SFやオカルト、ホラーといった題材を自由自在に操るイキウメ。作・演出の前川知大の作る作品は見る者の立ち位置を不安にさせ、そして「ない」とは分かっていながら「あってもいいんじゃないか…」とついつい思わされてしまうような価値観をぐらつかせるもの。
今回は2010年に上演した短篇集『図書館的人生Vol.3 食べ物連鎖』の中の一篇をベースとした作品。
ライターの寺泊は、食事療法の取材中、戦後まもない1947年に「完全食と不食」について論文を書いた医師、長谷川卯太郎を知る。その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、寺泊は二人の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。橋本のルーツは、食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。そこで橋本は寺泊に「長谷川卯太郎は私です。今年で 122 歳になる」と言ったのだった…。
完全食を求めて生き延び、ついには人ではなくなってしまった男が世界の観察者となっていく物語。短篇集では駆け足にならざるを得なかったが、今回は男の100年間がじっくりと描かれる。
また今年は劇団を代表する作品である『散歩する侵略者』が7月に文庫化、9月に映画の公開、10月には舞台で再演される。8月には前川の作品を長塚圭史が演出する(Bunkamuraシアターコクーンほか)など、大きな話題がごろごろしている。