大森南朋 北野武最新作『アウトレイジ 最終章』
監督・北野武流バイオレンスが炸裂する大ヒットシリーズがついに完結。北野監督作『アキレスと亀』でも味のあるキャラクターを演じた大森南朋が『アウトレイジ』シリーズに初参加。1作目から出演を熱望していたという大森が、主人公・大友の弟分的役どころで、居並ぶ大御所俳優の中でも一味違う存在感を発揮する!
大森南朋、北野武との出会い
「僕はまさにテレビで活躍をされているたけしさんを見て育った世代です。こうして一緒にお仕事できるというのは僕にとっては本当に特別なことなんです」と語る大森南朋。ちなみに大森少年はドリフ派? それともひょうきん族派?
「その辺は無自覚だったかな(笑)。ドリフも見ていましたけど、後から『オレたちひょうきん族』が始まったせいもあり、当時のお笑いの先端をいっている番組というイメージがありました」
お笑い界の先端にいたビートたけしは、やがて世界で絶賛される映画監督になった。
「作り手としての北野武監督を意識したのは、やはり『その男、凶暴につき』(1989年)です。映画監督もされるんだ、とちょっと驚きました。カメラワークも独特で、主人公が橋を歩いて来るシーンをこんなに長回しで撮るんだ、とすごく刺激を受けたことを覚えています。北野監督は、そこからバイオレンスものをどんどん作っていかれた。僕も作品を見ながら、いつかこういう映画に出たいなとずっと思っていました。でも当時の僕は俳優としてまだ駆け出しで、北野武という存在はずっと遠くのほうにある感じでした」
そんな北野と、監督と俳優として最初の出会いとなったのが…。
「実は『Dolls[ドールズ]』(2002年)に少しだけ出演させて頂いているんです。今でも覚えているんですが、山本耀司さんのオフィスで衣装合わせをした時のことです。豊洲あたりのかっこいい倉庫のような場所で、僕はまずその空気感に圧倒されていました(笑)。そこへ北野監督がいらっしゃって。二言三言、声をかけていただいたんですけど僕はもう、ろくに言葉も浮かばず、挨拶させて頂くだけで精一杯でした。とにかく存在感が圧倒的すぎて、怖いくらいでした。子供の頃からテレビで見ていた方、というのもあるのでしょうが…大多数の人が、北野武を目の前にしたらビビると思います(笑)」
そう笑う大森だが『アキレスと亀』(2008年)では、たけし演じる主人公の画家を迷走させる画商という重要な役どころにキャスティング。そしてついに、シリーズに念願の初参加が叶った『アウトレイジ 最終章』では、たけし演じる主人公・大友を慕い、行動を共にする市川役に起用。この配役を見るに北野監督にとって大森はかなりお気に入りの役者のように思えるが…。
「それが本当ならうれしいですけど…ご本人の口から聞くまでは信じられません(笑)。『アキレスと亀』では、僕のセリフが急遽変更になったりしたこともありました。監督は撮るのがすごく速くて、その日もどんどん撮影が進んでいったんですが、たけしさんと樋口可南子さんを相手に僕がずっとしゃべっているという場面のリハーサルをしていたら助監督から変更部分の15行くらいの、微妙に変えられているセリフを渡されまして。周りを見回すと、スタッフがそそくさと去っていく姿が見えて(笑)。これはもうやるしかないんだな、と。ああいう時は集中力が上がるんですかね、テストのときは完璧にセリフを言えたんです。ところがいざ本番では、芝居しながらセリフがとっ散らかってしまいまして。それでも一応、意味は合わせたんですけど。カットがかかって、自分ではダメだなコレ、と思っていたら、監督がOK!って…。“大丈夫でした? セリフ、ヨロヨロしていませんでした?”と監督に確認したら“うん、何か面白かった”と言ってくださったので、あーよかった、と(笑)。北野監督は、そういうものを拾ってくれるんだなと感じて、うれしかったです」
偉大な先輩との共闘で悟り
その場で生まれるものを大事にする北野監督の目に、大森は頼もしい役者として映ったのかもしれない。本作ではシリーズで初めて登場する大友の“愛弟子”的な役どころを託された。大森演じる市川は、コワモテな極道たちが入り乱れる中でも一見無邪気に大友を慕う、ひょうひょうとした人物。
