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閑話休題:「元徴用工」をめぐる韓国最高裁判決に、喝!【長島昭久のリアリズム】

2018.12.08 Vol.713

 北朝鮮情勢について3回にわたって連載してきましたが、最近、南の韓国からも残念な不協和音がもたらされましたので、今回は「元徴用工」をめぐる韓国最高裁判決の問題点につき論じたいと思います。

 韓国の最高裁にあたる大法院は、10月30日と11月29日に、「元徴用工」を雇用していた日本企業(新日鉄と三菱重工)に賠償責任を認定する判決を下しました。これに対し、日本政府は、「断じて受け入れられない」と厳しい批判を繰り返しています。

 いったい韓国最高裁判決のどこが問題なのでしょうか。半世紀前に「完全かつ最終的に解決された」(1965年の日韓請求権・経済協力協定第2条)はずの問題がなぜ再び蒸し返されるのでしょうか。

 まず、日韓請求権・経済協力協定は、日韓両国も批准する「条約法に関するウィーン条約」第26条、27条により、韓国の立法、行政、司法の三権を等しく拘束します。韓国最高裁判決が国際法を逸脱していると批判される理由はここにあります。そして、同協定により日韓は相互に「外交保護権」を放棄したので、個人の請求権までは失われないものの、相手国の裁判所に訴えても法的に救済されないこととなりました。その代わり、「元徴用工」への慰謝料など個人の救済についての道義的責任は自国、すなわち韓国政府が負うこととされました。このことは、同協定に関わる全ての外交文書を公開し、官民のプロジェクトチームで再検証した結果に基づき、2005年8月に盧武鉉政権が国内外に正式に表明しました。

 そして、それら個人への救済のための原資は、同協定により日本側が提供した総額5億ドルの無償・有償援助をもって充てることとされ、現に1970年代および2007年、2010年に韓国は国内法を制定し、そのような方々への支援を実施しています。にもかかわらず、今回の韓国最高裁の判決は、上述した日韓両国政府による法的、政治的、外交的努力を根底から覆してしまったのです。

 2度にわたる最高裁判決が出てもなお、韓国政府は同判決に対する態度を明らかにしていません。これに対し、我が国政府は強い口調で非難はするものの、韓国政府の出方を見守っているだけです。しかし、事態を放置すれば、次々に類似の訴訟が提起されてしまうでしょう。したがって、ここは、同協定第3条に基づき、日韓両国の代表者に加え第三国の代表者も入れた「仲裁委員会」の速やかな開催を提起すべきです。同協定によれば、日本側の提起を韓国側は拒むことはできず、仲裁委員会の下す裁定には必ず従わねばなりません。これしか早期に決着をつける方法は見当たりません。日本政府の決断を促したいと思います。  

(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その3)【長島昭久のリアリズム】

2018.11.10 Vol.712

 北朝鮮情勢は、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談からあたかも時が止まったままのように見えます。まさしく交渉の入り口で米朝双方が睨み合ったまま動く気配がありません。何故そんなことになっているのでしょうか?

「非核化」に向けた実質交渉入りを阻む最大のネックとなっているのは、休戦状態のまま65年の歳月が経過した朝鮮戦争にピリオドを打つ「終戦宣言」の是非をめぐる問題です。シンガポールの米朝首脳会談に先立ち4月27日に板門店での南北首脳会談で合意された「板門店宣言」では、「南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し」と明記されました。その上で、同宣言は「休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした」などと、その後の具体的なプロセスにまで言及しています。しかも、シンガポールでの米朝首脳合意では、この「板門店宣言を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」と明記されました。

 したがって、北朝鮮サイドとしては、自分たちが非核化に着手する前に、南北で合意した年内の「朝鮮戦争終戦宣言」を行った上で、他ならぬ米朝首脳合意の第2項目に明記された「(米朝両国が)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け協力する」との目的を達するため、南北朝鮮が模索する「南北米3者または南北米中4者の会談」を開催すべきではないか、という主張を繰り返すことになるわけです。

 もちろん私たちとしては、一刻も早く北朝鮮が非核化の具体的行動を取るべきだという立場ですが、いやしくも南北や米朝の首脳間で合意した事項はきちんとわきまえて物事を進めて行かねばなりません。その意味では、北朝鮮が無理筋の主張を繰り返しているとは言い切れません。しかも、朝鮮戦争を終わらせる政治宣言くらいなら、さっさとやってしまえとの意見も根強くあります。

