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カルチャー | TOKYO HEADLINE - Part 115
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平成生まれの女の子が、昭和49年にタイムスリップ!

2015.05.23 Vol.643

 小学六年生の美々加は、バツイチ独身のママ・菜摘と二人暮らし。そんな大好きなママとの間に入り込んできたのが熊田剛というママの恋人。最初は仕事で家に来ていた熊田が仕事以外でもご飯を食べに来るようになり、やがて休みの日まで一緒に出かけようとするのが嫌で、平日は学校の界隈を探検したり、家と反対の方向を長い時間散歩したりして、帰宅を遅らせるようになっていた。

 そんなある日、いつものようにブラブラしていると美々加の前に黒猫が現れた。その後をつけていくと、黒猫はある神社に入っていき、1本の巨大な木の根本の空洞をするりと抜けていった。美々加も思い切ってくぐってみたが、黒猫の姿はなく、美々加が覚えているのもそこまでだった。目を覚ますと、家の中で、周りにあるものは美々加が見たことないものばかり。というか、美々加がいつも目にしているものがない!

 おまけに見知らぬ家族(らしき人)からは「小岩井さら」という女の子として扱われている。様子を探ると、どうやらここは昭和49年で、美々加は小岩井家の次女のさらに間違われているらしい。大好きなママの所へいつか帰れると信じながらも、その世界で学校に通ったり、友達を作ったりする美々加。キティちゃんもスマホも電子レンジもない生活の代わりにあるのは、黒電話、スプーン曲げ、汲み取り式トイレ、こっくりさん…。

 昭和生まれにはちょっとグッとくるアイテムが満載。果たして美々加は帰れるのか。もし美々加が帰れたら、さらはどうなるのか。少女の大冒険は、意外な結末を迎える。

なんてかわいいのだ。ああ、なんて、なんて、なんて。

2015.05.11 Vol.642

「四年前、ひょんなことから角田家にやってきたアメショーのトト。人生にはじめてかかわった猫は、慎重でさみしがり屋で、辛抱づよく、運動音痴—」。帯で紹介されているように、作家の角田光代による猫エッセーは、人生で初めて飼う事になった、猫との4年間を綴ったもの。

 きっかけは、2008年に漫画家の西原理恵子と仕事をした折、突然「うちの猫がこども産んだら、ほしい?」と聞かれたこと。飼うとしたら犬だろうと思っていた作者だが、旦那さんが大の猫好きだったこともあり、猫を飼うことを決意。トトと名付けられたその猫は来て3日もたつと、自然に角田家の猫になったという。そして「もっと躊躇とか、戸惑いとか、ないのだろうかと心配になるくらいである。そして私は、猫という生きものにいちいち驚かされることになる」と書く。その言葉通り、トトの日々の行動に驚き、感動し、時には涙する毎日が、愛に満ち溢れた文章で綴られる。

 人懐っこく、取材などで見知らぬ人が大勢詰めかけて、カメラを向けても平気。それどころか、カメラ目線でポーズを決めるトト。夫婦どちらかが留守のときは、留守側のテーブルマットの上に座り、2人ともがいるときは、真ん中の位置で香箱を組み、話の輪に加わっているトト。そんな発見をするたびに、作者は思う。「わたしのBC(Before Cat)とAC(After Cat)はまったく異なる世界になってしまった」と。もはやトトのいない生活は考えられないとう角田の愛がダダ漏れの極上猫エッセイは、すべての猫好きにおススメの一冊。

名探偵、皆を集めて「さて」と言い–なんてことを申しますが

2015.04.26 Vol.641

 タイトルの「粗忽長屋」とは、古典落語の題名。この本は、4つの古典落語を取り上げ、その裏に隠された事件(?)を長屋のご隠居が名推理で解き明かすというもの。もちろん、実際の落語にはそんな謎や事件は出てこないのだが、噺のほうでおなじみの植木屋の熊さん、大工の八っつんにより持ち込まれた騒動の裏に、思いもよらない事件が関わっていたというところから物語は始まる。

 落語の「粗忽長屋」は、長屋に住む粗忽者の八五郎が浅草で行き倒れの死体を見かけ、同じ長屋の熊五郎だと言い出し、急いで長屋に帰って本人の熊五郎に自分の死体を取りに行けと言う。最初は死んだ心持ちがしないと言っていた熊五郎だが、説得されるうちに、その気になり浅草に死体を引き取りに。その死体を背負いながら“でも八っつん、分からなくなってきた。担がれているのが俺なら、担いでいる俺は一体誰なんだろう”というオチ。古典落語の中でもシュールだと言われているこの話には、実はある大掛かりな陰謀が隠されていた?! という。

 さて、その謎とは。そしてその死体は一体誰なのか。名作落語をもう一捻り、楽しさあふれるミステリー落語となった。表題のほか、「短命」が「短命の理由」、「寝床」が「寝床の秘密」、「紺屋高尾」が「高尾太夫は三度死ぬ」となり落語とは別の物語に。しかもその中にも、ほかの古典落語の筋が盛り込まれているので、落語ファンにはたまらない作品になっている。ミステリーとしても完成されているので、落語を知らない推理小説ファンも楽しめる。

その死刑囚が犯した最大の罪とは?

