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[STAGE]よみがえる名作を2選

2015.08.23 Vol.649

日本の30代『ジャガーの眼2008』

 2012年に上演された松尾スズキ作・演出の『ふくすけ』に出演した役者たちが集まって、昨年、この「日本の30代」を結成した。

 10年を超えるキャリアを重ねるなか、所属劇団でも重要なポジションを占めるようになり、それに伴い外部への客演も増えてきた。しゃにむに突っ走ってきた20代を過ぎ、役者としていろいろなことを考える余裕が出てきた。そして「これまでの作品からはみんなが想像できないような、もっと違った芝居がしたい」と思った者たちが自然に集まり、できたユニットだ。

 もともと松尾スズキのテイストに近い彼らではあったが、そんな思いもあったため、旗揚げ公演では文学座の鵜山仁に演出を依頼し、シェイクスピアの『十二夜』を上演。普段は見せない顔で、よそではあまり見ない十二夜を作り上げた。

 今回は木野花を演出に迎え、唐十郎の『ジャガーの眼2008』を上演する。“唐十郎”という絶対的な個性と“テント芝居”という幻想的なキーワードがついて回るこの作品は古くからのファンも多い。唐以外が上演するときも、割と近い関係の人やテイストを持つ人が手がけてきた。世代もテイストも違う彼らは果たしてどんな形のものを提示してくれるのだろうか…。

【日時】8月28日(金)〜9月7日(月)(開演は28・3日19時、29・7日17時、30・1・4・6日14時、2・5日14時/19時。31日休演。開場は開演30分前。当日券は開演45分前)【会場】駅前劇場(下北沢)【料金】自由席 前売3300円、当日3500円/指定席 前売3800円、当日4000円/高校生 前売1800円、当日2000円(日本の30代webのみ取扱い・当日身分証確認)【問い合わせ】リトル・ジャイアンツ(TEL:090-8045-2079=平日12〜19時[HP]http://www.nihonno30.com/)【作】唐十郎【演出】木野 花【出演】井内ミワク、井本洋平、延増静美、少路勇介、鈴真紀史、竹口龍茶、羽鳥名美子、平岩紙、町田水城、富川一人

三上博史、新たなる代表作の予感『タンゴ・冬の終わりに』パルコ・プロデュース

2015.08.09 Vol.648

 清水邦夫書き下ろし、蜷川幸雄演出で1984年にパルコ劇場で初演された『タンゴ・冬の終わりに』は86年に同じキャストで再演され、91年にはロンドン・ウェストエンドでアラン・リックマン主演で上演された。当時、日本の作品が海外でその地の俳優と日本のスタッフによって上演されるのはまれなことで大きな話題を呼んだ。

 有名な舞台俳優だった清村盛は3年前、突然引退を宣言し、妻・ぎんとともに日本海に面した実家の古びた映画館に引きこもった生活を送っている。捨てたはずの華やかな俳優人生を忘れられない盛の精神状態は日々悪化していた。そこにある日、盛と恋愛関係にあったらしい若く美しい女優、名和水尾が夫・連とともに訪れる。

 主役の清村盛を演じるのは三上博史。

 三上、パルコといって頭に浮かぶのは、やはり『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』なのだが、実はもう10年も前の話。『ヘドウィグ——』に代わる三上の代表作となりそうな予感。

 演出は、最近では積極的に舞台に進出している行定勲。

“今”を切り取った作品『ホーボーズ・ソング HOBO’S SONG 〜スナフキンの手紙Neo〜』虚構の劇団

2015.08.09 Vol.648

 虚構の劇団は作家・演出家の鴻上尚史が若い俳優たちと自らの演劇観を共有しながら作品を作り上げるために結成した劇団。と同時に、大規模なプロデュース公演ではできない“今”を切り取った作品を作るために作った劇団だ。

 劇団としては約3年ぶりとなる新作。サブタイトルにある『スナフキンの手紙』は1995年に岸田國士戯曲賞を受賞した鴻上の代表作。

 同作では1960年代に連合赤軍による革命が成功したという設定の日本を舞台に、絶対に語られない「本当の言葉」をきっかけに政府とさまざまな集団が抗争を繰り広げていた。