 ただし、実際に「終戦宣言」を行うべきかについては、なお詳細な検討が必要です。紙幅が限られてきましたので、今回は懸念事項の頭出しにとどめますが、①「終戦宣言」によって、朝鮮半島の内外に展開する朝鮮国連軍の役割が終わるのか、②終戦宣言によって南北朝鮮の敵対関係まで解消されるのかどうか、③敵対関係が解消されるのであれば、在韓米軍の存在意義はどうなるのか、④在韓米軍が撤退あるいは大幅に削減されることによる我が国の安全保障への影響をどう考えるか、など検証すべき課題は少なくありません。   
(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その2)【長島昭久のリアリズム】

2018.10.13 Vol.web Original

 9月上旬、文在寅大統領と金正恩委員長の二人による3度目の南北首脳会談が平壌で開かれ、暗礁に乗り上げている米朝交渉をなんとか動かそうと必死の努力が行われましたが、北朝鮮をめぐる非核化プロセスは依然として膠着状態に陥ったままです。

 近いうちにポンペオ米国務長官が4度目の訪朝をすると伝えられていますが、これも全く予断を許しません。トランプ大統領は、「金正恩委員長に恋をした」などと軽口とも本気ともつかぬ発言を繰り返すなど、相変わらず強気の姿勢を崩していません。しかし、当初期待されていたような金委員長による国連総会出席は実現せず、代わりに乗り込んできた李容浩外相は従来通りの原則論を強調するばかりでした。

 いったい何が障害となっているのでしょうか?明らかなことは、「非核化の手順」をめぐって米朝の間に根本的な食い違いがあるということです。米国側は、金委員長がシンガポールで約束したように「本気で」非核化に着手するなら、少なくとも保有している核兵器や核関連施設のリストをまず申告すべきではないかと主張しています。もっともな要求です。しかし、これに対し、北朝鮮は、シンガポールで金委員長が約束した内容は、「米朝共同声明」にはっきり書かれていますよと。すなわち、まず①「新しい米朝関係」を築き、②「安定的な平和体制」をつくり出す努力を双方が行い、しかる後に③朝鮮半島の非核化(北朝鮮の非核化でない点は要注意)を実現する、という手順で双方が合意したはずではないかというのです。李外相が国連演説で「一方的な核武装解除には応じられない」と強調したのは、米国が上記①②のプロセスを無視して、いきなり北朝鮮に非核化を求めるのは約束違反だという意味なのです。しかも、北朝鮮の側からすれば、ステップ①をめぐり誠意を示すために、すでに豊渓里の核関連施設(の一部)を破壊しており、今度は米側がそれに応える番ではないかというのです。

 そして、ステップ①②をクリアするために北朝鮮が米国に執拗に迫っているのが、「朝鮮戦争の終結宣言」なのです。たしかに、北朝鮮から見れば、安心して非核化に着手するためには、もはや核保有を必要としない環境が整わねばなりません。そのためには、せめて朝鮮半島の戦争状態を終結させる宣言を行うことによって、①新たな米朝関係をつくり、②安定的な平和体制構築に向け確実な一歩を踏み出すべきではないかと。ある意味で筋が通った要求と言えなくもないですね。他方、今日の交渉停滞は、トランプ大統領の過剰なリップサービスと米朝間の曖昧な合意が招いたともいえます。次回は、焦点となりつつある「朝鮮戦争の終結宣言」が何を意味するのか、改めてそのリスクやコストについて検証したいと思います。  
  
(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その一)【長島昭久のリアリズム】

2018.08.11 Vol.709

「歴史的」と喧伝されたシンガポールでの米朝首脳会談から早60日。首脳会談の翌週には実務者協議が始まる、と豪語したポンペオ米国務長官もさすがに痺れを切らして、訪朝。結果は、北朝鮮外交伝統のお家芸である「遷延戦術」の頑健さを改めて痛感させられただけで終わったようです。(シンガポールで約束したはずの)非核化を迫るポンペオ長官に対し、北朝鮮は「盗人猛々しい」とやり返しました。非核化の前に「新しい米朝関係」を構築するのが先だろう(たしかに、これがシンガポール合意の第一項目に明記されています)というのです。新しい米朝関係のためには、せめて(4月27日の南北朝鮮「板門店宣言」で合意した)朝鮮戦争の終戦宣言に向け目に見える行動を示せと。