2015.04.13 Vol.640

 一人の女性受刑者に死刑の判決が下った。確定死刑囚となった彼女の名前は田中幸乃。彼女は元交際相手の家に放火し、妻と1歳になる双子の女の子を無残にも焼き殺したのだ。元恋人の結婚後も行われたストーカー行為、悲惨な生い立ち、過去の犯罪歴と病歴、そしてその顔を事件の3週間前に大掛かりに整形していたことから、マスコミや世間は「整形シンデレラ」と呼び、連日彼女に関するさまざまな情報を垂れ流す。

 罪を認め、むしろ死刑になりたいと願う幸乃。犯罪を起こしかねないと思わせるような事実が次々と報道されると、誰もが幸乃を憎むべき犯罪者、人間の心を持たないモンスターのように扱った。ただ一人の人間を除いては…。

 この物語に、幸乃の心情はあまり描かれていない。むしろ幸乃と過去に関わった人たちの回想で綴られている。そこにいる彼女は決して恐ろしいモンスターではない。むしろ人の心に異常なほど敏感で、自分より他人の幸せを願うような少女だ。不幸な生い立ちではあるが、人を恨んだり憎んだりというより、他人から必要とされる人間になりたいと考えるような女性。だからこそ、彼女の過去を知る人間は、償いの意味も込めてその日々を振り返る。振り返っても、手を差し延べることはできないのだけど…。幸乃を最後まで信じていたたった一人の人がたどり着いた真実は、彼女を救えるのか?

 また、幸乃と一時でも深く関わったものたちは、彼女の本当の動機を理解することができるのか? 稀代の犯罪者の悲しすぎる人生にひと筋の光が差し込むことを願いたくなる作品だ。

あなたの心、解放します。『冷蔵庫を抱きしめて』著者:荻原浩

2015.03.22 Vol.639

 現代人が抱える心の病気に迫る短編集。男を見る目がなく、いつもDV男にばかり引っかかってしまう女が子どもを守るためにボクシングジムに通い、肉体的だけではなく精神的にも変わっていく「ヒット・アンド・アウェイ」。これまで、殴られていたのを自分のせいだと感じ、息を殺して暴力が収まるのを待っていた彼女が最後にとった行動とは。また「冷蔵庫を抱きしめて」は、結婚して幸せの絶頂にいる女性が主人公。しかし結婚前、磁石のように相性がぴったりだと思っていた夫とは食の好みがまったく違っていた。それをきっかけに治ったはずの摂食障害が再びぶり返してしまう。

 そして、自分と似た男が、自分が本来いない場所で目撃される「アナザーフェイス」。いわゆるドッペルゲンガーと言われる現象に似ているが、実はそれは彼が作り出した幻想で…。思わず背筋が寒くなるようなオチもお見事。一転、「顔も見たくないのに」は、お調子者の元カレに振り回される女性が登場。イケメンだけど浮気性、何にも考えていなくてちょっとバカ。そんな男と別れたはいいが、なんと彼がテレビの人気者に! 見たくもないのに、画面にポスターになって彼女の目の前に不意に現れる。元カレのキャラクターが憎めず、ちょっと笑ってしまう話だ。そのほか、「マスク」「カメレオンの地色」「それは言わない約束でしょう」「エンドロールは最後まで」の全8編を収録。DV、摂食障害、対人恐怖症、ゴミ屋敷などなど、出てくる人物や置かれている環境は深刻だ。

 しかし読んでいて重くならず、その心の闇から解放してくれるような読後感がある。心の弱さを認めて、前に進もうとする彼らの姿にエールを送りたくなる作品。

男と女の事件簿『思い出のマーニー』

2015.03.21 Vol.639

 2010年に日本映画で最高の観客動員数を記録した『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌監督が贈る、勇気と感動の物語。幼いころに両親を亡くし、あることがきっかけで心を閉ざしてしまった12歳の杏奈。ある夏、喘息の療養のためやってきた海辺の村で見つけた古い屋敷に心ひかれた杏奈は、そこで謎の少女・マーニーと出会う。やがて杏奈にとってマーニーは唯一心の内を明かせる存在となるが、彼女にはある秘密が…。ジブリ初のWヒロインのキャスティングは、杏奈役に高月彩良、マーニー役に有村架純。米林監督たっての希望でオーディションから選ばれた2人の声が、杏奈とマーニーの心の動きを繊細に、いきいきと表現している。

