Notice: Function _load_textdomain_just_in_time was called incorrectly. Translation loading for the acf domain was triggered too early. This is usually an indicator for some code in the plugin or theme running too early. Translations should be loaded at the init action or later. Please see Debugging in WordPress for more information. (This message was added in version 6.7.0.) in /home/newthl/www/tokyoheadline/wp-includes/functions.php on line 6121
BOOK | TOKYO HEADLINE - Part 5
SearchSearch

芸術は爆笑だ!?『永田町絵画館』【著者】福本ヒデ

2019.07.05 Vol.Web Original



 この度は「永田町絵画館」に、ご来場いただきありがとうございます。

 当館は、「日本の中心で起きている出来事」を描いた絵画を主に扱っております。(「ごあいさつ」より)

 ここは日本の政界を司る「永田町」の名を冠した絵画館。「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か絵画が見られるんだろう」と、『注文の多い料理店』のような台詞をつぶやきながら、絵画館の白い扉をうやうやしく開けてみる。すると、どこかで見たことのある有名作品がところ狭しと並んでいるではないか。いったいどうやってこんなにたくさんの作品を集めたのだろう。「文句の叫び」や「火に油を注ぐ女」……あれ?

孤独をまとう不思議な鳥『ハシビロコウのすべて』

2019.06.29 Vol.Web Original



 皆さんはハシビロコウという鳥をご存知だろうか。鋭い眼光、哀愁を漂わせる立ち姿、「動かざること山の如し」といった風情で微動だにしない。アフリカに生息し、ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属を単独で構成する大型の鳥である。このハシビロコウが、アニメ「けものフレンズ」で擬人化されるなどした影響か、近年つとに人気を博しているという。上野動物園のスーベニアショップでは、パンダに次ぐ人気グッズとの話もある。

たった一人になった。でも、ひとりきりじゃなかった。『ひと』【著者】小野寺史宜

2019.04.29 Vol.717

 全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」の2019年ノミネート作品。

 交通事故で父親を亡くし、女手ひとつで育てられた柏木聖輔。母は学食で働きながら、聖輔を東京の私大に進ませてくれたが、ある日急死したという知らせが入る。20歳で両親を亡くした聖輔は大学を辞め、仕事を探そうと思うが、なかなか積極的に動く気持ちになれない。ある日、商店街を歩いていると、どこからともなくいい匂いが。その匂いに吸い寄せられ立ち止まった1軒の惣菜店。手元の現金は55円。ギリギリ買える50円のコロッケを買おうと思ったが、見知らぬお婆さんにそれを譲る羽目に。

 結局、コロッケを譲った事をきっかけに、聖輔はその惣菜店・田野倉で働く事になった。そこから、店主、同僚、仲間、同郷の友人と“ひと”との縁が少しずつつながっていく。ひとりぼっちで、未来に夢も希望も見いだせなかった聖輔だが、人と関りを持つたびに、夢が生まれ、喜びを知り、感謝の気持ちを持つ事ができるようになっていく。時には人に傷つけられる事もあるが、周りには守ってくれる人もいる。天涯孤独でも、貧乏でも、先が見えなくても、大丈夫。人が人とつながる事で、絆が生まれ、その絆から未来が開ける事もあると信じられる気がする。聖輔の成長とともに、その周りにいる人たちの大げさではない無償の行いに、胸がほっこりと温かくなる青春小説。

愛、信仰、運命—。この世界を生きる意味。『その先の道に消える』

2019.03.16 Vol.716

 アパートの一室で発見された、ある“緊縛師”の死体。重要な参考人として名前があがった桐田麻衣子は、捜査を担当している刑事・富樫がひかれていた女性だった。富樫は良心の呵責にさいなまれながらも、他の捜査員の目をそらすために、彼女の指紋を偽装し、捜査対象から外してしまう。

 しかし、それがほころびの第1歩となり、富樫は次第に追い詰められていく。そしてついに、同僚の葉山が富樫の前に現れ、富樫に詰め寄った。どこまで知られているのか分からないながらも動揺する富樫。そして、事態は意外な展開を見せ、葉山や麻衣子、そして姿の見えない犯人らがじりじりと交錯していく。その複雑で異様な人間関係を文字通り結んでいるのが、緊縛に使用される“麻縄”。単なる道具というだけではなく、日本人の宗教心や古代からなる日本人の思想にまで及ぶ展開は壮大な広がりを見せる。縄によって分けられた結界は、何を守り、何を破壊してきたのか。

