溝畑 宏
日本を元気に Vol.2「観光で日本を元気に」
東日本大震災から1年が経った。被災地の復興はまだこれから。だからといって下を向いてはいられない。未来に向かって、みんなが元気を取り戻さなければならない。日本を元気にするために活躍する各界のさまざまな人の声を聞くこの企画。第2弾では前観光庁長官の溝畑宏氏に話を聞いた。(インタビュアー 一木広治)
(撮影・神谷渚)
溝畑氏は総務省から、一時期はJリーグの大分トリニータの代表取締役も歴任した。そして3月31日まで観光庁長官という職務についていた。
「私のライフワークは"日本を元気に"なんですが、そのために総務省に入りました。そして"各地域にどうやって世界に通用するものを創っていくのか"ということが私のテーマとなりました。W杯開催、Jリーグのチームを作ろうとしたのも結局、大分という地方に世界に通用するものを創っていくきっかけ作りだったんです。すべての軸は、"地域を元気に、地域から世界へ"というテーマなんですね。そういったときに観光というのは、地域作りがベースにあって、地域にしかないものを掘り起こしてブランド化して、それを世界に通用するものに育てていく。まさに自分がやってきたことと重なる部分も多いし、観光に必要な現場感覚と企画力と突破力というものに白羽の矢が立ったんではないかと思います」
去年震災があり、海外からの渡航者がかなり減った。観光客を呼び戻すためにかなりいろいろなことをやられました。
「震災復興において観光は必ず重要な役割を担うと考えていました。経済を活性化し地域を元気にしない限り、復興はあり得ない。いち早く手を打たないといけないということで、まず1つ目に、震災から1カ月の4月12日に"自粛はやめよう"という通知を出しました。これに関しては政府の内部をはじめいろんなところから賛否両論がありました。しかしこれは私の持つ現場感覚からきたもので、球団を経営しているときにリーマンショックとか鳥インフルエンザで痛い目に遭っているんですね。そのときの教訓は、とにかく早い時期に対応の手を打つということだったんです。全国の観光関係者の方がとにかく攻めに出てくれたこともあって、ゴールデンウイークの後半には震災前の数字に戻って、9月以降は旅行の取り扱い額だけでいうと震災前よりプラスになりました。2つ目にはインバウンド対策。外国からの訪日観光に関しては苦しみました。3月中には海外から日本に行くということに相当セーブがかかったんですね。こちらもいち早く手を打とうということで、私自身が外国に出向いて、訪日旅行をお願い致しましたし、説明会を100回以上やりました。それから正確な情報を伝えようということで、震災後の復旧の状況とか、みなさんが特に不安に思っていた放射能の線量の問題などを日本の各地域のデータを毎日更新してみなさんに報告しました。なおかつ食の安心安全。これについても検査の状況をちゃんと報告しました。日本政府の発表だけでは信用してもらえないんで、国際機関の発表なども積極的に入れて、とにかく情報を発信しました。3つ目には海外の方の目線で日本の現状を伝えることに取り組みました。レディ・ガガ、ジャスティン・ビーバー、イル・ディーヴォなど来日されたアーティストには片っ端から日本の安心安全を語ってもらいましたね。あとは国際大会、国際会議、国際イベントのキャンセルの防止。そういう国際的なイベントをきっちり開くことが日本の安心安全のPRになるということで、とにかくキャンセルしないように攻めて攻めて攻めまくりました」
レディ・ガガから2月に行われた総合格闘技のUFCにまで、とても幅広くアンテナを張られていました。
「私は観光とは総合戦略産業だと思っています。日本の魅力あるコンテンツを徹底的に掘り起こして、世界に通用するブランドに育て上げる。日本の場合、中心になるのはスポーツだと思います。これだけいいスポーツを見る、する、楽しむ環境を持っている国って世界を見てもないと思います」
スポーツといえばやはりオリンピック。2020年に東京にオリンピックを招致するために、こんなことをやったらいいんじゃないかということがあれば聞かせてください。
「震災復興というなかで、日本がみなさんのお陰で元気になった姿を、世界にお示しする感謝・恩返しの大きなステージが2020年の東京オリンピックであるというのがひとつ大きなテーマです。2つ目は、震災から日本の本当の復興を考えた場合には、東京の持っている都市力を高めるということが極めて重要な課題だと思っています。今後の日本の元気再生という意味でも、オリンピックというのは絶対に招致するべきだと思います。オリンピックというのは時代時代の変革のときに登場するんです。高度成長の時代に、オリンピック、万博があって、国民は元気になりました。そういう意味でも必要だと思います。"なんのために開くんだ?"という大義を、もうちょっと東京都民とか国民のみなさんに分かっていただければ絶対に賛同を得られると思いますよ」
2020年東京オリンピック・パラリンピック招致を応援します「人生のさまざまな局面で自分が迷っているとき、あるいは勝負に負けたとき、仕事がうまくいかないとき、オリンピックは"あきらめなければ必ず頂点に行ける"と感じさせてくれました。例えば柔道の古賀選手がヒザのじん帯を断裂した中でも金メダルを獲ったときですね。冬季札幌オリンピックのジャンプで笠谷さん、金野さん、青地さんが金銀銅を獲ったときには、日本は凄い国だと改めて思いましたし、マラソンで高橋尚子さん、有森裕子さんが本当に苦しいストレスの中でメダルを獲られたのを見て、身体的なハンディがあっても精神でものは成就するんだと思いました。私にとってオリンピックというものは常にどういう立ち位置にいても、世界という頂点目指すモチベーションになってくれました。人生そのものがオリンピックと関わっていたような気がしています」 |