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疎開 | TOKYO HEADLINE
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東京の若者が限界集落に「疎開」するワケ【鈴木寛の「2020年への篤行録」第62回】

2018.11.15 Vol.712

 群馬県の南牧村(なんもくむら)をご存知でしょうか? 人口1920人(今年2月末時点)、村民の6割超が65歳以上と高齢化日本一の自治体です。民間のシンクタンクに「日本でも最も消滅が近い村」と名指しもされました。

 この南牧村に2年ほど、私が主宰する「社会創発塾」のメンバーが豊かな自然に魅了されて拠点を構えています。今年は同志の若者たちと、都会の人たちと村の人たちとの交流場所にしようと、豊かな森の木の上に「ツリーハウス」づくりを進めてきました。

 企画を進めるにあたっては村と交渉し、山林の一部をお借りしました。木材も地元の製材所から提供いただきました。私も現地に行った際、作業を少し手伝いましたが、9月には約2メートルの樹上に土台部分のデッキ(25平方メートル)が完成。協力いただいた村の皆さんをお招きし、感謝祭も開きました。

 社会創発塾では、社会人向けの「すずかんゼミ」として、ソーシャルアクションを仕掛ける若者たちにどんどん現場に入り実践してもらっています。ただし、単に地方創生、村おこしのためだけではありません。より重要なのは、未来のライフスタイルの選択肢を増やすための「社会実験」です。

 南牧村は診療所がなくなって久しく、都会に住む人から見れば、確かに不便な「限界集落」です。しかし、豊かな生活を経済的な価値だけで量ることは、20世紀的な発想にとらわれ過ぎたものでしょう。OECDも近年は、生産資本、人的資本、自然資本、社会関係資本(人々の協調活動の活発化により社会の効率性が向上できるという考え方)が重要だと主張しています。地方は生産資本で東京には劣りますが、自然資本、社会関係資本においてむしろ優位になることもあります。

 南牧村にいる教え子の男子学生は、村のお年寄りに「孫」のように可愛がっていただき、毎日夕飯の誘いが来たり、お米や野菜などの食材もお土産で頂いたりして、東京で暮らしていたときよりも“豊かな”食生活を送ったそうです。彼は「一人暮らしなら、年収200万円で十分に生活でき、貯金もできる」と言います。

「血のつながっていない親戚づくり」「キャッシュミニマム生活」に加え、「何かあったときの疎開地づくり」という点でも実験の意義はあります。東京以外に拠点があれば、大災害や経済危機があっても個人が再起を期することができます。
(東大・慶応大教授)

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