 ミステリーでありながら、緊縛という非日常の行為に魅せられた男女の悲しみと破滅へ向かう真実は、誰にとっての救いなのか。登場人物の心の揺れや告白者が綴る闇も含め、文章からあふれ出る言葉のひとつひとつが胸に突き刺さる。中村文学の真骨頂ともいえる作品だ。

『その先の道に消える』
【著者】中村文則
【定価】本体1512円(税込)
【発行】朝日新聞出版

『虚談』ああ、取り返しがつかない。常識を覆す、現実と虚構をめぐる謎(ミステリー)

2018.05.25 Vol.706

『虚談』

 なんともぞっとする一冊。それはどこからくるものなのか。恐怖というほど明確ではなく、嫌悪というほど強い感情ではなく、しいて言うなら“違和感”なのか…。全9篇からなる連作集で、どの話にも共通しているのが“それは事実なのか?”ということ。小説だから事実ではないのだけれど、その話自体が、読み進めていくうちに横道に逸れ、出口を見失い、迷宮の中へ。読後は何とも言えない曖昧さと、口の中がざらつくような、言いようのない“違和感”を覚える。

「クラス」というタイトルの作品は、デザイン学校時代の年上のクラスメイトとの10年以上ぶりの再会から始まる。その同輩、御木さんが語りだしたのは、死んだ妹の話。13歳の時に不慮の事故で死んだ妹が、老婆になった姿で、自分の目の前に現れたというのだ。怖くなった御木さんは、長い間墓参りをしていなかったから、淋しかったのかと思い、命日に帰省したという。しかし、そこにお墓はなく…という話だったのだが、聞いている“僕”の記憶と彼の話には決定的な食い違いがあった。

 その話の内容もぞっとするものなら、僕の知っている事実もまた、恐ろしい。しかし、さらに続く事実のようなものにも恐怖は潜んでいる。ただしそれが事実であれば…。現実と虚構のはざまで戸惑う自分がいる。

僕は、もうこの夢の結末を知っている。『角の生えた帽子』【著者】宇佐美まこと

2017.12.28 Vol.701

 謎と恐怖に満ちあふれた全9篇からなる同書には、快楽殺人の悪夢、偏愛、運命の残酷さ、そしてすぐそばにある悲劇が描かれている。行き止まりの人間たちに最後に襲い掛かる絶望の予感に、読んでいる最中もザワザワと心が粟立つ。毎夜、同じような悪夢を見る男。

 それはさまざまな女をいたぶり殺すことで性的興奮を覚えるという夢だ。その夢はまるで自分がやったかのような錯覚に陥るほど、リアルなのだ。ある日、自分が見た夢と同じ殺人事件が起こったというニュースをテレビで見た。犯人が捕まったという。そこには、自分と同じ顔の違う名前の男が映っていた…。そんな謎に満ちたストーリーの裏にある運命の残酷さ、悲劇を描いた「悪魔の帽子」は、ミステリーでありホラーであり、ある種ファンタジーの要素を持つ物語。「夏休みのケイカク」は、心温まるストーリーに落とされた1滴の毒が、じわじわと広がっていくような不快さをもたらす。

 そしてラストで、それが最初から毒だったことに気づかされるのだ。そのほか、決して現実にはあり得ないのだが、フィクションなのではと思わせる語り口は、読んでいて決して気持ちのいいものではない。しかし、そんな気分になることこそが、作者の思うつぼでもある。不快でやり切れなく、でも登場人物にどこか共感できる不思議な作品だ。

『角の生えた帽子』【著者】宇佐美まこと
【定価】本体1500円(税別)【発行】KADOKAWA

「上流階級」を舞台に、アラサー女子たちの葛藤と成長を描く傑作長編

2017.09.09 Vol.697

『あのこは貴族』【著者】山内マリコ
 華子は東京生まれ、東京育ちの箱入り娘。小学校から大学までカトリック系の名門私立女子校に通い、父親のコネで就職。お正月には家族そろって帝国ホテルで食事をし、家族写真を撮る。そんな典型的な東京のいいとこの子である華子だが、27歳になる年に、結婚を意識していたボーイフレンドにふられてしまう。友人が次々結婚、婚約し焦る華子は、知り合いから男性を紹介してもらうも、イマイチぴんと来ない。