わたしたちは親友で、共犯者『ナオミとカナコ』著者:奥田英朗

2015.03.08 Vol.638

 服部加奈子は小田直美の大学時代の同級生で、唯一の友達。卒業後、専業主婦と百貨店のOLと立場は違えど、たまに会って食事をする仲だ。直美は希望した部署に配属されず、現在は外商部で個人顧客を担当している。一方、加奈子は銀行員と結婚したのを機に専業主婦になったものの、夫からの暴力に日々怯える生活を送っていた。三十路を前に進むべき道が見つからず、暗澹たる日々を送る2人。自分ではどうしようもないことすぎて、じっと身を潜めたままやり過ごす憂鬱な日常が、いつか変わるのではないかと息を殺しながら耐えているだけの毎日。そんな日が来るとはまったく信じていないのに…。

 そんな時、直美は思いついたのだ。加奈子の夫を殺すことを。これは加奈子が自由になるための戦いであり、これまで虐げられたことに対する復讐であり、何より直美自身が加奈子を助けることで、鬱屈としていた現状を打破し、人生を取り戻すためにやらなければならないことなのだ。そんな直美と加奈子の決断から実行、そして暴かれていく罪と、目まぐるしい展開に、思わず肩に力が入ってしまう。どんなにひどいDVを受けていたからといって殺人は決して許されないこと。そんなひどい男にだって、心配する家族がいて、実際、その家族の必死の捜索のせいで直美と加奈子は追い詰められていくのだ。

 しかし、どうしても2人をひどい人間だと思うことができない。心の中でいつしか2人の逃亡を応援している事に気づく。そう、読者自身も2人の共犯者になるのだ。運命を共にし、男一人を殺すことにした直美と加奈子が行き着く先には、本当に望んでいたものが待っているのだろうか。

酔って語ってつぶれて眠る…オヤジの寝言

2015.02.22 Vol.637

 酒場エッセイの第一人者といわれるなぎら健壱の最新エッセイ。同書は東京スポーツ新聞に現在も連載している「オヤジの寝言」を一冊にまとめた全75編からなるエッセイ集。「寝言なる言葉は便利であって、寝言に罪はない。“そんなこと言ったって、寝言だから覚えてないよ”。あるいは“あたしがそんなこと言ったの?まあ、寝言だから勘弁してくれよ”で済まされる」ということらしい。しかし、書籍化するにあたり、タイトルが“たわごと”になったため、逃げ道を作るために“酒場”をつけて、酒を飲んでのお喋りということになったとのこと。そこで再び「酒場でのおしゃべりは楽しい。酒の力を借りての世迷言だからして、一層楽しい。酒の力を借りているもので、話そのものや、脈絡などに対しても責任がないから楽しいのである。たわごとを漢字にすると戯言である。要するに、戯れ話ってことですな」だそう。そんな責任のないたわごとだが、なぎらが発する言葉は時に名言となり、読む者の心にしみわたる。曰く、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」「ゲンナマって言うでしょ。要するにね、お金ってのはナマモノなのよ。ナマモノだから金は貯めると腐るんだよ」など。たわごとなのだから何を言ってもいい。うんちく、芸能界のあるある、世の不条理などをさらっと軽妙な言葉で綴っていく。読んで楽しい気楽なエッセイだが、そこにキラリと光る真実が読み取れる。と思わせて、なんとなく酒場に行って、どうでもいい話=戯言をオヤジ相手に語りたくなる、肩の力が抜けた、なぎら節満載の一冊。

「色で老人を喰う」恐ろしき稼業、戦慄の犯罪小説

2015.02.08 Vol.636

 妻に先立たれた後期高齢者の耕造は、結婚相談所の紹介で知り合った69歳の小夜子と同居し始めるが、夏の暑い日に脳梗塞で倒れ、一命を取り留めるも重体に陥る。実は小夜子は、その結婚相談所の経営者・柏木と結託し、これまで何人もの高齢者と結婚しては、遺産をかすめとる“後妻業”と呼ばれる女だったのだ。

