都知事選は、小池百合子さんが291万票を集める圧勝を収め、初の女性都知事に就任しました。今回の都知事選もテレビが盛り上がる「劇場型」の様相となりましたが、これまでと違うのはインターネットで広がった論調が、投票行動に一定の影響を与えた可能性が強く感じられる点です。
3年前の参院選でインターネットを使った選挙活動が解禁された当初は、匿名の書き込みによる誹謗中傷が目立ち、ネット選挙の負の側面がクローズアップされました。ただ、リアルの投票行動に顕著に影響したかどうか微妙な面もありました。
ところが、今回の選挙戦、地方の首長を経験した有力候補者の出馬が伝えられると、陣営がセールスポイントに掲げた実務能力が本当なのか、有名ブロガーが大手ポータルサイトのニュースブログで検証記事を書いたり、著名な元政治家がネットメディアのインタビューに対し、都政の裏事情について“爆弾”発言をしたりして、その内容がものすごい勢いでネット上に拡散しました。
この3年間の変化で特に大きかった点として、まず有力ネットメディアの台頭が挙げられます。アメリカでは2000年代にハフィントンポストが米大統領選に影響を与えたと言われますが、日本でも近年、そのハフィントンポストが朝日新聞との合弁で日本に進出したほか、前述の大手ポータルサイトで有識者や有名ブロガーの個人ニュースブログが発足。ほかにも新しいプレイヤーが登場し、新聞・出版から若手の優秀な人材が移籍する動きも出ています。
そしてスマートフォンの普及も大きな変化です。良質なコンテンツを作る媒体が育つと、今度はそれを拡散する環境が整いました。スマートフォンのニュース・キュレーションアプリサービスの利用者が激増し、新聞、テレビ、出版等の伝統メディアが配信する報道記事と一緒に、エッジの効いた有力なネットメディアの記事も多くの人が見るようになります。新聞、テレビは選挙戦中、政治的公平性を過剰に慮る余り、特定候補者のネガティブ報道は抑制的になります。そんな既存メディアに物足りなくなった若い世代が、ネットメディアの記事を読み、投票判断の材料にするようになったのでしょう。
興味深いのは、新聞、テレビからの選挙報道を主に接していた親世代までもが、若い世代からネットメディアが抉り出した情報に口コミで伝わる動きが見られたことです。新しい情報の流れ方が生まれつつあるように感じます。ただし、若い世代は、接触した情報を精査する能力も高めねばなりません。欧米よりもメディアリテラシー教育で立ち後れる日本で重い宿題を残しました。 (東大・慶応大教授)