 そんな時、お見合いしたハンサムで家柄も申し分のない弁護士・青木幸一郎に初対面で恋に落ち…。対して、さびれた地方都市生まれで東京在住のOL、美紀。猛勉強の末、慶應大学に合格し、逃げ出すように閉塞感のある田舎から上京。

 しかし、そんなに苦労して入った大学では、内部進学者との圧倒的な違いに打ちのめされてしまう。まぶしいぐらい華やかで、何に対しても臆することなくキャンパスライフをおう歌する彼ら。お高くとまっているわけでもなく、むしろ誰にでも気さくに分け隔てなく話してくれることすら、家柄がいいという事の証しなのだ。そんなコンプレックスを抱えながら、必死に生きていた美紀だが大学を中退、一時は夜の世界で働くようになる。そこで出会った元同級生の青木幸一郎と、だらだらと付き合っていたのだが…。境遇のまったく違う2人の女性が、ひとりの男によって、その運命が交差する。結婚をめぐる葛藤と、呪縛からの解放、そして自分らしく生きるという事とは。

 女性なら誰でも一度は悩む問題を、ど真ん中から見つめた渾身の作品。

治るはずのないがんは、なぜ消滅したのか—『がん消滅の罠 完全寛解の謎』

2017.03.16 Vol.686

 2017年第15回の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作は、医療本格ミステリー。日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目は、余命半年の宣告をした肺腺がん患者の病巣がきれいに消えていることに衝撃を受ける。実は他にも、生命保険会社に勤務する友人から、夏目が余命宣告をしたがん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後にも生存し、そればかりかがんが寛解するという事が立て続けに起こっているという事を聞く。偶然にはありえない確率で起きているがん消滅の謎を、同僚の羽鳥と共に解明すべく調査を開始。一方、セレブ御用達の病院、湾岸医療センター。ここはがんの超・早期発見、治療する病院として、お金持ちや社会的地位の高い人に人気の病院。この病院のウリは、万が一がんが再発・転移した場合も、特別な治療でがんを完全寛解させることができるということ。果たしてそれはそこでしか受けられない最新の治療なのか?!

 がん消滅の謎を追究するうちに、夏目はこの湾岸医療センターにたどり着いた。その病院には、理由も告げずに日本がんセンターを去った恩師・西條が理事長として務めていることが分かり動揺する夏目。一体、そこではどのような治療が行われ、がん患者はどのような経過をたどっているのか。また、自分の病院で起きているがん消滅の謎との関係性は。専門用語が出てくる医療物は苦手な人もいると思うが、同書は非常に分かりやすく、ミステリーとして単純に楽しめる。果たしてそのトリックが可能なものなのかどうかは、判断できないものの、非常に興味深く読め、国立がん研究センターにいたという著者の知識が存分に生かされた大胆なストーリーに驚かされる。

逃げ続けることが、人生だった。『罪の声』【著者】塩田武士

2017.02.28 Vol.685

 グリコ・森永事件をフィクションで描いた『罪の声』。多くの謎を残し終焉した昭和最大の未解決事件「グリコ・森永事件」を題材に物語は展開。2人の男による、ある意味執念の捜査により明らかになった事件の真相とそれに関わった人々の苦悩が綴られた長編小説だ。

「ギンガ萬堂事件」?その第一幕は社長の誘拐から始まった。その後、商品の菓子に毒物を仕込み企業を脅迫、身代金を請求するという、前代未聞の事件が世間をにぎわせた。それから31年後、新聞社の文化部の記者・阿久津は年末企画の“昭和・平成の未解決事件”という特集で、その「ギン萬」事件を担当することに。時効が成立し、証言者たちの記憶も大分薄れている事から、事件の真相に迫る調査は難航するが、“今だから言える”という真実の証言を得て、じわじわとその真相に迫っていく。同じころ、この事件を調べ始めたもう一人の男、京都でテーラーを営む曽根俊也。企業への身代金取引の電話には子どもの声が使われていたのだが、母の部屋で偶然見つけたカセットテープに、事件に使用されたと思われる脅迫文を読む子どもの声が録音されていた。しかも、その声は紛れもなく幼い頃の自分…。果たして、俊也の死んだ父親は事件に関係していたのか? さらに、自分以外の子供の声は一体どこの子供なのか? また、阿久津は事件の真相にたどり着けるのか? 事件の裏に隠された悲しい真実。そこには事件をきっかけに人生を翻弄された普通の人々がいた!? 

