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今回は新しい試みに挑戦 iaku『粛々と運針』

2017.05.21 Vol.691

 iakuは2012年に劇作家の横山拓也が大阪で立ち上げた演劇ユニット。暗黙のうちに差別的なものとして扱われる職業や場所、性的なマイノリティーなど正面からは取り上げにくい題材に切り込み、濃密な会話劇でぐいぐいと見る者を引き込んでいく。

 そのスタイルは徹底的にセリフ・会話にこだわったもので、最近ではひとつの場所、ひとつの時間軸で、ほぼ暗転を入れずに描き切る作品を多く作ってきた。となると、見る側としては台詞と役者の動き以外に情報を得る機会はなく、考える間もないのだが緻密な脚本と演出により“説明台詞”など入れることなく、しっかりと状況を見る者に伝える作りとなっている。

 なのだが、今回はこのスタイルから離れ2つの無関係の家族がそれぞれに繰り広げる議論を物語の終盤に脈絡なく合体させるという新しいスタイルに挑戦するという。

 一方の家族は治療難の病気からターミナルケア、尊厳死を望む母親について、親の命の期限を決められるのかを問われる兄弟。もう一方は妊娠を望んでいなかった妻が夫にその事実をどう伝えればいいかを悩んでいる夫婦。この2つの家族の葛藤を通じ、「死」や「生」といった「命」についてのさまざまな問題をあぶり出す。

心地よいアルバム『Have Fun』シンリズム

2017.05.09 Vol.690

 ポップで心地の良い楽曲で話題のシンガーソングライター、シンリズム。注目が集まるなかで、いよいよ待望の最新アルバムをリリース。カーセンサーのTVCMソング『FUN!』を筆頭に、昨年発表された『彼女のカメラ』『ラジオネームが読まれたら』など全11曲を収録している。再生するそばからスキップしたくなる楽曲が次々に飛び出し、歌詞をつぶやいたり、鼻歌を歌いたくなる曲ばかり。タイトルをそのまま音楽で表現しているような感覚の作品だ。丁寧なメロディーや歌詞の綴り方が、詰め込みすぎな音楽があふれるなかで、新鮮さを感じさせてくれる。

心地よいアルバム『Don’t think, feel.』THE BEAT GARDEN

2017.05.08 Vol.690

 昨年メジャーデビューを果たすとともに、複数の音楽フェスに出演。迫力のパフォーマンスで多くの支持を集めた、THE BEAT GARDEN。3ボーカルに1DJという構成のグループで、迫力のボーカルとEDMサウンドがミックスした高揚感のある楽曲が特徴だ。最新シングルは、「考えるな、感じろ」の心揺さぶるフレーズをタイトルに冠した、アッパーでダンサブル、そしてアグレッシブな楽曲だ。前作と比べると、シャウトにも近いボーカルが強い印象を残す。3人で歌うからこそのボーカルの厚みも、本曲にいい意味での重みを加えている。

心地よいアルバム『Afterglow』Asgeir

2017.05.08 Vol.690

 アイスランド出身のシンガーソングライター、アウスゲイルが最新作をリリース。高い評価を得た前作でデビューアルバム『Dyro i dauoapogn』に続き、透き通るメロディーラインとファルセットボイスで再び世界を魅了することになるだろう。タイトルトラックの『Afterglow』は水面が光を反射するかのようなキラキラ感を放つ楽曲。作詞は詩人であるアウスゲイルの実の父親が手掛けている。その他の収録曲もエレクトロビートと彼の歌声が作るハーモニーが、聴く者を優しく包み込み、聴く人を虜にしてしまう。再生して目を閉じれば、穏やかで静かて、心地よい空間へと連れて行ってくれるアルバム。

座・高円寺で風煉ダンス『まつろわぬ民2017』。東北ツアーも敢行

2017.05.08 Vol.690

 2014年に上々颱風のボーカル・白崎映美を主演に迎え上演された風煉ダンス『まつろわぬ民2017』が5月26日から東京・高円寺の座・高円寺1で再演される。

「前回の公演が終わった時に“東北のお客さんにも見せてあげたい”という声を多くいただきました。公演後も白崎さんの『東北6県ろ?るショー!!』を手伝っていたこともあって、座・高円寺との提携公演が決まってから福島とか白崎さんの出身地の山形でツアーができないかな、と思っていたら“ぜひ呼びたい”と言ってくださる方もいて、今回、東京、福島、山形の3カ所で上演することになりました」というのは風煉ダンスの主宰で作・演出を務める林周一。

 同作は東日本大震災後、作家・木村友祐の『イサの氾濫』という小説にインスパイアされて“白崎映美&とうほぐまづりオールスターズ”というバンドを作ってライブを続けていた白崎の『まづろわぬ民』という楽曲に想を得て作られた作品。舞台は一軒のゴミ屋敷。行政によるゴミ撤去が行われようとしたその時に屋敷に住む老婆に誘われゴミたちの百鬼夜行が始まるというお話で、現在と過去の東北が絡み合う情念にあふれた作品だった。

