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STAGE | TOKYO HEADLINE - Part 7
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クオリティーの高い戯曲に“できる”役者たちが揃えばつまらないわけがない KAKUTA『痕跡《あとあと》』

2015.11.08 Vol.654

 作・演出の桑原裕子は緻密に練られたプロットと台詞で重層的な作品を描く。かといって出来事としてのドラマに傾倒はしない。登場人物の内面を丁寧に描くことによって見る者にドラマを感じさせてくれる。

 2014年に上演されたこの作品で桑原は「第18回鶴屋南北戯曲賞」を受賞し「第59回岸田國士戯曲賞」の最終候補となった。新たな代表作。待望の再演だ。

 物語はある嵐の夜に起こった中年男の自殺未遂と幼い少年のひき逃げ事件が発端となる。少年は川に落ち、行方不明に。その2つの事件を目撃したバーテンダーの男は直後の落雷で目を負傷する。それから10年の時が経つ。ガンを患い余命を悟った少年の母は、最後の捜索を始める。協力を申し出た男はその模様をドキュメンタリーとして撮影しようとし、彼女を心配する元義妹も無理やり同行を申し出る。母はその過程でさまざまな者たちに出会う。そのなかにはもちろん目撃者も。一見関わりのないように見える人々の人生が交差したとき、10年前に起きた2つの事件の真相があぶり出される。

「罪」とか「秘密」とか、そして「真実」とか。日常ではあまり気に留めないさまざまな単語が頭の中をぐるぐるめぐりそうな作品。

クオリティーの高い戯曲に“できる”役者たちが揃えばつまらないわけがない 城山羊の会『水仙の花 narcissus』

2015.11.07 Vol.654

 城山羊の会はCMディレクターの山内ケンジ脚本、演出による演劇プロデュースユニット。その作品は人間関係を鋭く、そして軽妙に描く大人の会話劇。淡々としたリズムからズバッと切り込んできたり、物語を予想を大きく越える方向にさらりと展開したりという独特の作風が病みつきになる。

 CMディレクターとしてもいまだに最前線で活躍する一方、今年は昨年上演された『トロワグロ』で「第59回岸田國士戯曲賞」を受賞するなど、劇作家・クリエイターとして今まさに脂がのっている状態。

 今作について、山内が言うには「最近、世の中が嫌な感じなので、なぜそんなに嫌な感じがするのかを抽出して書いてみたい」とのことで「自分本位で自分のことしか考えてない人たちが、たくさん出てくる作品」という。とはいっても抽出された“嫌な感じ”がそれで終わるわけではもちろんなく、“面白さ”に変換されて舞台上に提出される。

 ちなみにタイトルにある「narcissus」というのは、水に映った自分の姿に恋して溺死したというギリシャ神話に登場する美少年の名前。「ナルシスト」の語源となっているもの。

 今から、なにやら真剣な滑稽さや噛み合わなさが目に浮かびニヤニヤしてしまう。
 5年前に『微笑の壁』で絶妙なフィット感を見せた吹越満が、それ以来の出演。こちらもニヤニヤに輪をかける。

また新たなる女の世界が… ブス会*『お母さんが一緒』

2015.10.25 Vol.653

 境界線に立たされた女性たちの悲喜こもごもから、現代日本に生きる女性のリアルをあぶりだすペヤンヌマキ。その視線は時にシニカルで登場人物たちの行動や言動、そこに至るシチュエーションも含め、嫌々ながらも認めざるを得ないようなシビアな物語が展開される。その一方で、優しさなのかあきらめなのか、そういった柔らかな視線から生まれる台詞やエピソードが笑いや共感を引き起こし、作品をエンターテインメントに留まらせている。

 今まではAVの撮影現場、清掃会社の休憩室、カラオケスナックなど、良くも悪くもしょせんは他人同士の女たちの世界を描いてきたが、今回は一歩踏み込み、血縁という切っても切れないものでつながっている家族内における女の世界を描く。