「監督からは市川をどういうふうに演じてほしいというようなお話はありませんでした。もともと北野監督はそういうことをほとんどなさらないんです。役についての説明が無くても大丈夫なんです。台本はあるし、現場に行けば監督がいらっしゃるわけですから。北野組はそういうものだということは、たいていの俳優なら知っていると思います。役者にとってはやりがいを感じる部分でもありますし、一方で怖いところでもあります。最初のころ、ピエール瀧さんから“監督は何も言わないけど、これでいいんだよね”と確認されましたけど、大丈夫ですよと安心してもらいました(笑)。監督も勝手にやってくれ、と思っているんじゃないでしょうか(笑)。北野組では役者たちもそれを心得ていて、けっこう皆さん勝手にやっています(笑)。各々に任されている部分が大きいぶん、北野組の現場は入った瞬間にスタッフも俳優も背筋が伸びるというか、いい緊張感があります。もちろんどの作品の現場でもそうなんですけど、北野組は独特というか何か特別なものを感じます。そもそも本作には西田敏行さんや塩見三省さんといった先輩たちがいらっしゃって、その迫力に僕などが敵うわけがありません。市川のひょうひょうとしたキャラクターで勝負するしかない。監督もそれを求めて僕を呼んでくれたのだろうから自分の役割を全うしよう、と思いました」
市川は、ひょうひょうしている一方で柔らかな狂気も持ち合わせる男。闇組織のタブーを犯す大友に何の迷いもなくついていき、恍惚とした表情で銃を乱射する。
「偉大な先輩と一緒にとんでもない状況に直面しているという、僕が感じたようなことが市川の中にもあるというか。一種のあきらめのような、達観している部分があるのかなと。あこがれの北野映画でマシンガンを乱射するなんて、夢がかなったなと感じる部分もありました。僕自身のそういう気持ちも少し出てしまったかも(笑)」
かっこいいバイオレンス映画とは
バイオレンス映画が持つロマンは映画人を引き付けてやまない。
「もともと僕も、単純にバイオレンス映画が好きだったんです。映画を見始めたころ、タランティーノなどのバイオレンスものがすごく流行っていたせいもあったと思うんですが、気づくとそういう映画ばかり見ていた時期がありました。僕自身は不良でも何でもないので、芝居のなかでそういう生きざまを疑似体験するという面白さもあります。そういう世界観がけっこう好きというのもあります。今も当時好きだった作品をときどき見ています。『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』、『トゥルー・ロマンス』など…。日本でいえば三池崇史監督なども好きです」
そんな大森にとって北野バイオレンスの面白さとは?
「『アウトレイジ』シリーズに関して言うと、やはりまず脚本の作り方です。根底にある線がずっとつながっているから、ヤクザ同士の関係性について余計な説明をせずに壮大な抗争劇を描き切ってしまう。アクションについても、いきなり露骨にバイオレンス描写が来るので、見ているほうも痛い(笑)。1作目の、石橋蓮司さんが歯医者で大友に襲われるシーンとか…ヤバかったですよ」
シリーズ最終章とあって、登場人物全員のコワモテっぷりも心なしかパワーアップしているような。
「でも皆さん本当は優しい方々ばかりです。本作の西田さんをはじめ皆さん本当に怖いですけど、実際はすごく優しいです。大杉漣さんはかなりテンパってる組長でしたけど(笑)、本番直前まで和気あいあいとお話していて。僕が、一番リアルにいそうだなと思ったのはピエール瀧さんかな。とくに裸でいるシーン。あの肉体に、すごく説得力を感じました(笑)」
ゆくゆくは、先輩たちのようなドン役に意欲は?
「あります。僕もだんだん親父(麿赤兒)に似てきましたし(笑)。このまま行けば組長顔になっていくかもしれません」
残念ながら『アウトレイジ』シリーズは本作で完結となるが、もし大友の後を継いだ市川が主人公の新シリーズがあったら…?
「そんなことになったら他の仕事を全部断ります(笑)」
他の作品を断られては困るけれど、居並ぶ大御所の中でも独自の存在感を放った大森の姿に、いつか“ドン・大森南朋”を見てみたいと思ってしまう。
(本紙・秋吉布由子)
監督/脚本/編集:北野武 出演:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、他/1時間44分/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野配給/全国公開中 http://outrage-movie.jp/http://outrage-movie.jp/