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【TOKYO HEADLINEの本棚】 | TOKYO HEADLINE - Part 17
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なんてかわいいのだ。ああ、なんて、なんて、なんて。

2015.05.11 Vol.642

「四年前、ひょんなことから角田家にやってきたアメショーのトト。人生にはじめてかかわった猫は、慎重でさみしがり屋で、辛抱づよく、運動音痴—」。帯で紹介されているように、作家の角田光代による猫エッセーは、人生で初めて飼う事になった、猫との4年間を綴ったもの。

 きっかけは、2008年に漫画家の西原理恵子と仕事をした折、突然「うちの猫がこども産んだら、ほしい?」と聞かれたこと。飼うとしたら犬だろうと思っていた作者だが、旦那さんが大の猫好きだったこともあり、猫を飼うことを決意。トトと名付けられたその猫は来て3日もたつと、自然に角田家の猫になったという。そして「もっと躊躇とか、戸惑いとか、ないのだろうかと心配になるくらいである。そして私は、猫という生きものにいちいち驚かされることになる」と書く。その言葉通り、トトの日々の行動に驚き、感動し、時には涙する毎日が、愛に満ち溢れた文章で綴られる。

 人懐っこく、取材などで見知らぬ人が大勢詰めかけて、カメラを向けても平気。それどころか、カメラ目線でポーズを決めるトト。夫婦どちらかが留守のときは、留守側のテーブルマットの上に座り、2人ともがいるときは、真ん中の位置で香箱を組み、話の輪に加わっているトト。そんな発見をするたびに、作者は思う。「わたしのBC(Before Cat)とAC(After Cat)はまったく異なる世界になってしまった」と。もはやトトのいない生活は考えられないとう角田の愛がダダ漏れの極上猫エッセイは、すべての猫好きにおススメの一冊。

名探偵、皆を集めて「さて」と言い–なんてことを申しますが

2015.04.26 Vol.641

 タイトルの「粗忽長屋」とは、古典落語の題名。この本は、4つの古典落語を取り上げ、その裏に隠された事件(?)を長屋のご隠居が名推理で解き明かすというもの。もちろん、実際の落語にはそんな謎や事件は出てこないのだが、噺のほうでおなじみの植木屋の熊さん、大工の八っつんにより持ち込まれた騒動の裏に、思いもよらない事件が関わっていたというところから物語は始まる。

 落語の「粗忽長屋」は、長屋に住む粗忽者の八五郎が浅草で行き倒れの死体を見かけ、同じ長屋の熊五郎だと言い出し、急いで長屋に帰って本人の熊五郎に自分の死体を取りに行けと言う。最初は死んだ心持ちがしないと言っていた熊五郎だが、説得されるうちに、その気になり浅草に死体を引き取りに。その死体を背負いながら“でも八っつん、分からなくなってきた。担がれているのが俺なら、担いでいる俺は一体誰なんだろう”というオチ。古典落語の中でもシュールだと言われているこの話には、実はある大掛かりな陰謀が隠されていた?! という。

 さて、その謎とは。そしてその死体は一体誰なのか。名作落語をもう一捻り、楽しさあふれるミステリー落語となった。表題のほか、「短命」が「短命の理由」、「寝床」が「寝床の秘密」、「紺屋高尾」が「高尾太夫は三度死ぬ」となり落語とは別の物語に。しかもその中にも、ほかの古典落語の筋が盛り込まれているので、落語ファンにはたまらない作品になっている。ミステリーとしても完成されているので、落語を知らない推理小説ファンも楽しめる。

その死刑囚が犯した最大の罪とは?

2015.04.13 Vol.640

 一人の女性受刑者に死刑の判決が下った。確定死刑囚となった彼女の名前は田中幸乃。彼女は元交際相手の家に放火し、妻と1歳になる双子の女の子を無残にも焼き殺したのだ。元恋人の結婚後も行われたストーカー行為、悲惨な生い立ち、過去の犯罪歴と病歴、そしてその顔を事件の3週間前に大掛かりに整形していたことから、マスコミや世間は「整形シンデレラ」と呼び、連日彼女に関するさまざまな情報を垂れ流す。

 罪を認め、むしろ死刑になりたいと願う幸乃。犯罪を起こしかねないと思わせるような事実が次々と報道されると、誰もが幸乃を憎むべき犯罪者、人間の心を持たないモンスターのように扱った。ただ一人の人間を除いては…。

 この物語に、幸乃の心情はあまり描かれていない。むしろ幸乃と過去に関わった人たちの回想で綴られている。そこにいる彼女は決して恐ろしいモンスターではない。むしろ人の心に異常なほど敏感で、自分より他人の幸せを願うような少女だ。不幸な生い立ちではあるが、人を恨んだり憎んだりというより、他人から必要とされる人間になりたいと考えるような女性。だからこそ、彼女の過去を知る人間は、償いの意味も込めてその日々を振り返る。振り返っても、手を差し延べることはできないのだけど…。幸乃を最後まで信じていたたった一人の人がたどり着いた真実は、彼女を救えるのか?