 こんな無理筋な北朝鮮の要求にもかかわらず、トランプ大統領はいつものようにブチ切れることもなく、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨のほんの一部(55柱)の返還が実現されただけで、「金委員長に感謝する」などと述べ、驚くほど殊勝な振る舞いを見せています。ポンペオ長官も7月23日に行われた上院外交委員会公聴会で「中身が空っぽではないか!」と激しく迫る与野党議員の集中砲火を耐え忍んだのです。

 あれほど自信満々に米朝首脳会談の成果を誇ったトランプ大統領ですが、私は大変なミスを犯してしまったと見ています。それは、肝心の首脳会談に致命的な準備不足で臨んだために生じてしまいました。とくに米側の交渉実務者にとりあまりにも時間がなく、最も大事な「合意」内容を全く詰め切れなかったため、非核化の期限も、具体的なロードマップも不明、しかも、「非核化」そのものの定義も不明(一説には、米政府内ですら共通の理解には達していないというのです!)。先のポンペオ国務長官訪朝の結果を見る限り、合意内容の履行の優先順位についてすら認識を共有できていないことが露呈しました。

 にもかかわらず、それが「大成功」だったとトランプ大統領自身が世界中に喧伝したために、トランプ大統領の政治的な信頼性が金正恩朝鮮労働党委員長の行動に左右されることになってしまったのです。つまり、トランプ大統領が成功するか否かの生殺与奪の権限を、こともあろうに交渉相手の金委員長に握られてしまったのです。この点は、金委員長から見ればトランプ大統領の弱点と映るでしょう。はてさて、「ディールの天才」の名が泣くというものです。

 次回以降、この欠陥だらけのディールが、今後の朝鮮半島情勢にどのような悪影響を及ぼすことになるのか、リアリズムの観点から厳しく検証していきたいと思います。その上で、我が国ができること、なすべきことを明らかにしたいと思います。

(衆議院議員 長島昭久)

米朝首脳会談、その後【長島昭久のリアリズム】

2018.07.14 Vol.708

 6月12日のシンガポールにおける米朝首脳会談は、専門家からは酷評されています。

 肝心の「非核化」について、米朝共同声明には「完全な非核化」としか謳われず、非核化の定義も期限も、検証の枠組みすら示されなかったことから、プロセスを限りなく先延ばししようとする北の思うつぼではないかと。

 欧米の識者の間では、「会談の勝者は中国」だといわれています。共同声明によれば、両首脳が合意したのは北朝鮮の非核化ではなく、「朝鮮半島の完全な非核化」でした。朝鮮半島の南側(=韓国および在韓米軍)に核兵器は存在しない中、「朝鮮半島」全体の非核化とするのは、韓国に対する米国の「核の傘」も排除するという意図が感じられます。

 我が国の基本戦略は、戦後一貫して米国による日韓への安全保障のコミットメントをいかに維持、強化していくかにあり、米韓合同軍事演習の中止にとどまらず、(将来的な)在韓米軍の撤退にまで言及したトランプ大統領の交渉姿勢を看過することはできません。拉致問題についても、共同声明には盛り込まれませんでしたし、トランプ氏は、非核化の経費は日本、韓国、中国が負担することになるだろうとも述べました。さらに懸念されるのは、北朝鮮を真剣な対話のテーブルに向かわせた「最大限の圧力」が、米朝首脳による握手によって溶解してしまうことです。すでに中朝の交易は活発に行われており、韓国もロシアも北朝鮮への経済支援に前向きです。

 しかし、これが「トランプ流」なのでしょう。まずトップ同士で握手を交わし、あとは実務者に丸投げ。先行きは不透明ながらも、非核化に向けて物事をスタートさせたことは間違いありません。中止された米韓合同軍事演習も北朝鮮の「非核化」への誠意次第ではいつでも再開できるわけです。

 ここからの日本外交には中長期的な視点が重要だと考えます。非核化のプロセスは長く険しいものとなるでしょう。その間に懸案である拉致問題を解決するため、日朝首脳会談を真剣に模索すべきです。その前提として、ストックホルム合意に基づく拉致被害者に関する真の調査報告を求め、その上で、非核化支援のための国際的費用分担には応じればよいと考えます。