 舞台はとある温泉宿の一室。そこにいるのは親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三人姉妹。

 長女は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女は優等生の長女と比べられてきたせいで自分の能力を発揮できなかったと心の底で恨んでいる。そんな2人を冷めた目で観察する三女。共通しているのは「母親みたいな人生を送りたくない」ということ。隣りの部屋で炸裂する母親の愚痴を横目に姉妹たちの会話は次第にエスカレートしていくのだった。

 あらすじと人物設定を読んだだけで、どんな会話劇が繰り広げられるのかとヒヤヒヤ…。

人気シリーズ第8弾 現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』

2015.10.25 Vol.653

 世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める野村萬斎が、古典の知恵と洗練を現代に還元すべく立ち上げた「現代能楽集」シリーズの第8弾。

 この企画は“古典”の物語である能を、“近代”、そして“現代”へと二重に解体・構築し現代の物語として甦らせようとするもの。

 今回はマキノノゾミが三島由紀夫の『近代能楽集』から『卒塔婆小町』『熊野』を土台とし新作『道玄坂綺譚』を書き下ろした。『卒塔婆小町』はかつて美貌を誇った老婆と若き詩人のお話。『熊野』は美女と大実業家のお話。

 物語の舞台は、東京のとある繁華街にあるネットカフェ。映画監督を志す従業員の若い男はここに長期滞在する年齢不詳の女に興味を抱く。また、ここでその日暮らしをする家出少女のもとには富豪の男が現れ、彼の薫陶を受け、少女は美しい女性へと生まれ変わっていくのだった――。

 現実と幻想が入れ子構造のように重なりながら進んでいき、観客をこの世界ではないどこかへといざなう幻想譚が繰り広げられる。

その“時”を切り取って「そこにある、時間—ドイツ銀行コレクションの現代写真」

2015.10.11 Vol.

演劇へのたゆまぬ探究心は世代も作風も越える T Factory『ドラマ・ドクター』

2015.10.11 Vol.

月刊「根本宗子」再び第7号『今、出来る、精一杯。』演劇へのたゆまぬ探究心は世代も作風も越える 

2015.10.11 Vol.652

 根本宗子は今年は作・演出家としては5月に本公演、6月にミュージシャンの大森靖子とのユニットとなる『ねもしゅーせいこ』、合間を縫ってのバー公演、女優としても『墓場、女子高生』といった話題作の舞台に立つなど、演劇界をにぎわせてきた。

 演劇以外でも映画、ドラマへの脚本提供、テレビ朝日のウェブ番組にMCとしてレギュラー出演するなど多忙を極めた。
 その活動の根底にあるのは「私にしかできない、誰にもできない面白いものを作りたい」という飽くなき探求心。
 今回は1週間ずつ2作品を連続上演するという。

「再び第7号」は2013年に駅前劇場に初進出した時の作品を再演。11月1日からは第11号『超、今、出来る、精一杯。』を同所で上演。こちらは続編でもなんでもなく全くの新作。

 なんとも贅沢かつ無謀な試みにも思えるが、かつての自分と今の自分を戦わせてみようということで、こういう形になった。
 この『今、出来る、精一杯。』という言葉はまさに今の根本宗子の心境を表したもの。果たしてどんな“精一杯”を見せてくれるのか。

見る者をぐいぐいと作品に引きずり込ませる世界観

2015.09.27 Vol.

普段とはちょっと違ったテイスト『語る室』カタルシツ

2015.09.13 Vol.650

 カタルシツは劇団イキウメの本公演とは一味違ったテイストの作品を上演する場、いわば“別館”として2013年にスタートした企画。

 第1回公演ではドストエフスキーの『地下室の手記』を、安井順平と小野ゆり子の二人芝居で上演。今年2月の第2回公演では同作を今度は安井が一人芝居で演じた。ちなみに安井がその第1回公演で読売演劇大賞の優秀男優賞を受賞するなど、個人としても作品としても高い評価を得た。
 今回は田舎町で起こった失踪事件をテーマとした新作SFミステリー。

