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【TOKYO HEADLINEの本棚】 | TOKYO HEADLINE - Part 15
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『陽だまりの天使たち ソウルメイトII』【著者】馳星周

2016.03.28 Vol.663

 デビュー作『不夜城』をはじめ、ノワール作品のイメージが強い馳星周の犬にまつわる短編集の第2弾。章のタイトルにはトイ・プードル、ミックス、ラブラドール・レトリバーなど、犬の名前がつけられ、その犬種の犬と人間との出会いや別れ、絆を描く。

 病に侵された少女が捨て犬の譲渡会で出会ったトイ・プードルのダンテ。決して人間に懐かなかったダンテと運命的に出逢い、一緒に暮らすことになった少女は固い絆で結ばれ、両親すらも入り込めない信頼関係を築く。楽しい時間を過ごす1人と1匹だが、少女の病気が再発して…「トイプードル」。

 仕事も家庭も失った男が、死に場所を求めさびれたキャンプ場を訪れた。するとそこに、捨てられたとおぼしき1匹のみすぼらしいフレンチ・ブルドッグが現れる。とりあえずあり金をはたいて、ぶひ子と名付けたその犬にエサを与えていると、男の心に今までに感じたことがない感情が湧いてきて…「フレンチ・ブルドッグ」。

 その他5つの本編も、感涙必至のストーリー。犬という魂の伴侶(ソウルメイト)が、人間を導き、癒し、時には人生の方向性まで示してくれる。犬には過去も未来もない。今を生きているだけ。しかしその姿が人に気づきを与えてくれるのだ。書き下しの巻頭詩「いつもそばにいるよ」も必見。犬を飼っている人は切なさで涙が止まらなくなるかも。1ページ目から、犬との生活の素晴らしさとやがてくる別れの切なさが心を震わせる。犬が教えてくれる愛する気持ちと、愛される喜び。そしてソウルメイトとして結ばれる絆は永遠だ。

【定価】本体1600円(税別)【発行】集英社

いま、職場を、仕事を楽しめない人にとって必読の本だと思います

2016.03.13 Vol.662

 女子大を卒業後、吉本興業に入社し、故・横山やすしのマネジャーを務め、宮川大助・花子、若いこずえ、みどりを売り出した伝説のマネジャーの奮闘記。吉本興業といえば、言わずと知れた関西の大手芸能プロダクションで、現在では女性社員も多くかかえる大企業だが、1985年、著者が入社した時は、バリバリの男社会。右も左も分からないまま入社した著者は、初めて経験する事、信じられないトラブルに直面してもそれを笑顔とガッツで、そして時々涙を流しながら乗り越える。失敗も数多くやらかすが、その失敗を帳消しにするぐらいの仕事をやってのける。

 しかし、ついに衝撃の事態が。べろべろに酔っぱらって仕事をしていたやすしを著者はセットの後ろに連れ込み殴ってしまったのだ。その後どうなったのか…は同書を読んでもらうとして、業界素人の女性がそこまでやったのは、仕事に対する責任感だけではない。仕事を、会社を、そして芸人を愛していたのだ。もちろん横山やすしも。手が付けられないほどの人物であったが、その才能を、そして根底にあるチャーミングな部分をとても好きだったのだと思う。でなければ、酒のせいで訳が分からなくなっている状態のあんな破天荒な人を、殴ることはできない。若い女性マネジャーの奮闘記にして、“仕事とは”“働くとは”ということを考えさせられる一冊。

『吉本興業女マネージャー奮闘記「そんなアホな!」』
【著者】大谷由里子
【定価】本体800円(税別)
【発行】立東舎

あの名作落語にはこんな続きがあったのか—?『えんま寄席 江戸落語外伝』

2016.02.22 Vol.661

 落語好きなら一度は思う「あの噺の続きは?」「あのサゲ(オチ)はなんか腑に落ちない」といった着想からヒントを得た『えんま寄席 江戸落語外伝』。「芝浜」「子別れ」「火事息子」「明烏」という落語の名作の登場人物が死んだあと、地獄の入り口で閻魔様に天界行きか地獄行きかを裁かれる時に、落語には出てこなかった“その後”や“サイドストーリー”が明らかになっていくという構成。これが、目まぐるしく変わるストーリー展開と、人物たちの意外な関係性により、話がどんどん膨らんでいき、実に面白い。

