東京都内の桜は平年より10日ほど早く開花を迎え、4 月に入ると、すっかり葉桜に変わり、 ようやく寒さも底を脱しました。新社会人の皆さんも春めいた陽気の中を連日奮闘されていることと思います。
入社式の模様を伝えるニュースは、折々の社会情勢を反映しています。経営難や不祥事に見舞われた組織は、どうしてもその話が付いて回ります。今年は、東芝の入社式、そして決裁文書改ざん問題で厳しい追及を受けている財務省の入省式がクローズアップされていました。
新入社員でも組織の一員。マスコミから遠慮なくマイクを向けられるのも定番の光景ですが、財務省の新人は、ある局のインタビューに「人々からの信頼を得られるように、しっかりと自分が担っている職責を果たしていきたい」と決意を語っていました。国民の厳しい視線が注がれている中での立派な受け答えに、心よりエールを贈りたいと思います。
私も32年前、大学を卒業して当時の通商産業省に入省、社会人生活をスタートしました。学生時代、勉強はそれなりにできたと自負していても仕事は厳しいものです。当時の職場は割と体育会系気質。ミスをすれば罵倒されるのも当たり前で、最初の3カ月は辞めたくて仕方がありませんでした。ただ、プロ野球の世界でも、鳴り物入りで入ったドラフト 1 位の新人がプロの洗礼を浴びるものです。新人は仕事ができなくて当たり前であって、むしろ上司は、ルーキーがどこまで持ちこたえられるか、そしてミスした後の報告や事後対応をどうするか「姿勢」をみているものです。
社会人になると、学生時代のようには本を読むこともできません。しかし、入社から数年後を見据え、視野を広げておくためにも読書は重要です。ただ、時間も取れませんから、自分のいる「業界」の歴史を学ぶ本を重点的に読んでみるといいでしょう。私は1年目の後半から少し休みをとれるようになったので、当時担当していた石油エネルギー関連の書籍をよみあさりました。そして、なぜロックフェラー家がその名をとどろかせているのかといった歴史的経緯を知ることで日々の仕事も多様な観点で臨めるようになりました。
自分の所属する業界に関する本を読むことで、自分の向き合っている仕事の意義や重みを少しずつ実感できるようになるものです。プロ野球選手がオフの日も体のケアや簡単なトレーニングを欠かさないのと同じで、読書は、あなたの「プロ意識」を養う貴重な時間になります。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)