演は平日20時、土14時/19時、日13時/17時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】駅前劇場(下北沢) 【料金】全席自由 整理番号付き 前売3000円/当日3500円 【問い合わせ】K-PRO(TEL:045-532-2219 〔HP〕http://yofukashi.jp/)/ローソンチケット 0570-084-003(Lコード:33938) 【作】夜ふかしの会 【演出】岡田幸生、内田崇文 【出演】鬼頭真也、三宅十空、砂川禎一朗、大重わたる、原慎一

五反田団『宮本武蔵』

2012.05.28 Vol.553
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 なんとなく現代口語演劇のきっちりした作品をやっていると思わせておいて、よく考えてみると、実はちょっとおかしな設定のお話が多いのが五反田団。  そんな彼らが今回取り組むのは「本格時代劇」。  宮本武蔵というタイトルではあるが、別に彼の剣豪としての生涯を描くといった内容ではなく、なぜ人は人を殺すのかとか、生きているものと死んでいるものの差といったものを描くという。  なるほど、物語の設定は変わっても描く本質は変わらないということか。  作・演出の前田司郎は「舞台上や、狭い稽古場で刀を振り回すのは危ない」ということで、そういうシーンは無し。「予算の都合でカツラはかぶりません」と、またなんともひょうひょうとした言いぐさで煙に巻く。  腰に刀はあるものの、頭の上にはまげはなし。まあ着物くらいは着ているんだろうが...というと「そりゃ武士じゃないな」なんて時代劇通っぽいことを言う人もいるだろうが、そんなやぼなことは言いっこなし。むしろそんな絵づらでどんな時代劇を見せてくれるのか、正直興味津々である。

【日時】6月8日(金)~17日(日)(開演は平日19時30分、土15時/19時、日15時。13日(水)は15時の回あり。月曜休演。開場は開演20分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】三鷹市芸術文化センター 星のホール(三鷹) 【料金】全席自由 日時指定・整理番号付 一般 前売2500円、当日2800円/高校生以下1000円(前売・当日とも) 【問い合わせ】三鷹市芸術文化センター(TEL:0422-47-5122=10~19時 〔劇団HP〕http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/) 【作・演出】 前田司郎  【出演】大山雄史、小河原康二(青年団)、荻野友里(青年団)、金子岳憲、岸井ゆきの、久保亜津子(向陽舎)、黒田大輔(THE SHAMPOO HAT)、前田司郎

青山円劇カウンシル#5『リリオム』

2012.05.21 Vol.552
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 青山円形劇場と多くの演劇作品の制作を行っているネルケプランニングが"若いクリエイターに新たな発表の場を"という考えのもと2008年に始まった「青山円劇カウンシル」の5回目。  今回は劇団「ゴジゲン」主宰の松居大悟が脚色と演出を担当。作品は映画やミュージカルでおなじみの『回転木馬』の原作である『リリオム』。時間が経っても変わることのない愛の形、人が人を思う気持ちといった人間の本質を描いた作品。  かつて罪を犯して死んだ男に1日だけ地上に戻ることが許される。かつて愛した女とその娘のもとに向かう男。男はこの日、善行を積めば天国への扉が開かれることになっているのだが...。  主役を務める池松壮亮は今回が舞台初主演。相手役の美波は多くの著名な演出家からひっぱりだこで活躍が目覚ましい。最近では野村萬斎演出の『サド侯爵夫人』でのアンヌ役も記憶に新しいところ。  過去4回には今年「第19回読売演劇大賞」を受賞した前川知大、岸田戯曲賞の常連となった田村孝裕、「第30回向田邦子賞」を受賞した岩井秀人などそうそうたる顔触れを輩出しているこの企画。松居も本作をステップに大きな飛躍が期待される。

【日時】5月25日(金)~6月3日(日)(開演は平日19時、土13時/18時、日13時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】青山円形劇場(表参道) 【料金】全席指定 前売5500円/当日5800円 【問い合わせ】サンライズプロモーション東京(0570-00-3337 〔特設HP〕http://www.nelke.co.jp/stage/liliom/) 【脚色・演出】松居大悟 【原作】モルナール・フェレンツ 【出演】池松壮亮、美波、中山祐一朗、山田真歩、津村知与支、中川晴樹、東迎昂史郎、武田杏香、銀粉蝶