 また、幸乃と一時でも深く関わったものたちは、彼女の本当の動機を理解することができるのか? 稀代の犯罪者の悲しすぎる人生にひと筋の光が差し込むことを願いたくなる作品だ。

あなたの心、解放します。『冷蔵庫を抱きしめて』著者:荻原浩

2015.03.22 Vol.639

 現代人が抱える心の病気に迫る短編集。男を見る目がなく、いつもDV男にばかり引っかかってしまう女が子どもを守るためにボクシングジムに通い、肉体的だけではなく精神的にも変わっていく「ヒット・アンド・アウェイ」。これまで、殴られていたのを自分のせいだと感じ、息を殺して暴力が収まるのを待っていた彼女が最後にとった行動とは。また「冷蔵庫を抱きしめて」は、結婚して幸せの絶頂にいる女性が主人公。しかし結婚前、磁石のように相性がぴったりだと思っていた夫とは食の好みがまったく違っていた。それをきっかけに治ったはずの摂食障害が再びぶり返してしまう。

 そして、自分と似た男が、自分が本来いない場所で目撃される「アナザーフェイス」。いわゆるドッペルゲンガーと言われる現象に似ているが、実はそれは彼が作り出した幻想で…。思わず背筋が寒くなるようなオチもお見事。一転、「顔も見たくないのに」は、お調子者の元カレに振り回される女性が登場。イケメンだけど浮気性、何にも考えていなくてちょっとバカ。そんな男と別れたはいいが、なんと彼がテレビの人気者に! 見たくもないのに、画面にポスターになって彼女の目の前に不意に現れる。元カレのキャラクターが憎めず、ちょっと笑ってしまう話だ。そのほか、「マスク」「カメレオンの地色」「それは言わない約束でしょう」「エンドロールは最後まで」の全8編を収録。DV、摂食障害、対人恐怖症、ゴミ屋敷などなど、出てくる人物や置かれている環境は深刻だ。

 しかし読んでいて重くならず、その心の闇から解放してくれるような読後感がある。心の弱さを認めて、前に進もうとする彼らの姿にエールを送りたくなる作品。

わたしたちは親友で、共犯者『ナオミとカナコ』著者:奥田英朗

2015.03.08 Vol.638

 服部加奈子は小田直美の大学時代の同級生で、唯一の友達。卒業後、専業主婦と百貨店のOLと立場は違えど、たまに会って食事をする仲だ。直美は希望した部署に配属されず、現在は外商部で個人顧客を担当している。一方、加奈子は銀行員と結婚したのを機に専業主婦になったものの、夫からの暴力に日々怯える生活を送っていた。三十路を前に進むべき道が見つからず、暗澹たる日々を送る2人。自分ではどうしようもないことすぎて、じっと身を潜めたままやり過ごす憂鬱な日常が、いつか変わるのではないかと息を殺しながら耐えているだけの毎日。そんな日が来るとはまったく信じていないのに…。

 そんな時、直美は思いついたのだ。加奈子の夫を殺すことを。これは加奈子が自由になるための戦いであり、これまで虐げられたことに対する復讐であり、何より直美自身が加奈子を助けることで、鬱屈としていた現状を打破し、人生を取り戻すためにやらなければならないことなのだ。そんな直美と加奈子の決断から実行、そして暴かれていく罪と、目まぐるしい展開に、思わず肩に力が入ってしまう。どんなにひどいDVを受けていたからといって殺人は決して許されないこと。そんなひどい男にだって、心配する家族がいて、実際、その家族の必死の捜索のせいで直美と加奈子は追い詰められていくのだ。

 しかし、どうしても2人をひどい人間だと思うことができない。心の中でいつしか2人の逃亡を応援している事に気づく。そう、読者自身も2人の共犯者になるのだ。運命を共にし、男一人を殺すことにした直美と加奈子が行き着く先には、本当に望んでいたものが待っているのだろうか。