 さらに、日本外交は、拉致問題を超えた朝鮮半島、さらには東アジアの平和と安定の秩序づくりにも積極的な関与をしていかねばなりません。そのためにも、米朝首脳会談以降、米中を筆頭に「自国ファースト」の動きが高まり、各国の思惑が交錯し対北政策は無秩序の混沌に陥りつつある状況を立て直さねばなりません。そのために、日本から「6カ国首脳会談」の開催を提案すべきです。日本(沖縄が最適地)が議長国となって、現状の無秩序にタガを嵌め、非核化の行程管理から北朝鮮経済の再建、南北交流から朝鮮半島の和平プロセスまで包括的な実務者協議をスタートさせるのです。

(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾参:結)【長島昭久のリアリズム】

2018.05.12 Vol.706

 これまで縷々述べてきたように、「中国台頭(“The Rise of China”)」のスケールとスピードは我々の想像をはるかに超え、今や国際秩序そのものを根底から揺るがすインパクトを持つものです。これに日本が一国で対応するには限界がありますし、米国とてそのパワーはかつてのような絶対的なものではなくなりました。現行のアジア太平洋地域の秩序を維持していくためには、域内外の「有志国(“like-minded states”)」の間で英知と国力を結集していかねばなりません。そのためにも、日台両国は、平和と安定のためには「力の均衡(“Balance of Power”)」が不可欠であるという国際政治の古典的リアリズムに基づいて、共同で地政戦略を練り上げていく必要があります。もちろん、それは「力には力で対抗を!」といった単純な発想ではありません。法の支配や公正なルール等に基づく開かれた国際秩序を形成するために、日台両国はともに国際社会で汗をかいていくべきです。その際、日本は、米国や他の有志諸国とともに、人道支援や健康医療、環境、あるいは公共交通等に関わる国際機構への台湾の参画を実現するべく最大限の努力をしなければなりません。

 最後に、日本の政治家として、一つ問題提起をしたいと思います。それは、今日の日本と中国、そして台湾の関係を規定している「1972年コンセンサス((※同年の日中共同声明にある、「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府」と承認(recognize) し、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」と表明する「中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重する (understand and respect)」という日本政府の立場))」についてです。

 国力が強大化し、力による強制を厭わなくなっている今日の中国を前にして、半世紀近くも前の国際情勢に基づいて発出された1972年の日中共同声明に基づく日中・日台関係の古い枠組みにいつまでも拘泥していてよいのかどうか、日台両国の政治家が真剣に自問自答するべき時を迎えたのではないでしょうか。もちろん、両岸関係の安定こそ日台中のみならず地域全体、いや世界にとって死活的に重要です。それを安直に毀損したり不安定化させることは私の真意ではないですし、つねに慎慮(prudence)をもって事を運ばねばなりませんが、当時の国際政治の現実を反映して生まれた1972年コンセンサスは、国際情勢の変化に合わせて不断に見直されるべきであったし、半世紀を迎えようとする今こそアップデートするべきではないか。その問題意識への表明を以て、私の結論といたします。

(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾弐)【長島昭久のリアリズム】

2018.04.14 Vol.705

 日本と台湾は、同じ第一列島線上に位置し、中国大陸からの圧迫に耐えつつ交流を重ねてきた長い歴史を持ちます。共に海洋勢力にして通商国家であるという地政学的特性を踏まえ、日台は、「運命共同体」として両国の生存と繁栄のための戦略を構想し、安全保障環境の改善に努めていかねばなりません。その意味で、領土、領海、領空における主権を確保し、遥かインド洋からマラッカ海峡を経て南シナ海および西太平洋に至る12,000kmを超えるシーレーンの安全確保は、日台にとって死活的に重要な課題です。

 台湾は、日本経済の生命線であるシーレーンと中国が太平洋へ進出する航路を扼する位置にあり、その帰趨は我が国の安全保障のみならずアジア太平洋地域全体の平和と安定に直結します。とくに、第一列島線の中心に位置する台湾は、全長1400kmにもおよぶ我が国の南西諸島エリアの安全に直接影響を与えます。一方、東シナ海に浮かぶ沖縄県尖閣諸島に対する中国の領土的野心を看過すれば、そこを橋頭堡にした大陸から台湾への併合圧力は計り知れないものとなるでしょう。