 誰もが知る有名な事件を推理し、その事件に関わった人たちの波乱の人生を大胆予想した、エンターテインメントフィクション。

【BOOK】“全身役者”が明かす痛快無比な人生70年

2016.12.29 Vol.681

 芸能デビューから50周年、今年数えで70歳となり、古希を迎えた西田敏行による初の自伝。

 1947年11月、福島県郡山市に生まれた西田は、養父母に育てられる。映画好きだった養父母に連れられて映画館に通ううちに、西田少年は映画俳優になることを夢見るようになった。東京にさえ出れば映画俳優への道が開けるのではないかと思った西田は、養父母を説得し東京の高校へ入学。しかし、田舎では社交性があり人気者だったのに、方言を笑われ、一種の対人恐怖症に。授業をサボり上野動物園のゴリラのブルブルを見がら時間を過ごし、孤独な高校時代を乗り越えたという。そんな孤独感を抱えながらも、心の支えになったのはやはり映画。三國連太郎主演の『飢餓海峡』を見て三國の付き人になれないかと思うようになる。そんな三國と『釣りバカ日誌』で、何十年もコンビを組むことになるとはその時思うはずもなく…。高校を卒業すると進学した大学を除籍となり、本格的に役者修行の道へ。劇団青年座に入った西田は『写楽考』という舞台で頭角を現してくる。

 その後の活躍は、誰もが知るところで、大河ドラマからホームドラマ、大御所の監督作品から、三谷幸喜のコメディー、さらには正月映画『釣りバカ日誌』と、歴史に名をのこす将軍から、サラリーマンなど何百という役を演じてきた。そんな自身の半生もさることながら、改めて読むとその作品の撮影秘話などは、そのまま日本の映画やテレビのもう一つの歴史であり、昭和・平成の貴重な芸能史としても楽しめる。今や国民的俳優となり、老若男女、多くのファンを持つ西田の原点ここにあり!

この小説を映画化?無理無理!リアルすぎるし面白すぎる!!『クランクイン』

2016.12.14 Vol.680

 広告代理店に勤める優秀でも、無能でもないごくごく平凡なサラリーマン根本が、社運を賭けた一大プロジェクトの担当に任命。それはベストセラー小説を映画化するというもので、映画好きな根本には夢のような仕事だった。

 しかし、業界とはいってもまったく畑違いの映画製作という仕事。まずは、原作者でもあるベストセラー作家に、映画化の許可をもらうところから大苦戦。その後も、製作費集め、キャスティング、カメラマンの怪我など問題が続出。しかも、根本自身も死に別れたはずの母親に関して、それまで知らされていなかった事実が明らかになり、仕事、プライベートともに寝る暇もない忙しさ。果たしてそれぞれの問題を無事にクリアし、映画を完成することができるのか? そして亡き母の秘密は明らかになるのか?

 さらに、忙しさのあまりギクシャクしてしまった恋人との関係は? 平凡な日常が、急転直下怒涛の日々に変わったサラリーマンの奮闘記。著者は食品偽装の問題を扱った小説『震える牛』の相場英雄。WOWOWで連続ドラマにもなり、世間を震撼させたシリアスな社会派サスペンスから一転、映画作りの舞台裏を、笑いと涙で描いたドタバタコメディーだ。根本の悲喜劇も見ものだが、普段は知ることのできない映画製作の苦労が非常に分かりやすく描かれているので、映画好きにも楽しい第一級の痛快エンターテインメントとなっている。それにしても、さんざん苦労した映画製作に、あんなどんでん返しが待ち受けているとは…。最後の最後までスリルある展開がお見事!

Copyrighted Image