 酒癖の悪い旦那を更生させ、立派な魚屋にした「芝浜」の女房。大店の女将としてその後も旦那を支え続け、めでたしめでたしとなったのか…と思いきや、閻魔様があの落語のサゲとなったその後の顛末を暴き、実はこの夫婦の関係は落語のようなものではなかったことを白状させる。さらに、実はこの女房「火事息子」の藤三郎とも何かしらつながっていて…と、一話完結ではあるものの、他の章のストーリーにもつながっているというなんとも高度な技で、ぐいぐいと引き付ける。

 そして第4席「明烏」の浦里の章では、「明烏」のほか、「品川心中」「幾代餅」「五人廻し」「三枚起請」「紺屋高尾」といった要素がふんだんに散りばめられていて、落語ファンなら思わずニヤリとしてしまう。もちろん、落語を全然知らない人でも楽しめる地獄エンターテインメント(?)なのでご心配なく。逆にこの本を読めば、落語に興味が出てきて、これらの噺を聞きたくなるかも。本を読んでから、落語を聞いて、また本を読むと1回目の読後とは違った楽しさを発見できるはず。

『えんま寄席 江戸落語外伝』著者:車浮代
【定価】本体1500円(税別)【発行】実業之日本社

なぜ、あの人はいつも得をするのか?『一流のサービスを受ける人になる方法』

2016.02.07 Vol.660

 サービスする側の本は多いが、サービスを受ける側の本は珍しい。同書には、どのようにしたら、さまざまな場所で一流のサービスを受けられ、ちょっとお得な気分を味えるのかということが書かれている。

 ホテル、レストラン、飛行機、ゴルフ場など、一流のサービスが受けられたらちょっとセレブ気分になれる場での振る舞いは慣れていないとなかなか難しいもの。それらの場で最高のサービスを提供してきた人にどんな振る舞いをするともっとサービスしたくなるか、どんな言葉遣いだと好感を持つかなどをリサーチ。現場の声を元に、世界50カ国を訪れ、世界中で一流のサービスを受けてきた著者が、一流のサービスを引き寄せ、それらをスマートに使いこなすためのテクニックとコツを伝授。良い靴と高価な時計、女性ならバッグを身に着けるとか、白くて歯並びのいい歯がさまざまなシーンで有利など、実践できる外見的なアドバイスもあるが、繰り返し語られているのは、気持ちの面。

 お金を払っているからといって威張らない。相手を尊重し、敬い、感謝をもって丁寧な言葉でリクエストを伝える。簡単なようで、どうしてもサービスを受ける側になると、忘れがちだ。かといってへりくだる必要もなく、自分の要求はきちっとするのが大事だとも。リクエストが単なるワガママにならないように、場の雰囲気を的確に判断し、さりげなく伝える。

 一流のサービスを受けられれば気分がいいだけではなく、ホテルの部屋や飛行機の座席がグレードアップされる、入手困難なチケットが手に入り、楽屋に入れる、デキるウエイターがテーブル担当につくなど、お得な思いができると著者。ぜひとも会得したいものだ。

『一流のサービスを受ける人になる方法』著者:いつか
【定価】本体1500円(税別)【発行】日本経済新聞出版社

『柳家三三、春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、三遊亭白鳥「落語家」という生き方』著者:広瀬和生