「この芝居は東日本大震災とどうしても切っても切れない部分がある。2014年からたった3年だけれども、この3年という時間は長いようで短いもの。でもいろいろなことが変わってきている。避難指示なんかも解除されて、福島なんかも徐々に戻る政策も取られているけど、それに対してもいろいろな意見があるわけじゃないですか。でも今回の再演に関してはそういう難しい話には立ち入らないで、もっと普遍的な話、どこかの東北の過疎の町のゴミ屋敷で起こる騒動、みたいなふうに考えていたんだけど、手を付け始めると、もとが白崎さんの“東北に元気を取り戻そう”という目的で始めた東北6県ろ~るショー!!のために作った楽曲から想を得たこともあって、その根っこからは逃げられなかった。そうすると、前回の台本の甘かったところとか、実際に今では使えないところ、使いたくないところが見えてきた。キャストもいろいろと変動があったこともあって、大きな骨子、構成や流れはだいたい同じなんだけど全然違う話になった。2014年版はみんなが英雄を待っていた。そしてその英雄は帰ってくるんだけど、今回はそういうものに頼らないで自分の足で立って歩いていかないといけない、というような話になる。いわば英雄不在のお話で限りなく新作です」

 この3年間で林の気持ちの中でそういう考え方が大きくなってきた?

「3年間の間にそうなったのではなくて、自分がそういうものになっていかないといけないというところもあると思う。自分で立って、人を助けるということをやらないといけない」

 誰かに頼るのではなく、自分で立って、立てた人は誰かを助けていく。

「集団というものはお互いを頼り合って、信頼しあってやっていくものだと思うんですが、その集団論としての話の内容が僕らの風煉ダンスの現在の状況とたまたまシンクロするというか似たような感じになっているということもあります」

 最近、自主避難に関わる問題とか復興相の心無い発言といったニュースが世間をにぎわせているが、今回は特にこの話題にぶつけたわけではない。

「全然考えていなかったんですが、震災に重ね合わせて見てもいいし、全然関係なく見てもいい。あまり前情報なく見てもらったほうがいいっちゃいいのかもしれないですね」

 風煉ダンスは野外劇や既成の劇場ではないところを演劇空間に仕立て上げての作品が多いのだが、今回は座・高円寺という“The劇場”ともいえる場所での公演。

「野外とも違うしね。というか、実はだらだら長くやっていますが(笑)、きっちり劇場という空間でやるのは初めてなんです。稽古するスタジオがあって、楽屋も潤沢にあってという恵まれた環境をちゃんと使い切れるのかどうかという(笑)」

 他の劇団ではなかなか聞かない悩み。そして「来年は立川で野外劇をやりたいと思っている」という。彼らにとっては非常に“珍しい”劇場公演。果たしてどんな作品に仕上げてくれるのか。

心地よいアルバム『in・ter a・li・a 』At The Drive In

2017.05.07 Vol.690

 米バンド、アット・ザ・ドライヴ・インが17年ぶりに放つ最新アルバム。メンバーのオマー・ロドリゲス・ロペスと、オマーの別プロジェクトのマーズ・ヴォルタを始め、ミューズ、シガーロスなどを手掛けたプロデューサーのリッチ・コスティがタッグを組んだ作品。メンバーが「信頼をすべてオマーにすべて託した」という本作では、2017年にアップデートされた彼らのロックが聞ける印象。17年のインターバルで否応なく盛り上がった期待感には、リリース前に発表してきた収録曲数曲のミュージックビデオを通じて、じわじわ少しずつ答えてくれてきた印象があるだけに、アルバムがリリースされれば待ちかねていたファンには熱狂が訪れそう。全11曲を収録。

価値感をぐらつかせる作品 イキウメ『天の敵』

2017.05.07 Vol.690

 SFやオカルト、ホラーといった題材を自由自在に操るイキウメ。作・演出の前川知大の作る作品は見る者の立ち位置を不安にさせ、そして「ない」とは分かっていながら「あってもいいんじゃないか…」とついつい思わされてしまうような価値観をぐらつかせるもの。

 今回は2010年に上演した短篇集『図書館的人生Vol.3 食べ物連鎖』の中の一篇をベースとした作品。

 ライターの寺泊は、食事療法の取材中、戦後まもない1947年に「完全食と不食」について論文を書いた医師、長谷川卯太郎を知る。その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、寺泊は二人の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。橋本のルーツは、食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。そこで橋本は寺泊に「長谷川卯太郎は私です。今年で 122 歳になる」と言ったのだった…。

 完全食を求めて生き延び、ついには人ではなくなってしまった男が世界の観察者となっていく物語。短篇集では駆け足にならざるを得なかったが、今回は男の100年間がじっくりと描かれる。

また今年は劇団を代表する作品である『散歩する侵略者』が7月に文庫化、9月に映画の公開、10月には舞台で再演される。8月には前川の作品を長塚圭史が演出する(Bunkamuraシアターコクーンほか)など、大きな話題がごろごろしている。