 ホーボーとは居場所をなくし、居場所を追われ、居場所を捨てた人たち。ホーボーズ・ソングとはそんな人たちを歌う歌、もしくはそんな人たちが歌う歌のこと。そして今回のチラシには内戦、捕虜、尋問、監視カメラといった言葉が並ぶ。

 かねてから劇作以外の著作でも“空気”について語ることの多い鴻上が最近の日本に漂う空気を敏感に感じ取り、今回この作品が生まれたのでは…と思わせる。

演出の妙を感じさせる2作品

2015.07.26 Vol.647

オフィスコットーネプロデュース『人民の敵』

『人民の敵』は1882年にイプセンによって描かれ、日本ではそれほど上演されていない作品。

 イプセンの作品は日本では『ペール・ギュント』『人形の家』といったところがなじみ深いのだが、現状に対して批判的な目を持ち、疑問を呈するような種類のものが多く、観客に常にさまざまな波紋を投げかけてくる。

 この『人民の敵』はノルウェー南部のとある温泉町が舞台。湯治場の専門医が観光の目玉である温泉が廃液で汚染されていることを発見する。給水パイプの引き直し工事を進言するが市長は温泉委員会の委員長を兼任しているため公共の経済を優先し、その訴えを聞き入れようとしない。ついに自己の利益と野心に燃えるあらゆる階層の人々を巻き込んで、町をあげての集会が始まる、というお話。

 作品では「絶対多数」が本当の正義なのか?といったことが問われてくる。なにやら昨今の日本の政治状況を映し出しているようで興味深いところだ。

 今回は演出に2014年の読売演劇大賞・最優秀演出家賞などを受賞し、いま最も注目を集めている演出家といっても過言ではない森新太郎を起用。サスペンスあり、笑いありのこのエンターテインメント作品をどう料理してくれるのか。

【日時】8月21日(金)〜9月2日(水)(開演は月金19時、火13時/19時、水木14時、土12時/18時、日は23日13時・30日14時。25日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)【会場】吉祥寺シアター(吉祥寺)【料金】全指定席 一般前売・当日4000円/お得チケット 前売・当日3500円(21、24、26、27、28日の5ステージ限定)/シードチケット(25歳以下)前売・当日共3000円(平日公演のみ。枚数限定。オフィスコットーネのみ取扱。受付にて年齢確認有り)【問い合わせ】オフィス コットーネ(TEL:03-3411-4081[HP]http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/)【作】ヘンリック・イプセン【翻訳】原千代海【構成・上演台本】フジノサツコ【演出】森新太郎【プロデューサー】綿貫凜【出演】瀬川亮、山本亨、松永玲子、有薗芳記、加治将樹、青山勝、塩野谷正幸、若松武史、宮島健 他

会話劇の妙を楽しめる作品 ブルドッキングヘッドロック結成15周年記念公演 vol.26『1995』

2015.07.20 Vol.646

 ナイロン100℃の役者でもある喜安浩平が自ら作・演出を手がける劇団、ブルドッキングヘッドロックを旗揚げしたのが2000年。近年、喜安はナイロン100℃での役者としての活動はもとより、映画『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞するなど、脚本家としての評価も高まっている。

 その作品は「グロテクスな日常に、ささやかなおかしみを」をモットーに、現代の人間が抱えるさまざまな息苦しさを描きつつも、それゆえに発生してしまう、ささやかな“おかしみ”に着目したもの。作品によって軽めのタッチからやや息苦しい空気感まで変幻自在なのだが、共通するのは緻密な会話劇であるということ。

 今回は1995年という時代をモチーフとした作品。この年は阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、女子高生文化の萌芽、『エヴァンゲリオン』の放送開始など、社会的にも文化的にも特徴のある時代。そんな中でも彼らが注目したのは「アイドル」。それも「アイドル氷河期」という現象。

 表舞台に表れることのなかったアイドルグループの少女たち、それに無償の愛を注ぎ続けた男、かつてアイドルだった女を軸に1995年と2015年を行き来しながら壮大な偏愛の物語が展開される。