2016.01.23 Vol.659

 同書は東京・世田谷区の北沢タウンホールで行われた「この落語家を聴け!」におけるインタビューを採録したもの。「この落語家を聴け!」はロング・インタビュー付きの独演会という形式で2012年7月から2013年7月(シーズン1)、及び2014年3月から2015年10月まで(シーズン2)の期間、ほぼ月に1回のペースで行われていた。今回登場する5人の落語家は皆、シーズン1、2の両方に出演しているため、インタビューは2本ずつ掲載。落語会には今を時めく春風亭昇太や柳家喬太郎、春風亭百栄のほか、落語協会最年少会長、柳亭市馬や橘家文左衛門など錚々たる噺家が登場。

 その中でこの5人を選んだ理由として著者は「2010年代」を象徴する一冊にしたいと考えたからと語る。そのキーワードは「自然体」。「自然体」な落語を代表する演者が一之輔であり、白酒であり、兼好であると。そして古典の伝統を守る三三と奇想天外な新作の白鳥という「両極端な二人」も、昔の「古典派」対「新作派」のような図式とは異なる2010年代らしい「自然体」を感じさせる演者だという。そういわれれば彼らの落語を一言で表すと「自由」という言葉が浮かぶ。もちろん、彼らなりの落語の形をきちんと持ちつつだが、実に伸び伸びと楽しそうに落語に向き合っている。そんな彼らが、下積み時代のこと、師匠からの教え、ブレイクのきっかけや落語家としての苦しみ、楽しみを語る。とはいっても笑わせてなんぼの噺家。しかもトークの採録なので、思わず笑ってしまうので、電車で読む時は要注意。

『柳家三三、春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、三遊亭白鳥「落語家」という生き方』
【定価】本体1700円(税別)【発行】講談社

ズレているのは蛭子か孔子か、はたまた時代か?

2016.01.10 Vol.658

 最近、蛭子能収がプチブレイクしている。前作の『ひとりぼっちを笑うな』が14刷8万部を突破し、『生きるのが楽になる まいにち蛭子さん(日めくり)』が大ヒットというのだから、プチどころか大ブレイクといえるのだが…。その前に出ない感、ひっそり感がプチブレイクに見える理由なのかも。なぜ蛭子の言葉が受けるのか。松岡修造のような熱血に疲れた人が、その脱力系の言葉にホッとするからなのか。もしくは癒し系のフレーズの裏に鋭い真実が隠されているからなのか。その答えが最新刊『蛭子の論語 自由に生きるためのヒント』に隠されている。論語なんて読んだことがないどころか、そもそも知らなかったが、編集者の依頼に断れず、しぶしぶ読み始めたというものの、孔子の言葉にとても共感して…という触れ込みではあるが、蛭子なりにやや強引に解釈している部分もあり、興味深い。蛭子の主張をざっくりまとめると、「長生きしたい」「ギャンブルはやめられない」「ひとりぼっちでもいい」「空気なんか読めなくていい」「お金は大事」そして「自分自身を受け入れる」ということ。その一番の根底にあるのが、タイトルにもあるように「自由に生きたい」という人生哲学だ。自分らしく生きる自由を得るためには、やっかみや嫉妬心を買わないように目立たなく生きる。言い争いは非建設的なので、相手が間違っていても反論せず、謝ることも平気と言い切る蛭子はかっこいい。外見は弱く見せておいて、一番強いのはこういう人間だ。同書で孔子と蛭子の言葉を読めば、悟りが開けるかも。

【定価】本体800円(税別)【発行】KADOKAWA

大ヒットシリーズ第三弾は亡きオフクロに捧ぐ……笑って泣ける感動作!

2015.12.27 Vol.657

 バアちゃん(著者の祖母)、ケンちゃん(同父)、セージ(同弟)というメガトン級の3バカによる戦慄のバカ合戦が描かれ、大ヒットとなった『板谷バカ三代』シリーズの第3弾。

 これはフィクションか?と思うような、とんでも家族を支え、まとめてきたのが、唯一まともでしっかりもののオフクロ(同母)。しかしそのオフクロが肺癌にかかり、2006年に闘病の末他界。死後、亡くなる直前まで家族に内緒で日記を書いていたことが発覚した。見つかってすぐには“涙がバカみたいに出てきて”とても読めなかった日記を、七回忌を迎えたのを機に読んでみた著書。その日記と著者の感想を紹介するとともに、日記を通して思い出したことや、その後の話をまとめたのが同書だ。

