謎と恐怖に満ちあふれた全9篇からなる同書には、快楽殺人の悪夢、偏愛、運命の残酷さ、そしてすぐそばにある悲劇が描かれている。行き止まりの人間たちに最後に襲い掛かる絶望の予感に、読んでいる最中もザワザワと心が粟立つ。毎夜、同じような悪夢を見る男。
それはさまざまな女をいたぶり殺すことで性的興奮を覚えるという夢だ。その夢はまるで自分がやったかのような錯覚に陥るほど、リアルなのだ。ある日、自分が見た夢と同じ殺人事件が起こったというニュースをテレビで見た。犯人が捕まったという。そこには、自分と同じ顔の違う名前の男が映っていた…。そんな謎に満ちたストーリーの裏にある運命の残酷さ、悲劇を描いた「悪魔の帽子」は、ミステリーでありホラーであり、ある種ファンタジーの要素を持つ物語。「夏休みのケイカク」は、心温まるストーリーに落とされた1滴の毒が、じわじわと広がっていくような不快さをもたらす。
そしてラストで、それが最初から毒だったことに気づかされるのだ。そのほか、決して現実にはあり得ないのだが、フィクションなのではと思わせる語り口は、読んでいて決して気持ちのいいものではない。しかし、そんな気分になることこそが、作者の思うつぼでもある。不快でやり切れなく、でも登場人物にどこか共感できる不思議な作品だ。
『角の生えた帽子』【著者】宇佐美まこと
【定価】本体1500円(税別)【発行】KADOKAWA
【定価】本体1500円(税別)【発行】KADOKAWA