稲垣吾郎がベートーヴェン!「髪を振り乱してやりたい」

2015.07.14 Vol.645
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 作曲家ベートーヴェンの波乱と苦悩の半生を描く舞台『No.9-不滅の旋律-』の製作発表が14日、都内で行われ、主演の稲垣吾郎、同作で初舞台に挑戦する大島優子、演出の白井晃、脚本の中島かずきが出席した。稲垣は「髪質は(ベートーヴェンと)かなり近い。髪の毛を振り乱してやりたい」と、意気込んだ。

 楽聖と称される一方で、変人、狂気、挙動不審といったイメージもあるベートーヴェン。白井も中島も、稲垣とどんなベートーヴェン像を作り出せるかと期待を寄せている。オファーに最初は驚いたという稲垣だが、この日のあいさつでは「SMAPのなかでも奇人変人ぶりでは負けていない。ベートーヴェンのようにお客さんの心を感動させるような舞台に仕上げられるのではないかと思っています。舞台が大好きなので稽古から1日1日を楽しみにしながらやりたいと思います。その期間、ベートーヴェンに蘇ってもらって魂を震わせあって、運命を共にしてほしいと思う」と語った。

 大島は、ピアノ技師の女性の妹という役どころで、本作のために描き下ろされた架空の女性。劇中ではベートーヴェンを支えていく女性になるという。初舞台の大島は「チャーミングで、気が強そう。それと根性がありそう」(白井)、「元気でエネルギッシュ。相当気が強いのではという印象もある」(中島)と、気が強いというイメージが出演の大きな要因になったよう。大島は初めての舞台に、「緊張して溶けそう!右も左も分からない状態でおののいていて...か弱くて気も弱いんです」と不安を吐露したが、「イメージ通り魂をぶつけてやりたいと思います。先輩方からいろんなものを吸収して放出していけるように励んでいきたい」と前のめりだった。

 10月10日から赤坂ACTシアターで上演。大阪、北九州公演もある。東京公演のチケットは7月18日発売。

会話劇の妙を楽しめる作品 Cucumber+三鷹市芸術文化センター presents 土田英生セレクション vol.3『算段兄弟』

2015.07.13 Vol.646

「土田英生セレクション」というのは、普段はMONOで創作活動を行っている劇作家・演出家の土田英生が、自作を自身が望む俳優たちと創作するために2010年に立ち上げた企画。

 絶妙なチームワークの上で作られるMONOの作品が求心的で凝縮的であるとするなら、こちらは拡散的で遠心的。前のめりに見ていたものを、背もたれに背をつけて見てみると全然違うものが見えてきた、という感じ。

 3回目となる今回は1999年に『近松ゴシップ』というタイトルで初演されたものを大幅にリメイクした。

 自由奔放に結婚と離婚を繰り返した父を持つ5人の兄弟姉妹。彼らはみな母親が違っていた。父は死期を迎え、5人を呼び寄せる。怒り、遺産への期待、初めて会う「家族」への複雑な感情に戸惑いながらも探り合う5人だった。そして1年後、一周忌法要に再び集まった彼らは、自分たちに流れる「血」の底知れなさに直面することとなるのだった。

「家族」という最小の共同体が壊れて久しい現代日本に送る、おかしくて切なくて、ちょっと怖い「家族ごっこ」の物語。
「血縁」ってなに?とか「家族」ってなに?とか、ちょっと考えさせられるかも。

多分いろいろなことを考えさせられる作品『新・殺人狂時代』流山児★事務所

2015.06.21 Vol.645

 流山児祥率いる流山児★事務所は今年7月に創立30周年を迎える。昨年秋から記念公演と銘打って上演を続けてきたが、今回はその第4弾。

 2002年に鐘下辰男が書き下ろし、流山児が演出した『殺人狂時代』では9・11以後のテロの時代に「傭兵たちの叛乱の物語」を描き大きな反響を呼んだ。

 そのスタイルはレジナルド・ローズの『12人の怒れる男』をモチーフとした討論劇。当時議論となっていた問題を生々しく切り取った。2004年には『続——』が作られ、そして今回の『新——』につながってくる。

 今回の舞台は災害に見舞われ、地上への出口は塞がれ、いつ崩壊するとも分からない暗闇に支配された建物の地下。男たちは生還を目指すが、外部と遮断され、内部の状況も把握できない。そんな「ごまかしの効かない」現状で、今とるべき行動とは…。

 設立以来、劇団とか演劇、ひいては日本といった枠にとらわれない活動を繰り広げてきた流山児★事務所は、さまざまな“才能”と作品を作ってきた。今回は自らの劇団チョコレートケーキで硬派な社会派作品を多く手がける演出家・日澤雄介を起用。

 初演から13年が経って、世界はより物騒になり、日本も大きな転換期を迎えつつある。そんななか “演劇”は何を発信し、そして何ができるのか?