 小夜子の態度や金への執着心、そして言葉では説明できない不信感を持った耕造の2人の娘は、知り合いの弁護士に頼み小夜子の素性を探ることに。すると出てくるのは、何回もの結婚歴と、その相手の不審な死。警察に疑問を抱かせないために、生命保険は掛けず、あくまで遺産を狙うという狡猾な手口。耕造もそんな小夜子の毒牙にかかってしまったのか。弁護士に頼まれて、小夜子の調査を始めた元刑事の本多は、直感的に悪のにおいを嗅ぎとり、ジリジリと小夜子と柏木を追い詰めていく。

 黒川博行による直木賞受賞第一作である同書が刊行されてから事件が明るみになった「京都青酸連続不審死事件」。その手口や容疑者の女の経歴が同書にそっくりだと話題になったが、実際に読むと報道されている事件を元に書かれた本なのではと錯覚するほど、細部まで類似点が多い。ということはこの“後妻業”という仕事、私たちが知る以上にそれを生業としている人がいるのかも知れない。ここまで極端な例は少ないかも知れないが、高齢化社会と貧困が増えると、手っ取り早いのは誰かのお金で生きること。そう考える人がいてもおかしくない。しかし、人として超えてはならない線があるはずだ。身近に忍び寄っているかもしれない新たな“悪”にのみ込まれないためのバイブルにもなる一冊。

『満願』著者:米澤穂信

2015.01.24 Vol.635

 第27回山本周五郎賞受賞の米澤穂信の『満願』。人を殺め、静かに刑期を終えた女の本当の動機に迫る、表題作にもなっている『満願』含め全6編の短編で構成されたミステリー。長らく交番勤務の警察官・柳岡の交番に警察学校を出たての川藤が配属された。何がというわけではないが、その川藤にどこか危なさを感じる柳岡。報告書もそつなく提出し、前向きに仕事に取り組んでいるのだが、感じる違和感。しかし柳岡は、過去の苦い経験から、それを掘り下げて、川藤を厳しく指導することができなかった。そんな時、川藤は短刀を持って立てこもった男に殺されてしまう。職務遂行を賞され、二階級特進となった川藤の葬式で、柳岡は思う。“あいつは所せん、警官には向かない男だった”と。殺された現場を見てもなおぬぐいきれない違和感。遺族を訪ね、その兄と話しているうちに、その正体がぼんやりと見えてきたのだが…(「夜警」)。など、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。じわじわと感じる不快な違和感は、やがて思いもよらぬ方向へ向かい、ずるずるとワナに落ちていく。行ってはいけないと分かっているのに、何かにおびき寄せられるように…。そして、読者がそこにある謎の正体が分かった時、さらにどんでん返しの驚愕の結末が待ち受ける。2015年版「このミステリーがすごい! 」、2014「週刊文春ミステリーベスト10」、2015年版「ミステリーが読みたい!」ですべて第1位を獲得。2014年のミステリー年間ランキングで3冠に輝いたミステリー短編集の傑作集。

『僕は小説が書けない』著者:中村航 中田永一

2015.01.24 Vol.635

 中村航、中田永一の2人の作家が交互に執筆し、完成させた『僕は小説が書けない』。約1年間をかけ、ふたりの間を30回往復し書き上げられ、さらに5段階の改稿を経て完成した物語は、平凡な高校生のキラキラ光る青春物語。生まれながらになぜか不幸を引き寄せてしまう光太郎。引っ込み思案で人に心を開くことができず、親しい友人もいない。血のつながりのない父親、生みの親ではあるが複雑な事情がある母親、そして何も知らない無邪気な義弟との距離感にも悩み、ぎくしゃくする毎日。そんな光太郎は、高校に入学すると、先輩・七瀬の執拗な勧誘により、廃部寸前の文芸部に入部する。実は光太郎、中学生の時に小説を書こうとして、途中で挫折していたのだ。文芸部にいる個性的な先輩たちと触れ合ううちに、書きたい気持ちを刺激されるが、一歩踏み出せない光太郎。そんな時、文芸部がいよいよ廃部にされるという話が持ち上がり、廃部を免れるにはいくつかの条件を満たさなければならないという通達が。そのひとつが、 “学園祭までに新入部員のオリジナル小説を、必ず1つ以上いれること”。つまり、たったひとりの新入部員である光太郎に、文芸部の存続がかかっているのだ。先輩たちや、文芸部OBの理論派・原田と感覚派・御大にけなされ、励まされ、触れてほしくないところに触れられ、おまけに失恋までしながらも、小説の書き方、そして自分の生き方を見出していく光太郎。いろいろな思いを込めて光太郎が書き上げた小説ははたして、文芸部は廃部を救うことができたのか?

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