酔って語ってつぶれて眠る…オヤジの寝言

2015.02.22 Vol.637

 酒場エッセイの第一人者といわれるなぎら健壱の最新エッセイ。同書は東京スポーツ新聞に現在も連載している「オヤジの寝言」を一冊にまとめた全75編からなるエッセイ集。「寝言なる言葉は便利であって、寝言に罪はない。“そんなこと言ったって、寝言だから覚えてないよ”。あるいは“あたしがそんなこと言ったの?まあ、寝言だから勘弁してくれよ”で済まされる」ということらしい。しかし、書籍化するにあたり、タイトルが“たわごと”になったため、逃げ道を作るために“酒場”をつけて、酒を飲んでのお喋りということになったとのこと。そこで再び「酒場でのおしゃべりは楽しい。酒の力を借りての世迷言だからして、一層楽しい。酒の力を借りているもので、話そのものや、脈絡などに対しても責任がないから楽しいのである。たわごとを漢字にすると戯言である。要するに、戯れ話ってことですな」だそう。そんな責任のないたわごとだが、なぎらが発する言葉は時に名言となり、読む者の心にしみわたる。曰く、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」「ゲンナマって言うでしょ。要するにね、お金ってのはナマモノなのよ。ナマモノだから金は貯めると腐るんだよ」など。たわごとなのだから何を言ってもいい。うんちく、芸能界のあるある、世の不条理などをさらっと軽妙な言葉で綴っていく。読んで楽しい気楽なエッセイだが、そこにキラリと光る真実が読み取れる。と思わせて、なんとなく酒場に行って、どうでもいい話=戯言をオヤジ相手に語りたくなる、肩の力が抜けた、なぎら節満載の一冊。

「色で老人を喰う」恐ろしき稼業、戦慄の犯罪小説

2015.02.08 Vol.636

 妻に先立たれた後期高齢者の耕造は、結婚相談所の紹介で知り合った69歳の小夜子と同居し始めるが、夏の暑い日に脳梗塞で倒れ、一命を取り留めるも重体に陥る。実は小夜子は、その結婚相談所の経営者・柏木と結託し、これまで何人もの高齢者と結婚しては、遺産をかすめとる“後妻業”と呼ばれる女だったのだ。

 小夜子の態度や金への執着心、そして言葉では説明できない不信感を持った耕造の2人の娘は、知り合いの弁護士に頼み小夜子の素性を探ることに。すると出てくるのは、何回もの結婚歴と、その相手の不審な死。警察に疑問を抱かせないために、生命保険は掛けず、あくまで遺産を狙うという狡猾な手口。耕造もそんな小夜子の毒牙にかかってしまったのか。弁護士に頼まれて、小夜子の調査を始めた元刑事の本多は、直感的に悪のにおいを嗅ぎとり、ジリジリと小夜子と柏木を追い詰めていく。

 黒川博行による直木賞受賞第一作である同書が刊行されてから事件が明るみになった「京都青酸連続不審死事件」。その手口や容疑者の女の経歴が同書にそっくりだと話題になったが、実際に読むと報道されている事件を元に書かれた本なのではと錯覚するほど、細部まで類似点が多い。ということはこの“後妻業”という仕事、私たちが知る以上にそれを生業としている人がいるのかも知れない。ここまで極端な例は少ないかも知れないが、高齢化社会と貧困が増えると、手っ取り早いのは誰かのお金で生きること。そう考える人がいてもおかしくない。しかし、人として超えてはならない線があるはずだ。身近に忍び寄っているかもしれない新たな“悪”にのみ込まれないためのバイブルにもなる一冊。

『僕は小説が書けない』著者:中村航 中田永一

2015.01.24 Vol.635

 中村航、中田永一の2人の作家が交互に執筆し、完成させた『僕は小説が書けない』。約1年間をかけ、ふたりの間を30回往復し書き上げられ、さらに5段階の改稿を経て完成した物語は、平凡な高校生のキラキラ光る青春物語。生まれながらになぜか不幸を引き寄せてしまう光太郎。引っ込み思案で人に心を開くことができず、親しい友人もいない。血のつながりのない父親、生みの親ではあるが複雑な事情がある母親、そして何も知らない無邪気な義弟との距離感にも悩み、ぎくしゃくする毎日。そんな光太郎は、高校に入学すると、先輩・七瀬の執拗な勧誘により、廃部寸前の文芸部に入部する。実は光太郎、中学生の時に小説を書こうとして、途中で挫折していたのだ。文芸部にいる個性的な先輩たちと触れ合ううちに、書きたい気持ちを刺激されるが、一歩踏み出せない光太郎。そんな時、文芸部がいよいよ廃部にされるという話が持ち上がり、廃部を免れるにはいくつかの条件を満たさなければならないという通達が。そのひとつが、 “学園祭までに新入部員のオリジナル小説を、必ず1つ以上いれること”。つまり、たったひとりの新入部員である光太郎に、文芸部の存続がかかっているのだ。先輩たちや、文芸部OBの理論派・原田と感覚派・御大にけなされ、励まされ、触れてほしくないところに触れられ、おまけに失恋までしながらも、小説の書き方、そして自分の生き方を見出していく光太郎。いろいろな思いを込めて光太郎が書き上げた小説ははたして、文芸部は廃部を救うことができたのか?