乞局 奇譚集2012『「EXPO」~’70・’75・’85・’88・’96~』

2012.05.14 Vol.551
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 日常にはいろいろな不幸が転がっていて、我々の周りにはさまざまな悪意が浮遊している。そしてそんなことを言っている自身の中にも存在する暗闇の部分を人は認めたくない――。といったようなことは、みんな分かっているはずなのだが、できることなら目をそむけたいと思うのが人情。でもそんなどうしようもない人間の日常や性を描き続け、我々の前に提示してくれるのが乞局。  今回は昨年から始めた「奇譚集」の第2弾。本公演とは別に、1本約20分の短編集を小空間で不定期に行う。本公演では「場」に焦点をあてた作品が多いのだが、こちらはより人物に焦点をあてている。今回は「万博」をモチーフに、5本の"回顧録"を上演する。  1970年の大阪万博を皮切りに1996年の幻に終わった東京万博まで、それぞれの時代を舞台に描かれる。時代を経ることで「不幸」とか「薄気味悪さ」「暗闇」という世間の状況、そしてそもそも「私たち個人」といったものがどのように変化してきたかも浮き彫りにされる。

【日時】5月18日(金) ~23日(水)(開演は金火19時30分、土水14時/19時、日14時、月14時/19時30分。開場は開演20分前。当日券は開演40分前から発売) 【会場】スタジオイワト(神保町) 【料金】日時指定・全席自由 前売・当日共2700円/学生割引2000円(予約のみ取扱い。当日券はなし)※15歳未満入場不可 【問い合わせ】乞局(TEL:080-3096-8432 〔HP〕http://kotubone.com/) 【脚本・演出】下西啓正 【出演】石田潤一郎、岩本えり、墨井鯨子、三橋良平(以上、乞局)/浅井浩介(わっしょいハウス)、伊藤俊輔(ONEOR8)、田中のり子、中島佳子

ノゾエ征爾

2012.05.07 Vol.550

岸田戯曲賞受賞

劇団「はえぎわ」『I'm (w)here』5月17日上演開始
演劇界の芥川賞ともいわれる「岸田國士戯曲賞」の今年の受賞者が3月5日発表され、ノゾエ征爾、藤田貴大、矢内原美邦が受賞した。29年ぶりの3人受賞だった。その中の一人、ノゾエ征爾が主宰する劇団「はえぎわ」は5月17日から新作公演『I'm (w)here』を下北沢のザ・スズナリで上演する。
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撮影・宮上晃一