 人気のない山道で一人の幼稚園児と送迎バスの運転手が姿を消す。5年経っても行方は知れないまま。消えた子供の母、その弟の警察官、バス運転手の兄。そしてこの3人が出会った、帰ることのできない未来人、奇跡を信じて嘘をつき続ける霊媒師といったさまざまな人々を通じて、徐々に事件の全貌が見えてくるのだった。

 取り上げる題材自体は一見、普段のイキウメでやるようなSFやオカルトっぽいものではあるが、より語り口や物語性に重点を置いた作品となっている。

見逃したくない名作『少女仮面』新宿梁山泊

2015.09.12 Vol.650

 旗揚げ以来、テント、劇場とさまざまな空間で国内外を問わず公演を重ねる新宿梁山泊。
 主宰で演出も務める金守珍が唐十郎の状況劇場で役者として活躍していたことから唐作品との親和性が高く、唐作品も多く上演してきた。

 そんな彼らが今回手がけるのが『少女仮面』。1969年に初演された唐の代表作ということは言うに及ばず、当時、主人公の春日野を演じた李麗仙にとっても自身を語る上で欠かせない代表作だ。

 春日野はかつての宝塚の大スター。その隠れ家でもある地下の喫茶店「肉体」に宝塚のスターを目指す少女・カイが老婆と一緒に春日野を訪ねやってくる。春日野に見初められ演技指導を受けるカイ。そのうちに戦争時の記憶がよみがえった春日野は徐々に正気を失っていく…。

 実在したスターをモチーフに戦後、そして老いを唐独特の切り口で描いた作品。
 若いファンにとっては李はテレビで見かけることの多い女優かもしれないが、舞台上の李はテレビで見るそれとは明らかに違う存在感を見せつける。せっかくだから見ておいてほしい作品。

3.11から4年。忘れちゃダメだよね 舞台 風煉ダンス『泥リア』

2015.08.23 Vol.649

 風煉ダンスは1990年に旗揚げした劇団。もう今年で25年になるのだが、開店休業中の時期もあり、決して作品数は多くはない。しかし生バンドによる劇伴やアーティスティックな舞台セット、スケールの大きい野外劇といったインパクトの大きい作品で根強いファンを持つ。そしてその作品世界は常に時代に対する批評性にあふれ、見る者に“気づき”を与えてくれる。

 そんな彼らが2011年5月に発表した『泥リア』は、その3月に起きた東日本大震災に真正面に向き合った作品だった。

 リア王をモチーフとした同作は「娘たちに疎まれた痴呆症の老人が王と道化に分裂して魂の荒野をさまよう」といったお話。老人がさまようのは震災前後と過去と未来、死者と生者の狭間。ふらふらとさまよう中で、原発や震災を想起させるキャラクターに遭遇し、そこで起こるさまざま出来事に観客の心は大きく揺さぶられた。

 この作品が9月19日から井の頭恩賜公園 西園(ジブリ美術館奥の広場)で再演される。

 作・演出の林周一は「もともと再演してほしいという声が多かった。野外でという声も。でも僕たちは別にそんなに再演にはこだわっていなかった。ただ、主人公の老人が劇場の中ではなく、外をリアルにふらふら歩く姿を見てみたいという初動的な衝動に駆られた。いざやるとなったら3年でもなく5年でもなく、4年という時間がしっくりきた。やるなら今かなって。4年間にいろいろなことがあったけど、あれだけ衝撃を受けたはずなのに、自分たちの中でも記憶が薄れている。でもいまだに2万人近い人が仮設住宅にいるという状況は変わっていない。しかも原発はますますひどいことになり、住めない場所はそのままになっている。“これはなんだ?”“4年経って自分たちはどう考えているのか?”ということを考えた。だから再演という気持ちではない。むしろアンサーソング?という感じ」と話す。

 再演にあたっては「震災を忘却している人に“ちゃんと思い出してほしい”という意味もある。でも震災は過去ではなく現在進行形。過去の時間を見せるというより、現実に引き戻し、まだこれから続く時間に思いを馳せたい。自分もみんなも」という。

 公演の詳細は風煉ダンスHP(http://furen-dance.info/)で。

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