 シリーズの愛読者なら知っていると思うが、このオフクロがいなければ、板谷家はとっくに崩壊していたのではと思わせるほど、まともなオフクロだけあって、さぞやそこには家族への愛情がいっぱいつまっているかと思いきや、嫁の愚痴やバカ家族を罵倒する言葉も。それでも日々生きていることに感謝し、思いやりを忘れないようにという文章に、真面目で誠実な性格が表れている。それにしても癌になってまで、家族の心配をし、病気と闘う様子は、気の毒でありながらも、あまりの突き抜けたエピソードに笑ってしまう。オフクロもぶつぶつ言いながら、そんな家族とのやり取りが楽しかったのではと思う。笑いと涙がちりばめられたこのエッセイには飾らない家族の日常と言葉が散りばめられている。

ノンケが聞きづらいゲイの秘密、ぜんぶぶっちゃけます!!

2015.12.17 Vol.656

 ここ数年、芸能界は“おネエ”ブームにわき、次々と新しいおネエが登場している。だがひとくくりにおネエと言っても、個人個人抱えている状況は大きく異なる。現在、テレビで活躍しているおネエたちは大きく分けると、女装家、ニューハーフ、ゲイといったところだろうか。もちろん、女装家でゲイなど混合型も。そんなよく見かける親しみのある(?)おネエたちをはじめ、最近耳にする“LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)”を含むセクシャル・マイノリティー(性的少数者)について、ゲイマガジンの2代目編集長にして、自身もゲイだとカミングアウトしている竜超氏が、分かりやすく解説。美輪明宏が残した偉大な功績、日本初の同性愛マガジン『薔薇族』の創刊当時の社会背景、そこから現在に至るまでの同性愛者たちの歴史など真面目な文化史があると思えば、ノンケ(セクマイじゃない人、異性愛者)の素朴な疑問にも答えてくれる。例えば「新宿2丁目ってどんなところ?」「オネエご意見番がテレビにたくさんいるのはなんで?」

 さらには「昭和のゲイってどんな人たち?」など、軽いものからかなりディープなものまで盛りだくさん。今まで語られなかった魅惑のゲイワールドの秘密がぎゅっと凝縮された一冊。用語解説もあり、ノンケでも楽しめるエッセイになっている。付録として巻末には『薔薇族』のイラストレーターが描くゲイカップルの日常を描いた漫画も。

『火花』が223万部超!年間&歴代年間売り上げ総部数でトップに

2015.11.30 Vol.655

『オリコン 2015年 年間“本”ランキング』が30日発表され、又吉直樹の『火花』(文藝春秋)が223.3万部を記録して『BOOK(総合)部門』で1位に、さらにこの記録は同ランキングにおいて歴代最高になったことが分かった。また、デビュー作での同部門制覇は初。

 受賞した又吉は書面で「『火花』は「本好きのコアな人だけに」とか、その反対で「普段本を読まない人に」とかそういうことを考えず迷いなく書いた作品です。だから、多くの方に読んでいただけたことが何よりもう嬉しいです。音楽、映画、TV、劇場、お笑い……世の中には“面白いもの”がいっぱいあります。いろんな“面白いこと”の選択肢から、本を手に取って読んでもらうことがいかに難しいか……。そういう状況を踏まえて、今後も書いていきたいです。何人かの、本を買ってくれる読者の取り合いをするんじゃなくて、読書以外の“面白いこと”に対抗できる作品をつくっていくのが必要なんやろな、というふうに思います。本もお笑いも、これからも両方ちゃんとやっていこうと思っています」と、コメントを発表した。

 『火花』が歴代トップになったことで、歴代2位は『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉、2011年)の163.6万部、3位は『ハリー・ポッターと死の秘宝』(J.K.ローリング著、松岡佑子訳、2008年)162.5万部になった。

