先日、神戸新聞から「関西で東京オリンピック・パラリンピックについてできることとは?」というテーマのコラムをオファーされました。私は神戸の出身で、その地元紙からのたっての願いということで喜んでお引き受けしました。しかし反面、そういった種類の原稿を書く依頼が来た背景を考えると、2020年東京オリンピック・パラリンピックに期待を寄せる「温度差」「地域差」を感じてしまいました。
どうしても東京との距離が心理的にあるのでしょう。加えて、私も半分は関西人の気質があるので、よく分かるのですが(笑)東京に対する関西独特の対抗意識も影響しているのかもしれません。しかし、改めて言うまでもなく2020年の大会は、東京だけでなく、日本を挙げてのプロジェクトです。都民だけでなく、全国民が一体となった機運が生まれなければ、世界中に大会の熱を伝えることはできません。
心の距離を埋めて、オリンピック・パラリンピックを「自分事」にしてもらうには、どうすればいいのか、私なりに思案しコラムを書いてみました。東京の読者の皆さんが、神戸新聞を読む機会はほとんどないでしょうから、概略を説明しましょう。関西の方々が今一つ乗り気になれない要因として、国際的なスポーツ大会開催の意義を、インフラや経済効果のような「ハードレガシー」でしか位置付けられないような、高度成長期の価値観にとらわれているのではないかと指摘しました。そこで私は、大会がもたらす「ソフトレガシー」にもっと目を向けるように提案しました。ソフトレガシーとはスポーツを通じた社会教育基盤や、心身の健康を保つためのコミュニティのことです。
1964年の東京オリンピックに際し、日本中に誕生したのが日本スポーツ少年団でした。野外活動やレクリエーションを通じて、子どもたちの健全育成をしてきました。あれから半世紀が経ち、Jリーグ創設があって地域の総合型スポーツクラブが各地に誕生し、スポーツ基本法制定による後押しも加わって、スポーツのコミュニティが着々と増えてきました。今度は2020年大会を機に、ライブでリアルタイムに各国選手団の活躍を見ることができますから、そうしたソフトレガシーの基盤はさらに整う流れになります。キャンプ地は、全国1700の自治体どこにでも可能性はあります。2002年のサッカー日韓W杯では、カメルーン代表のキャンプ地となった大分・旧中津江村が話題になりました。
「見る」だけでなく、「する」レガシーもあります。コラムでは関西の事例として、元ラグビー日本代表の平尾誠二さんが理事長を務めるNPO法人「スポーツ・コミュニティ・アンド・インテリジェンス機構」(神戸市)を紹介しました。この法人は名門・神戸製鋼ラグビー部の人材や地域のリソースを総動員して、ラグビーの指導から指導論・人材育成の座学まで幅広い層の人たちに展開しています。
開催地である東京でもソフトレガシーの意義を見落としています。多摩地区ではしばしば「オリンピックの効果が実感できない」という声を聞きますが、キャンプ地に関していえば地方よりも立地条件は恵まれています。選手団との交流は街の歴史に誇るべき出来事になり、触発された子どもたちの視野を大きく広げるきっかけになるのです。
(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)