日本の夏フェスの代表格のひとつ、フジロックフェスティバルが7月26〜28日に、新潟・苗場スキー場で開催された。場所柄、例年変わりやすい天候に悩まされるが、今年は3日間通して、雷、豪雨に見舞われるというベストとはいえないコンディション。それにも関わらず、25日の前夜祭を含み述べ11万1000人が来場し、ナイン・インチ・ネイルズやビョーク、ザ・キュアーらヘッドライナーを筆頭とした国内外のアーティストのパフォーマンスに酔いしれた。
豪華なラインアップのなかでも特に注目を集めたのが、オリジナリティにあふれ芸術的なライブで知られる、アイスランドの歌姫・ビョーク。中日のヘッドライナーとして登場した。
午後8時すぎ。降り続いていた雨は上がり暗闇に包まれたグリーンステージに、その人は登場した。ステージ奥には、オーデイエンスの頭上、厚い雲の上に広がっているであろう、満天の星空を思わせるようなキラキラとした映像が映し出され、バンドや女性コーラス隊が登場するたびに歓声が上がる。最後に、独創的なドレスを身にまとった小柄なビョークがトコトコとステージに現れた瞬間、歓声は悲鳴に似たようなものになった。音楽と自然、そしてテクノロジーを融合させたプロジェクト『バイオフィリア』をタイトルにした新作を携えてのライブ。スクリーンには地球や環境の躍動を感じさせる映像が次々に映し出され、ビョークのパフォーマンスもそれに呼応する。エネルギッシュに、ステージを自在に移動しながら、腰のあたりで手をくるくると動かしたり、カシャカシャといったサウンドにあわせて両手を頭上で動かしたり。初めて音楽を聞いた子どもが自然と音楽やリズムに合わせて体を動かすようなピュアさを感じるものだ。そんな彼女を支えるのがバンドであり、10名超の大所帯の女性コーラス隊。コーラス隊はいわゆるハーモニーを作るだけではなく、不思議なダンスやちょっとユーモラスな動きも交えて、ビョークの音楽世界を表現していた。この日は、『バイオフィリア』収録曲を中心に、『ワン・デイ』や『ハイパー・バラッド』、そして『アーミー・オブ・ミー』など彼女のソロキャリアを代表する楽曲で構成。映画を見ているような景色の広がる壮大なナンバー、ダンサブルな曲をうまく配置したセットだった。「あともう一曲やるわ、みんな歌って! カラオケ・カモン!」のビョークのMCは、熱いオーディエンスをさらに加熱させた。オーデイエンスは「ビョークやばい」「かわいい」、「やっぱり、最高だった」などと絶賛していた。
この日は、カール・ハイドが世界を席巻するアンダーワールドではなくソロアーティストとして登場。バンドメンバーには実の娘もいたサプライズも。ライブは、サウンド重視でありつつ、より歌唱の役割の大きい内容。キャリアを通じて、アートと音楽をつなぎ合わせてきた彼の変化や新たな一面を感じさせた。
世界中のアーティストが自身のライブを聞かせた3日間。本能を揺さぶるリズム、クレバーな構成で頭をしびれさせるアーティスト、そして心を射抜くメッセージを体感するために、雷雨のなか11万超が苗場に駆け付けた。アーティスト、観客、そしてスタッフ、全員で創り上げたフジロックだった。