これまで社会の底辺で生きるような人々を描いた群像劇を多く発表してきた劇団桟敷童子。舞台は演出の東憲司自身が生まれ育った炭鉱町や山間の集落、荒々しくもちょっと気の弱い男たちに、耐え忍びながらも芯の強い女たちといった登場人物が織りなす物語は、昭和の日本の原風景を見るようなノスタルジックさを漂わせながらも、時代が変わっても変わらない人間の本質を映し出す。
そんな彼らの世界観はそのままに、今回は劇団公演初めての平成が舞台の現代劇に挑む。テーマは家族。
病院から失踪していた痴呆症の父親が自宅から20分ほどの山の中で2年ぶりに見つかった。父親は自然農園で保護されており、そこに向かった三兄妹は物乞いのように別人となっていた父親と出会う。しかし三兄妹には、痴呆を患っているのになぜ2年間も山の中で生活できたのか? なぜ家に帰ろうとしなかったのか? 本当に痴呆症だったのか?といったさまざまな疑問が浮かぶ。そしてやがて兄妹たちが知らなかった父親の別の一面が見えてくるのだった。
人はその終焉をどのように迎えるのか。そしてその時の家族の振る舞いは…。演出の東憲司の実体験を基にした、どこの家庭にでも起こりうる身近で切実な家族の物語。