 1972年の日中国交正常化(すなわち日台断交)以来、日台の政治外交関係は著しい困難に直面しましたが、日本の地政戦略における台湾の価値に鑑み、実質的な「戦略対話」を一層緊密化して行く必要があります。とくに、日本で近年立ち上がったNSC(国家安全保障会議)と台湾の国家安全会議とのシニア・スタッフ間の日常的な情報共有や信頼醸成を積み重ねることは、それが定期的に行われている米台間での実績を見るまでもなく、地域の安全保障にとり極めて重要となります。

 また、そのような戦略レベルでの日常的交流を支える意味でも、経済面での「日台FTA」を早期に締結すること、および日本版「台湾関係法」の制定が急務です。前者は、日本が東南アジアとの間で育んできた経済的な結びつきを基盤に展開するサプライ・チェーンのネットワークを、蔡英文政権が推進する「新南向」政策(New Southward Policy)と有機的にコラボレーションさせることに効果があるに違いありません。これにより、単に日台間の貿易や投資を促進するだけでない、成長著しいアジア太平洋地域を舞台に両国経済にとってウィン・ウィンの関係を強化することにつながるでしょう。また、日本版「台湾関係法」については、日台の法的関係を米台のレベルにまで高めていくことを目標とすべきでしょう。それは、日米台のトライラテラル協力を深化していくに確かな法的基盤を提供することになるはずです。
 
(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾壱)【長島昭久のリアリズム】

2018.03.09 Vol.704

 アジア太平地域の平和と安定、繁栄を確かなものとするため、米国による地域安全保障へのコミットメントが引き続き必要であることは繰り返し述べてきました。実際、域内各国は、安全保障政策を策定し、外交を展開する上で、この米国の関与を「所与のもの(given factor)」として、自国の安全と繁栄を確保してきました。しかし、いくつかの理由から、米国の関与は永続的なものとは言えなくなっています。第一に、中国の台頭によって、必然的に米国の国力や影響力は相対的に低下します。第二に、トランプ政権の「意思」次第では(それが財政上の理由なのか中国による工作の結果かに拘わらず)、この地域から米国が徐々に後退を余儀なくされる可能性もあります。

 いずれにせよ、米国がアジア太平洋地域の平和と安定の国際秩序を維持するために支払っている代価は莫大で、年間にしておよそ1200億ドルにも上るといわれています。従って、(米国民の理解と支持も含む)米国の持つリソースには自ずと限界があり、米国のコミットメントが減れば、そのぶん力の均衡(balance of power)は崩れ、地域は不安定に陥るでしょう。これによって直接打撃を蒙ることとなる国々は、地域の安全保障により強い当事者意識を持つべきです。域内の同盟・友好国間で米国の荷重を分担することができれば、米国のコミットメントの持続可能性はかなりの程度高まります。それは、トランプ大統領が選挙戦の最中から同盟国に繰り返し求めてきた「公正な分担(fair share)」の考え方とも合致します。

 そこで、私は、予てから「ホスト・リージョン・サポート(Host-Region Support, HRS)」という考え方を提唱してきました。同盟国が米国の前方展開兵力を受け入れる際に様々な便宜を供与することをホスト・ネーション・サポート(接受国支援)と呼びますが、これを地域全体に拡大する発想です。すなわち、このHRSによってアジア太平洋地域全体に米軍の前方プレゼンスを支援する多国間協力システムを構築する。HRSには、いくつかの効用があると私は考えます。

 第一に、米軍の前方展開に伴う膨大な財政支出を補完することができること。もちろん、相応の財政的な基盤は日本も負担すべきでしょう。第二に、域内の同盟国がバラバラに提供しているホスト・ネーション・サポートを地域全体のニーズや負担能力などに合わせて再調整することにより、地域の安全保障基盤を安定化することもできるでしょう。第三に、HRSを促進する過程で、米軍の前方展開兵力を指揮統制する米太平洋軍と域内の同盟・友好国との間に戦略、政策、作戦の各レベルにおける緊密な協力の枠組みがより精緻に組み上がっていくに違いないでしょう。日本は、これらメカニズムを構築するための政策調整を主導していくべきなのです。