多分いろいろなことを考えさせられる作品『cocoon』憧れも、 初戀も、爆撃も、死も。

2015.06.21 Vol.645

 野田秀樹が芸術監督に就任以降、積極的に次世代の演劇界を牽引する若い才能による作品を上演してきた東京芸術劇場。その中でも2013年に上演されたこの『cocoon』は一際大きな反響を呼び、再演を熱望されてきた。

 作・演出の藤田貴大はマームとジプシーを主宰。2012年に26歳で岸田戯曲賞を受賞。劇団公演以外にも昨年は野田秀樹作の『小指の思い出』の演出を手掛けるなど、現在の演劇界でもっとも注目を集める存在。また演劇以外のアーティストたちとの作品作りにも積極的で、本作もそんな活動のひとつ。

 原作は漫画家・今日マチ子による文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品を受賞した作品。沖縄戦に動員された少女たちに想を得て描かれたもの。女学生たちのかしましくも平凡な学生生活が戦争によって否応なしに死と隣り合わせの日常に変わっていくさまが描かれている。

 テーマとしては重いこの作品を藤田は象徴的なシーンを繰り返す「リフレイン」という手法を用い、生々しさや切実さを削ぐことなく、それでいて悲惨な状況の中でも生きようとする少女たちの姿を描ききった。

 初演から2年経った現在、この作品がどのような受け止められ方をするのかも気になるところだ。

江戸中期の世を舞台にした情に心揺さぶられる物語

2015.06.20 Vol.645

 雪組の最新公演は、芝居とショーで観客の心を揺さぶる。芝居の『星逢一夜(ほしあいひとよ)』は、いわゆる時代劇像とは一線を画す「日本モノ」だ。舞台は江戸中期の徳川吉宗の治世。幼いころに身分を超えて友情を育んだ主人公とその幼なじみたちが、大人になって運命に翻ろうされていく姿を描く。生きることや人を愛することとは……普遍的なドラマをノスタルジックで美しい夏の情景とともに届ける。

 バイレ・ロマンティコ『La Esmeralda(ラ エスメラルダ)』は、エメラルドの海をバックに繰り広げられる情熱の愛と夢の数々を描くラテン・ショー。

食わず嫌いは損!!『やぶれた虹のなおしかた』こゆび侍

2015.06.07 Vol.644

 その作風を紹介するにあたっては「昆虫をモチーフとする作品が多く」などといわれることの多い、こゆび侍。かように独特の作品世界を持つ彼らだが、展開されるお話や登場人物の感情のゆれなどは、奇をてらうことのなく極めて真っ当な筆致で描かれている。

 今回は心が入れ替わってしまった高校生の男の子と女の子の「25年後」のお話。

 タナカヒカル(男)とスズキヒカリ(女)は17歳のころ心と体が入れ替わってしまい、その事実を受け止め、それぞれの日々を過ごしていた。25年の月日が流れ、41歳になった2人。

 タナカは交際相手から妊娠を告げられたときに、えも言われぬ違和感を抱くようになる。そして急激にヒカリがどうなったのか気になり始めたタナカは、別々に生きる約束を破り、ヒカリの所在を突き止め、ヒカリが結婚し、娘ハナを生んだことを知る。そしてハナを見たときにタナカは衝撃を受ける「この子は、僕/ワタシだ……!」と。どうしてもハナのことが気になり、ヒカリに近づいたことで、2人とその周囲の人々にさまざまな混乱が起こってしまうのだった。

 ファンタジックな設定ながら、人生の転換期を迎えた大人の複雑な感情が入り混じり、ちょっとずしりとくる物語。

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