 はえぎわは結成して13年。ノゾエは4月26日に行われた授賞式のあいさつで「13年は決して短くはなかった」と振り返り「重みを感じながら受賞させてもらった」と神妙に語った。ところがその頭には、なぜかソフトなパンチパーマがかけられていた。 「岸田戯曲賞というものに正面から対峙しているということを見せたかったんです」  パンチパーマがその姿勢の表れだったと? 「はい。僕なりに、がっぷり四つです」  このエピソードと「はえぎわ」という名前を聞くと、どんなイロモノかと思う人もいるだろうが、決してそんなことはない。確かに旗揚げ当初はアングラ系で際どいところを攻める作風で、そういう部分がピックアップされがちな劇団であった。しかし2010年に上演され、初めて岸田戯曲賞にノミネートされた『春々 harubaru ~ハスムカイのシャレ~』あたりから脚本を重視した作風に変わった。 「正直煮詰まっていた時期だったんですね。そして今一番したいことはなんなんだろうと考えた時浮かんだのが"自分の口から感情を吐露する"ということだったんで、自分が主役になって、一回全部吐き出してしまおうというのが『春々』だったんですね」  その次の作品『ガラパコスパコス』では老人介護の話を扱う。当時(現在も継続中)、高齢者施設にて巡回公演を行っていたことからヒントを得た。年齢が高い人にはちょっと泣ける作品だった。そして受賞作の『○○トアル風景』に続く。同作では壁にチョークでさまざまなものを書き込む手法を用いた。チョーク一本でその場を何にでも変えられるという演劇の深い可能性を表した作品。戯曲とともに秀でた演出の一本だった。 「ネタ帳には昔から"チョークで書く"というフレーズはあったんですけど、ああいう感じで小道具の代わりに使うというのは考えていなかったんです。この時は先にお話ができて、まず道具をなくしたいと思ってマイムだけでやってみたんですが、それもしっくりこなくて、書くのはどうだろうと思って書いてみたら、"こんなことも書ける。あんなことも書けるって広がっていって"かなりおもしろかったです」  そして今回のお話。タイトルが意味深。 「『I'm here』と言っているんだけど、(w)を入れることで2つの意味を持たせています。自分ではここだと言っているつもりなんだけど、ともすれば不安になるという、存在意義と居場所という2つが大きなテーマになってます」  帰国子女で引っ越しの多かった幼少期を過ごしたノゾエは「居場所」については独特の感覚を持っているようだ。 「サンフランシスコから帰ってきて兵庫、東京、横浜と移り住みました。横浜は小5の途中からなので結構長くは住んでいたんですが、あまりなじみがないんです。居場所っていろいろなとらえ方がありますよね。僕はいわゆるリアルな場所に対しての執着はあまりないんです。自分の意思と関係なく転校していたので、勝手に自分の中で場所というものに線引きをしてしまっている。昨年の大震災で、自分の土地にこだわるという事に関して考えさせられているというか、あの感覚というのは僕にとっては新鮮というか...。なので今回は関係性における居場所。それから生じる存在意義ということを書こうと思っています」  ノゾエ自身は特別意識はしていないのだが、この2つのテーマは今の日本ではとても重いテーマとなる。 「この前ニュースを見ていて、やっぱりそうなんだ、と思ったのが、震災で父母と妹を亡くして一人になってしまった大学生の男の子の1年経っての一言。"やっぱきついですよ"だったんです。持ち直してきてはいるんだけど、生の声ってこれなんだよなって思いました」  1年という時間が経って、冷静に物事を考えられるコンディションになってからこういう作品に出会えるのがいい――なんて話をしていると、ついつい湿っぽい話を予想してしまいそうだが「湿っぽいノリではない」とのこと。重そうなテーマをさらっとドライにやってのけるのがノゾエっぽい。  最後に冒頭のパンチパーマのくだりでどうしても説明しておかねばならないことがある。普通あんなことをするとウケ狙い、と思われがちだが、ノゾエの中では一切ふざけた要素がなかったという。それはノゾエの笑いに対するスタンスを聞くと納得する。 「僕の中では笑いが起こる状態というのがすごく大事なんです。冗談の気持ちで笑いを発生させたくない。あくまでみんなマジなんだけど、その姿がこっけいに見えてくるという形で笑いが起こせれば、と思っています」  今回も見終わった後に、いろいろと考えをめぐらされる作品になりそうだ。

はえぎわ『I'm (w)here』
【日時】5月17日(木)~23日(水)(開演は平日19時30分、土14時/19時。日14時/18時。千秋楽は14時開演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】ザ・スズナリ(下北沢) 【料金】指定席 前売り3500円、当日3800円(学割あり)/自由席 前売り3300円。当日3600円(学割あり) 【問い合わせ】はえぎわ制作部(TEL:03-5467-4120 〔HP〕http://www.haegiwa.net/) 【作・演出】ノゾエ征爾 【出演】井内ミワク、町田水城、鈴真紀史、滝寛式、竹口龍茶、踊り子あり、川上友里、鳥島明、富川一人、山口航太、ノゾエ征爾(以上劇団はえぎわ)/金珠代、萩野肇/鈴木将一朗/笠木泉

ナイロン100℃『百年の秘密』

2012.04.23 Vol.549
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 劇団への書き下ろしは一昨年の『2番目、或いは3番目』以来となるKERAの新作。  今回は2人の女性の半生を描く物語。この2人は青春時代に出会い、友人関係を築く。とは言っても、ずっと一緒にいるわけではなく、人生の局面で幾度か再会しては、やがて別々に死んでいく。この2人は決して「親友」というわけではない。でも2人の関係は複雑でデリケート。そんな2人の間の秘密と2人を取り巻く秘密を軸に物語は展開される。  KERAは「生涯に渡り続く友情」なんていうものはもはやロマンの領域ではないかと言う。そして「女性同士に真の友情など成立しえないとは言わないが、しっくりこない」とも。  ということで、男性同士だとそんな「友情物語」になってしまいそうなところを女性同士にすることで、「友情」なんていう言葉では語り尽くせない複雑でデリケートな関係を描くことを可能にした。  ナンセンスコメディーという枠を越え、さまざまな作品を発表し続けるKERA。今回はそんななかでもシリアス度とシニカル度が高めの作品となる。