(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾)【長島昭久のリアリズム】

2018.02.10 Vol.703

 これまで述べてきたような戦略環境の変化に対応するために必要なことは、第一に、世界第3位の経済大国である日本が、アジア太平洋における平和と安定と繁栄の確立に積極的に関与することです。第二に、その関与をより強固なものにするため、日米同盟の深化を通じ戦略的な勢力均衡を確保し、域内における国際秩序を再構築すること。第三に、同じ海洋勢力である豪州、台湾、インドネシア、シンガポールなどとの緊密な連携をどこまでレベルアップできるか真剣に模索することです。

 まず、日本がここ数年で取り組んできた安全保障をめぐる7大改革を概観します。第一は、国家安全保障会議の創設。これは、米国のNSCなどのカウンターパートとして、日本の安全保障戦略を構築し関係省庁を統括する司令塔です。第二は、秘密保護法制の整備。これにより、米国との情報共有は飛躍的に高まりました。第三は、防衛装備品輸出の緩和。豪州との潜水艦共同開発・生産は実現できませんでしたが、今や米国のみならず英国、インド、フランス、イタリアとの共同開発の可能性が広がっています。第四は、国際平和協力や安全保障分野への政府開発援助(ODA)の柔軟活用です。それまでは安全保障に関わるODA拠出は禁じられていましたが、これによってフィリピンやマレーシアへの練習機や哨戒機の供与に道が開かれ、東南アジア諸国の海上警察・洋上監視における能力構築を直接支援できるようになりました。

 さらに、第五に日米防衛協力のためのガイドラインの再改定、第六に集団的自衛権の(限定的)行使を容認する閣議決定、第七に安全保障関連法制の包括的な改正です。これらを通じて、日米は、少なくとも西太平洋においてはほぼ相互防衛の体制がとれるようになりました。最近でも、海上自衛隊の護衛艦等が、朝鮮半島をめぐる強制外交の一環で活動するカール・ヴィンソン空母戦闘群の護衛任務に就いたことが耳目を集めました。また、能力向上著しい北朝鮮のミサイルによる飽和攻撃に対しても、日米のミサイル防衛システムはリアルタイムでの情報共有・指揮統制リンクによって、渾然一体となった迎撃対処が可能となりました。

 今後の最大の課題は、いかにして日本の防衛費を増やせるかです。重点を置くべきは、第一列島線を死守するための日本版A2AD戦力の増強でしょう。それには、第一に地対艦ミサイルの能力向上、第二に潜水艦戦力の拡大、第三に敵基地への反撃能力を含む統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense, IAMD)能力の増強が必要です。数字の上でも、日本は2004年に国防費で中国に抜かれ、2020年には6倍、2030年には10倍の差となる計算です。したがって、日本の防衛力整備についても、独自の努力を真剣に考える必要があります。少子高齢化に伴う社会保障経費が増大する中であっても、わが国として必要な防衛費を捻出する政治的覚悟を持たなければなりません。
(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その九)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2018.01.13 Vol.701

 ドナルド・トランプ大統領は、昨年1月の就任以来、過激な表現で相手を幻惑し、その後に大胆な譲歩をして見せて一気にディール(取引)を成立させる手法を繰り返し用いています。就任前は「“一つの中国政策(One China Policy)”を見直す」と公言するなど、かなり強硬な対中政策を打ち出していましたし、今でも表面的には強硬姿勢を崩していないように見えます。しかし、南シナ海をめぐっては、オバマ政権最終盤で慌てて再開した「航行の自由」作戦を昨年5月まで実施を見合わせていた様に、実質的には、オバマ政権と大差はありません。オバマ政権も、アジア・ピヴォット(回帰)やリバランス戦略などを次々に打ち出し、中国の海洋進出に対する牽制を行うかに見えましたが、結果的に、南シナ海の人工島造成を許してしまいました。つぎに来るのは、「南シナ海防空識別圏(ADIZ)」の設定かもしれませんし、人工島の軍事的運用の開始かもしれません。

