野田秀樹作『赤鬼』が中屋敷法仁の演出でこの2014年によみがえる

作 演出も出演者も刺激的黒木 華×柄本時生×玉置玲央×小野寺修二 
円形劇場×演劇=円劇というテーマを掲げ、青山円形劇場が2008年にスタートした「青山円劇カウンシル」が2015年の同劇場の閉館に伴いファイナルを迎える。新進気鋭の劇作家を起用して刺激的な作品を生み出してきたこの企画。その最後を飾るのは野田秀樹作、中屋敷法仁演出の『赤鬼』。(本紙・本吉英人/撮影・蔦野裕)
写真左上:黒木 華 同右上:柄本時生 同左下:玉置玲央 同右下:小野寺修二
6月4日上演開始

『赤鬼』は野田秀樹の作・演出で1996年に初演。人種間における差別という普遍的なテーマや「異文化への畏怖」、倫理とエゴのぶつかり合いといった重めのテーマを、野田作品特有の巧みな言葉遊びや軽快なテンポで包み、描いた作品。その後、タイ語に翻訳されタイ人キャストによる上演、ロンドンでの英語脚本での上演を経て、2004年には日本でタイ版、ロンドン版、日本版の3バージョンで上演された。演出を手がける中屋敷法仁は自らの劇団「柿喰う客」はもとより、最近では多くの外部公演の演出を担当。劇作家としても岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされるなど、世代を代表する作・演出家だ。

 物語はある日、村の砂浜に肌の色も言語も違う異人が打ち上げられたところから始まる。村人はその異人を「赤鬼」と呼び、村八分にされている「あの女」が呼び寄せたという偽りの噂が広まる。あの女は徐々に赤鬼と心を通わせていくのだが、赤鬼は人を食うと誤解され、迫害されたあげく処刑されることになる。あの女は、白痴の兄「とんび」と嘘つきの「ミズカネ」とともに赤鬼を救出しようとするのだが…。

「青山円劇カウンシルでやらせてもらうにあたっては、中屋敷から“赤鬼をやりたい”と提案したそうなんです」とは柿喰う客の中心メンバーである玉置玲央。中屋敷が手がける作品にはほぼ出演。欠かせないピースだ。玉置は今回「ミズカネ」を演じる。
「初演の時は私は4歳でした」というのは「あの女」を演じる黒木華。黒木はNODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』のヒロインオーディションに合格し、野田作品に出演。今年、映画『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞。現在、NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』に出演中と、いま最も勢いのある女優だ。

 上演時は大きな話題を呼んだ作品でもあることから、作品を見たことはあるのか?と聞いてみたところ「僕…見ていないんです」というのは「とんび」を演じる柄本時生。映像、舞台とジャンルにとらわれず幅広い作品に出演。若くしてそのバイプレーヤーっぷりは半端ない。
 そして赤鬼を演じるのは…「僕らしいです。もう言っちゃってもいいんですかね(笑)」という小野寺修二。「カンパニーデラシネラ」を主宰し、パフォーマー、演出家、振付家などさまざまな顔を持つ。最近は音楽劇や演劇などで振付を担当することも多く、今回は振付家としての役割も担っている。

 野田×中屋敷という組み合わせだけでもワクワクさせられるところなのだが、出演がこの4人と聞いてそのワクワク感は高まるばかりだ。キャスティングに関しては、当初から赤鬼は日本人で、なおかつ体を動かせる人であること。そして、いま勢いがあり、ぜひこの作品を一緒に作りたいと思う同世代の役者ということで3人が決まったという。柄本は一昨年『露出狂』で、黒木は『飛龍伝』で中屋敷作品に出演しているのだが…。
黒木(以下、黒)「なにか(のインタビュー)で時生さんが“中屋敷さんに嫌われていると思っていた”って言っていたのを見たことがあるんですが、私もそうだったんで“一緒だ”と思ったんです(笑)。だからなんで呼ばれたのかよく分からないんです」
柄本(以下、柄)「僕は映画でも舞台でもなんでもそうなんですけど、終わった後は“監督に嫌われてるな”って勝手に思っているんです」
小野寺(以下、小)「それおかしいでしょ(笑)」
玉置(以下、玉)「具体的になにかありましたっけ?」
黒「なにかあったわけではないんですけど、時生さんと一緒でなんとなく。私、こんなだからあまり好かれてないんだろうなって。あえて探すとしたら、言う事聞かないから…? 聞いているつもりなんですけどね(笑)」
柄「それすごく分かる。聞いてるつもりなんだよね。言われていることをやっているつもりなんだけど、“やってないよ”って言われたこと何度かあったじゃないですか」
玉「あった。あったね」
柄「俺、やってんだけどな〜って。そういうことがあって、勝手に “あっ…これまでだ”って」
黒「完全に一緒(笑)」
玉「僕は共演していましたけど、中屋敷は2人のこと全然嫌ってないですよ(笑)」
柄「あ? そうだったんですか?」
小「そのとき言ってあげたらよかったのに(笑)」
柄「良かった〜」
玉「現場中もずっと言ってたじゃない。大丈夫だよって」
柄「そんな話しましたっけ?」
 でもこれでなんの心配もなく稽古に臨めそうだ。
小「そう書いてくださいね(笑)。でももしかしたら、険悪な空気って書かれるのもいいかもしれない」
柄「僕も“険悪な雰囲気の稽古場でみんな頑張っている”っていう記事があったら面白いなって、たまに思います」
小「俺、そっちのほうがひかれるね(笑)。“あれ? これちょっともめてるな”って」
 赤鬼って難しいテーマを抱えている作品。4人は作品にどんな印象を?
黒「私は以前、先輩がやった赤鬼をDVDで見ていまして、それから脚本を読みました。初演を見たのは最近で、やっぱり野田さんだな、面白いなって思って見ていました。“みんなよく動くな”とか“野田さん若いな”とか。倫理的なテーマとかあまり難しいことを考えながら見てはいなかったです。自分もそうだし、見る側がどこを見るかということはそれぞれ違うと思いますし。なので内容についてどうこうっていうことはここではあまり言えないです」
 何も考えないで臨んだほうがいい?
黒「そういうことはあまり意識していないですね。小野寺さんがきっと面白くしてくれるだろうな、とか(笑)」
小「おかしいでしょ、それ(笑)」
黒「でも、赤鬼を日本人がやるということはすごく面白いし、楽しみだなって思っています。小野寺さんは身長も高くないし、見た目も怖くないじゃないですか。それで分かりやすくなるところもあるし、逆に分かりにくくなる部分も出てくると思いますが、見た目に引っ張られることなく物語を見ることができるので、それはかえっていいんじゃないかなって思います」