【日時】4月22日(日) ~5月20日(日)(開演は平日19時、土13時/18時、日祝14時。26・29・3・7・14日休演。※25日(水)は14時開演のみ。9日(水)と16日(水)は14時の回あり。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】本多劇場(下北沢) 【料金】全席指定 前売・当日共6900円/学生割引券:4300円(前売りのみ。チケットぴあのみ) 【問い合わせ】キューブ(TEL:03-5485-8886=平日12~18時 〔劇団HP〕http://www.sillywalk.com/nylon/) 【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ 【出演】犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、長田奈麻、廣川三憲、安澤千草、藤田秀世/水野小論、猪俣三四郎、小園茉奈、木乃江祐希、伊与勢我無/萩原聖人、近藤フク、田島ゆみか、山西 惇

サンプル『自慢の息子』

2012.04.16 Vol.548
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「女王の器」(撮影・青木司)

 今年早くも2作目の上演となるサンプル。今回は2011年の岸田戯曲賞を受賞した『自慢の息子』が待望の再演となる。  ある男がアパートの一室に独立国を作り、自らを「国王」と称していた。男は日課として大企業のコールセンターにクレーム電話をかけ続ける。王となった息子を探す母親は、「その国に亡命したい」という兄妹を連れて息子の作った国を目指してさまよう。やがてその男の国を案内するというツアーコンダクターと一緒に母と兄妹は「国」にたどり着く。そしてそこから彼らの奇妙な同居生活が始まるのだが...。  2月に上演された『女王の器』は本作の姉妹編ともいえる作品で、2作品に共通するテーマは「境界線」。『女王の器』はストーリーも舞台セットも抽象的で、やや難解な作品に感じた人もいたかもしれないが、この『自慢の息子』は「国」と「私」というわりと理解しやすい材料で作られており、2月に「???」だった人も多分取っつきやすいのではないだろうか。  なお特別企画としてサンプルの俳優が出演する映画『歓待』(25・29・2・4日)、『東京人間喜劇』(26・1日)が上映される。詳しい時間はHPで要確認。

【日時】4月20日(金) ~5月6日(日)(開演は平日19時30分、土14時/18時、日14時。月曜休演。開場は開演20分前。当日券は開演40分前から発売) 【会場】こまばアゴラ劇場(駒場東大前駅) 【料金】全席自由・整理番号付 前売3000円、当日3300円、学生2500円(サンプルのみ取扱い/要学生証提示) 【問い合わせ】サンプル(TEL:090-2903-8363=10~20時 〔HP〕http://www.samplenet.org/) 【作・演出】松井周 【出演】古舘寛治(サンプル・青年団)、古屋隆太(サンプル・青年団)、奥田洋平(サンプル・青年団)、野津あおい(サンプル)、兵藤公美(青年団)、羽場睦子

チェルフィッチュ『現在地』

2012.04.16 Vol.548
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 演劇という枠にとらわれることなく、常に独自の方法論による作品を発表し続けてきたチェルフィッチュ。もともと作・演出を務める岡田はフィクションに懐疑的な思いを持っており、作品もそれとは遠い位置にあるものが多かった。しかし今回はそのフィクションにこだわった作品になるという。  昨年3・11の大震災が岡田に大きな心境の変化をもたらした。あれ以降、フィクションの存在意義を感じられるようになり、現実と対置されるものとしてのフィクションを作ってみたいという欲求が生まれたのだという。  この『現在地』はSFの要素が散りばめられた変化をめぐる架空の物語。ある日起こったとされている不吉な出来事以降の世界に生きる登場人物たちが、それぞれの視点で意見を持ちながら現実を生きていく姿を描く。今回はチェルフィッチュ初の女性のみのキャストでの公演。  一言で「フィクション」といっても、果たしてどんな作品に仕上がるのか? なぜ女性だけになったのか?などなど、興味は尽きない。

【日時】4月20日(金)~30日(月・祝)(開演は平日19時30分、土日祝14時。水曜休演。開場は開演30分前。当日券のある場合は開演1時間前から発売) 【会場】KAAT神奈川芸術劇場 〈大スタジオ〉(日本大通り駅) 【料金】全席自由 入場整理番号付き 前売一般3500円、当日一般4000円/シルバー割引3000円(満65歳以上)/U24チケット1750円(24歳以下対象)/高校生以下割引1000円(高校生以下対象) 【問い合わせ】チケットかながわ(TEL:045-662-8866=平日10~18時〔HP〕http://www.kaat.jp/) 【作・演出】岡田利規 【出演】山崎ルキノ、佐々木幸子、伊東沙保、南波圭、安藤真理、青柳いづみ、上村梓 ※5月6~7日に福岡公演もあり

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