 実際、中国はこの間も、着々と人工島に滑走路を建設し、民間利用では説明のつかないような対空レーダーや長距離地対空ミサイルを格納できる屋上開閉式施設、さらには、昨年に入ってついに戦闘機の試験飛行を始めました。このような中国の動きを適時に牽制するためにも、少なくとも、ハワイの米太平洋軍司令部は、ワシントンに対し常続的な「航行の自由」作戦の実施を意見具申していると聞いています。1980年代来世界の海で続けられてきた米国によるこの作戦は、中断したり再開したりすればするほど「政治化」されてしまい、かえって相手を過度に刺激し挑発的行動と受け取られかねなくなります。

 すでに中国は、ヴェトナムを追い出して西沙諸島の実効支配を握り軍事力を展開しています。南沙諸島では広大な人工島を造成し、さらにはフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するスカボロウ礁への中国公船による執拗な攻勢が続いています。こんなことが許されるなら、国際秩序や航行の自由といった法の支配は形骸化し、19世紀的な力の支配に逆戻りとなってしまいます。

 南シナ海や東シナ海での中国の力を背景にした一方的な現状変更の振る舞いをいかにして解決するかは、今後のアジア太平洋地域の国際秩序の根幹にかかわる重大問題です。換言すれば、米国が、この地域に適切に関与し続ける意思(resolve)を有しているか否かを占う重要な試金石ともいえます。しかし、トランプ政権が、無原則なディールによって米国一国の短期的な利益を優先させることに汲々とする余り、これまで米国が自らリスクを背負いコストを支払いながらも維持してきた国際秩序を等閑視するようなことがあれば、アジア太平洋地域は一気に不安定になり、世界経済の牽引役を期待されている域内経済は深刻な打撃を蒙るでしょう。
 
(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その八)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.12.09 Vol.701

「現状維持(status quo)」という言葉は、台湾海峡の平和と安定においては死活的に重要なキーワードです。過度な対中傾斜で台湾内の世論から拒否された国民党の馬英九政権に代わって8年ぶりに政権に復帰した民進党の蔡英文政権ですが、それとて大陸中国との適度な距離感をつかみ損ねれば途端に台湾の人々からの支持を失ってしまうことは確実です。台湾海峡両岸の関係が台湾の政権にとりその死命を制する重大問題であることは、馬前政権が「ひまわり学生運動(※馬政権が強行しようとした事実上の中台FTAである両岸サービス貿易協定への反対運動)」を中心とした「天然独」と呼ばれる台湾新世代の猛烈な批判にさらされ政権を追われた事実がある一方で、その前の陳水扁民進党政権が過激な独立志向を米国から痛烈に非難されて政権の求心力を喪失していった事実をも併せて想起すれば明らかでしょう。

 その意味において、予測不可能なトランプ政権の外交姿勢は、当事者の台湾のみならず同盟国たる日本にとっても頭の痛い問題です。とくに、大統領就任前にトランプ氏が異例にも蔡総統からの祝福電話を受け、その後のテレビ・インタビューで、リチャード・ニクソン政権以来40年ちかく米中関係を規定してきた「一つの中国」政策(”One-China” Policy:「原則」ではない点は注意を要する)からの離脱を示唆した発言は、関係国を少なくとも2カ月余り翻弄しました。結局、トランプ大統領は今年2月の日米首脳会談直前に大統領就任後初の米中電話会談を行い、あっさりと「一つの中国」政策を尊重すると表明し、その背後でどのような戦略的なディール(取引)がなされたのかという疑心暗鬼を各国に招きました。そして、それが今後の両岸関係にどのような影響を及ぼすのか予断を許しません。

 これは、米国内法である台湾関係法に基づく米国の対台湾武器供与の行方をも左右するという意味で、台湾の安全保障にとって死活的な問題です。中台の軍事バランスは、1990年代後半以降、年々その格差が拡大しており、2015年時点で中国の公表国防費は台湾の約14倍となっています。そのような情勢下で、台湾が予てから希望しているF-16C/D戦闘機や通常動力型潜水艦などの供与が円滑に進められるかどうか、注視していく必要があります。圧倒的な陸軍力を誇る中国ですが、台湾本土への着上陸侵攻能力はいまだ限定的といわれています。しかし、近年、中国は大型の揚陸艦を建造するなど侵攻能力の向上に努めており、圧倒的なミサイル攻撃能力と併せ考えれば、米国による台湾への軍事支援とともに、台湾独自の防衛努力も加速化させる必要があるでしょう。      
 (衆議院議員 長島昭久)

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