「TOmagazine」墨田区特集号/大相撲の横綱・白鵬

2015.01.22 Vol.634

 「東京23区のローカルカルチャー」にスポットを当て、毎号1区ずつを特集していくユニークなコンセプトが注目を集めるカルチャー誌「TOmagazine」。その最新号は、墨田区特集だ。一般に「下町」「スカイツリー」のイメージが先行する墨田区だが、知られざるダンスカルチャーや国際色豊かな文化、世界に誇るモノづくりの拠点でもある同区を総力特集。表紙/巻頭は雑誌への登場自体が異例という大相撲の横綱・白鵬。地元の顔として、相撲の町・両国に初めて来た時のことや錦糸町の思い出、そして未来への夢などを語っている。

強権上司・剛腕クライアントに苦しめられている人、必読

2015.01.10 Vol.634

 人気クイズ番組のプロデューサー神田達也。彼は民放テレビ局員ながらも芽が出ず、40歳過ぎて崖っぷちに立たされていた時に、「クイズ!ミステリースパイ」でヒットを飛ばし、名プロデューサーの仲間入りを果たした。売れっ子となり、公私ともに多忙を極めていたある日、帰宅をすると自宅リビングの壁に高校生の息子・和也が磔にされ、その側らに玉虫色のスカーフを巻いた謎の男が立っていた。そして、和也を人質に「The Name」というゲームをしようと挑んできた。謎の男は神田がもらったという名刺を6枚取り出し、5人の男女を招き入れ、持ち主に名刺を返すように指示。しかし、一度でも間違えば、和也の首に取り付けた爆弾のスイッチを押すと言う。しかも質問は1枚の名刺につき1回だけ。男が出してきた6枚の名刺に書かれた肩書きは、弁当屋経営、クイズ作家、制作会社ディレクター、タレント・マネジャー、高校教師、業態不明のCEO。名刺を見ても、顔を見てもまったく誰だか思い出せない神田は無事に名刺を返して、和也を救えるのか。なぜ、この見知らぬ男が名刺ゲーム「The Name」を挑んでくるのか。このゲームの裏には何があり、その目的は一体? 

 謎だらけの中、狂気のゲームがスタート。“独裁者”を自認する敏腕テレビプロデューサーの栄光と狂気と闇を、ゲームを進める謎の男が驚愕のエンディングへと導く。人気放送作家・鈴木おさむがTV業界の裏側を赤裸々に描き、権力を得たビジネスマンたちへ警鐘を鳴らす同書は、仕事で夢を叶えようとするすべてのサラリーマンへ贈る鮮烈のエンターテインメント小説だ。

完全復活。『蘇る変態』著者:星野源

2014.12.08 Vol.632

 ミュージシャン、俳優、文筆、声優などさまざまなジャンルで活躍中の星野源の最新刊。同書は2011年から2013年まで、女性向けファッション誌『GINZA』に連載していた「銀河鉄道の夜」というエッセイに加筆、修正、新たに書き下ろしを加えたもの。連載開始の直後から著者は、アルバムもオリコンチャートをにぎわせ、主演舞台に主演映画と人気がうなぎのぼり。仕事はどんどん入り、休みもほとんどない状態の売れっ子だった。しかし2012年末、突然くも膜下出血で入院。その後一時復帰するものの脳動脈瘤再発で再び休業、再手術を経て療養生活を送る。そんな怒涛の3年間が詰まったエッセイだが、前半はあくまでのほほんと、下ネタ全開の星野源らしいといえば星野源らしい力の抜けたエッセイ集だ。しかし後半、「ありのままを書こうと思う」という書き出しで始まる「生きる」というタイトルのエッセイからは、壮絶な闘病の様子が綴られている。「生きる」には現場で倒れて救急車で運ばれ、手術室に入るまでの出来事が、緊迫感と少しの笑いを持って描かれている。しかしそのエッセイの最後の一文は「地獄はここから」。次のページの「生きる2」からは、どんなに想像力を働かせても、絶対に理解できないだろうと思うほどのまさに“地獄の苦しみ”を味わった日々が書かれている。しかし、それでも適度なエロと笑いが脱力感を誘い、悲惨ではあるが、悲痛なイメージを読むものに与えない。幸い素晴らしい医師と巡り合い、無事に変態は蘇った。死の淵から“完全復活”を遂げた著者の今後の活動が楽しみだ。

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