心地よいアルバム『BEST SELECTION “blanc”/“noir”』Aimer

2017.05.07 Vol.690

 注目のシンガーソングライター、Aimer(エメ)がベストアルバムを発表。コンセプト別に選曲した白盤『blanc』と黒盤『noir』、2つの作品を同時にリリースした。白盤はバラード楽曲を中心にコンパイル。彼女が注目を集める大きなきっかけとなった野田洋次郎(RADWIMPS)楽曲提供の『蝶々結び』を始め、『あなたに出会わなければ?夏雪冬花?』、デビュー曲の『六等星の夜』など、1曲ごとに彼女の歌声が心にしみ込んでくる作品だ。一方、黒盤はエモーショナルな楽曲を中心に選曲している。ONE OK ROCKのTakaが提供した『insane dream』など全14曲を収録している。しっとりとした楽曲とハスキーな歌声の印象が強い彼女だが、本作のリリースによって彼女の魅力は広がっていきそう。これまでの彼女の軌跡をまとめた作品だ。

岩松了が若い俳優たちとじっくり! M&Oplaysプロデュース『少女ミウ』

2017.05.07 Vol.690

 M&Oplaysプロデュースではこれまでも劇作家・演出家の岩松了を作・演出に迎え多くの作品を発表してきた。

 岩松ほどの作家となると、どうしても大きな劇場で著名な俳優を起用しての公演が多くなってしまうのだが、今回は岩松自身が「何年かにいっぺんやりたくなる」という若手俳優たちとの小規模な劇場での公演。6年前に同じくM&Oplaysプロデュースで手掛けた『国民傘』以来、ザ・スズナリで最新作を上演する。

 その『国民傘』では、なぜ人は争うのか「戦争」についての考察がテーマとなっていたが、本作は一家心中の生き残りの少女・ミウをめぐる「虚偽と真実」についての青春群像劇となる。

 主演を務めるのはNHKの朝の連続テレビ小説『マッサン』でブレイクし、その後も映画『青空エール』など映像作品への出演が続く堀井新太、ドラマ『時をかける少女』で連続ドラマ初主演を果たし、映画『オケ老人!』など映画やドラマでの活躍が目覚ましい黒島結菜。黒島は一昨年のM&Oplaysプロデュース『虹とマーブル』以来2度目の舞台出演となる。

 この2人をはじめ10人の若手俳優が出演する。この作品をきっかけに大きな飛躍を遂げる俳優もいるだろう。そんな目線でも楽しめそうな作品。

日本人、絶滅『プログラム』【著者】土田英生

2017.05.06 Vol.690

 著者は劇作家で、演出家、俳優の土田英生。劇団「MONO」代表で、99年に『その鉄塔に男たちはいるという』という作品でOMS戯曲賞大賞を受賞。2001年には『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で芸術祭賞優秀賞を受賞した。ほかにも、多くのテレビドラマ・映画脚本の執筆を手掛けるベテランだが、同作が小説家としてのデビュー作となる。

 舞台は東京湾上に作られた人工島・日本村。そこは島全体が日本をイメージしたテーマパークになっており、純粋な日本人以外は、住んでいる人も訪れる人も全員バッジ装着の義務がある。閉じたその島には、安全・安心な夢の次世代エネルギーとして世界中が注目するMG発電の巨大な基地と本社があった。ある日、その島の上の空に赤い玉が浮かび上がり、それが徐々に空全体に広がっていった。空が赤く染まっていくに従い、二度と起きることのない永遠の眠りにつく強い眠気が島にいる人間を襲い…。

 作品全体のベースはSFで、近い未来に起こりそうな設定が不安をあおる。しかし物語は「燕のいる駅?午前4時45分 日本村四番駅」、「妄想と現実?午前9時55分 大和公園」など、短い話が時系列に連作となっており、その一つ一つは笑えたり、微笑ましかったり、バカバカしかったりする。そこには普通の人たちの日常があり、迫りくる“その日”を意識させるものはない。けれど、その人々が小さな出来事に右往左往し、人として普通の生活をしている事が逆に、赤い空が広がる描写と相反し、不気味さと不安を増していく。些細なことに喜びや悲しみ怒りを感じ1日1日を生きる。そんな普通の人の日常を脅かす“その日”は、現実世界でも案外近くに迫っているのかもしれない。人類の終末を予言しているような衝撃作だ。

「あふれる」音楽『Girl』秦基博

2017.04.29 Vol.689

 シンガーソングライターの秦基博の最新シングルは、ドラマ『恋がヘタでも生きてます』の主題歌。もれなく、きゅんとさせられる楽曲で、老いも若きも男も女も恋したい気分になることは間違いなしの楽曲だ。この曲はもともとアルバム『Signed POP』(2013年)に収録されていた曲で、今回シングルとしてリカットされた。曲の冒頭、♪ふわり?から始まるサビから、ふわふわと柔らかい感触と、誰かを愛しく思う気持ちがあふれてくる。カップリングには『70億のピース』を弾き語りバージョンで収録した。

[J-POP SINGLE]AUGUSTA RECORDS 5月3日(水)発売 初回盤(CD+DVD)5800円 通常盤1000円(ともに税別)

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