『オリコン 2015年 年間“本”ランキング』は、ウェブ通販を含む全国書店3517店舗からの売り上げデータをもとに集計したもの。集計期間は2014年11月17日~2015年11月22日。
 

大型新人始動! 笑って泣けるお笑い青春小説『上方スピリッツ』著者:奈須崇

2015.11.22 Vol.655

 著者の奈須崇は、吉本総合芸術学院(NSC)の出身で、同作が小説家デビューとなる。書籍の帯には同期のブラックマヨネーズ・小杉のコメントが掲載。その辺を踏まえて読むと、そのリアリティーに納得しつつ、このエピソードは実話なのか?と、お笑い芸人界の裏をのぞいた気になってしまう。

 ストーリーは、お笑いコンビ「上方スピリッツ」のラジオを偶然聞き、自殺まで考えた引きこもりからハガキ職人を経て、あこがれの上方スピリッツの構成作家として仕事をするようになった阿部の目線で進行していく。上方スピリッツの主戦場は日の出劇場という地下で日の当たらない劇場。売れていない芸人が、いつか売れっ子になることを夢見て、ライブやイベントを行う場所だ。しかし、その劇場の閉鎖が決まってしまう。そのことを阿部は、東京で漫才コンテスト“漫才コロシアム”に出演する2人には内緒にしていた。賞には及ばず失意のうちに大阪に戻って来た2人は自信をなくし、さらに劇場閉鎖という事実にショックを受ける。阿部はなんとかもう一度やる気を出して漫才コロシアムにリベンジしてほしく、さらには劇場の閉鎖を阻止したく奇策を立てるが、事態はことごとく予期せぬ方向へ向かい…。

 阿倍のお笑いを愛する気持ちと上方スピリッツの苦悩、そして劇場に関わるすべての人の人生に、読みながら心震える瞬間が何度も訪れる。しかし、そこをじめっとしたままにせずに、笑いに変えるワザはさすが吉本興業出身だ。いじめられっ子が主人公なので、お笑い好きはもちろん、悩みがある人も救われる痛快青春小説だ。

出版界に秘められた《日常の謎》は解けるのか!?『中野のお父さん』

2015.11.09 Vol.654

 主人公は大手出版社“文宝出版”に勤める編集者・田川美希。女性誌編集部を経て、文芸の書籍部門に移籍。中学からバスケットで鍛えた体力が自慢のアラサー女子。

 そして本のタイトルの“中野のお父さん”こそ、美希の実家・中野に住んでいるお父さんのこと。このお父さん、定年間際の高校国語教師なのだが、めちゃめちゃ博学で、勘がいい。持っている知識を総動員し、あっという間になんでも解決してしまうので、何かあると美希はお父さんに相談に行く。「あの、おかしなこと、いい出すとお思いでしょうけど——わたしには、父がいるんです。定年間際のお腹の出たおじさんで、家にいるのを見ると、そりゃあもう、パンダみたいにごろごろしている、ただの《オヤジ》なんですけど——謎をレンジに入れてボタンを押したら、たちまち答えが出たみたいで、本当にびっくりしたんです。お願いです。このこと——父にだけ、話してみてもいいでしょうか。」(本文より)。というように、答えの導き出し方が驚くほど鮮やかなのだ。新人賞最終選考に残った候補者からの思いがけない一言の真相とは(「夢の風車」)。

 またある大物作家にあてた女性作家の手紙に書き残された愛の告白は本物なのか(「幻の追伸」)。そして「わたしは殺人事件の現場に行き合わせることになったわけです」という定期購読者の話を聞くうちに思いもよらない事態に発展して…(「茶の痕跡」)。など出版社にまつわる8つのミステリーを、中野のお父さんが瞬時に解決。捜査なし、関係者への事情聴取なし、現場検証なし。娘の話を聞くだけでたちどころに疑問が解ける、痛快お茶の間ミステリー。

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