 初演では富田靖子、段田安則、野田秀樹に交じり赤鬼は屈強な外国人俳優アンガス・バーネットが演じた。タイ、ロンドンバージョンでは野田が演じたのだが、逆に他の役は外国人が演じるなど、赤鬼役は見て分かる異質さを持っていた。中屋敷版ではその要素はない。

玉「僕はけっこう前に見ていました。でも、あこがれの芝居という感じで見てしまっていて、あまり冷静に見てはいなかった気がします。僕も野田さんの動きなんかに目がいってました。倫理観とか差別といったキーワードは普通に見ていたり読んでいたらおのずと頭に入ってくることだと思うんです。でもそれが当時の自分にはピンと来なかった。来なかったというか現実味がなかった。今回、僕はミズカネという役をやらせてもらうんですが、ありがたいなと思っているんです。ミズカネは嘘つきの役なんですけど、結局俳優って嘘を演じる仕事じゃないですか。ミズカネには愛している“ある女”という存在がある。愛だけではないいろいろな要因があるんですが、ミズカネは女を生きさせたいから嘘をつくんです。そこに倫理観なのかエゴなのか分からないんですけど、そういったテーマが発生してくるんですが、そこに僕が生業としてやっている嘘がつながっていく。これは漠然と見ていたときには感じなかったんですが、ミズカネを演じることが決まってから脚本を読んだときにそう思いました。そう思ったら、ミズカネの役に限らず、倫理観とか差別という社会問題的な話というよりも、役同士とか役を演じている本人のエゴの話として見ていいんじゃないかなって思ったんです。中屋敷がどう感じ取っているかは分からないんですけど。そこでいい意味で、中屋敷のエゴと自分のエゴがうまく融合すれば面白い作品になるんじゃないかと思っています。あとは小野寺さんが…多分面白くしてくれると思うんで…」
小「それおかしいでしょ(笑)。なんでそこにオチつけるの」

 振付家の目も持つ小野寺は?
小「人を見立ててどんどん切り替えていく戯曲になっているんですが、僕は見立ての世界にいるので、そのやり方みたいなものには興味があるし、それを4人でやりきるというシステムみたいなものも面白いと思っています。動き的な話で言うと、どうやって俳優の印象を立てて、魅力的でいてもらえるかとか、キャラクターとしてこういう人なんだな、といったときの見立ての仕方を野田さんに負けないように作れたら、とは思うんですが、そこはすごくハードルが高いなって思います」

 先ほど、小野寺の赤鬼には見た目の異質さはないと書いたのだが、小野寺からすると4人の関係性は、実は作品の関係性と重なっているところがあるという。
小「一緒に作業をしてみて感じたんですが、まず年齢的な差があるじゃないですか。そして3人はやっぱりお芝居の人たちで、僕はパフォーマーということ。僕はセリフを使ってお芝居の中にどっぷり入るということはしたことがないんです。4人の中にあるそういう違和感というか現状と作品の中で3人が演じる役や村人たちが赤鬼に対して持つ感情や関係性は近いものがあるんじゃないかと思うんです。僕は頑張っても華ちゃんや時生君、玲央君みたいにうまく台詞を言えたりはしないので、まあとにかく、“変だなこの人”って思われたら、多分3人といい関係ができるのではないかと思っているんです。でもこの3人が一緒にやっているところを見ていると、いい距離感だなって思うんです。友達だし仲もいいけど、戯曲の関係となにか近いものがある。会話に突っ込んでくる人がいれば、それに嫌な顔をする人もいる、それを全然聞いていない人もいるし(笑)」
 全員(笑)
小「ホントにこの人たちは、そのまま生きているんだなっていうのは正直思います。たまたまなのかもしれないですけど」
柄「(玉置を指差し)ミズカネですよ、確かにミズカネですよ(笑)」

 この関係性って意識してた?
柄「今一気に腑に落ちた感じはあります」
玉「小野寺さんに対してはやっぱりいろいろ考えていたんです。おっしゃったとおり、なにかしら、年齢だったりとか違いはあるな、とは思っていたんですけど」

 では最後に柄本に締めてもらおう。
柄「昔の戯曲なんかを読んでいるときに、“こういう作品やってみたいな。でも難しいだろうな”なんて考えていた作品が、急に目の前にやってきた、みたいな気持ちが一番ですね。倫理とかそういうものは今まで一度も考えたことがないので、見たお客さんに、それぞれ考えていただくというのが一番いいんじゃないかなって思うんです。1+1が2だよって言い続けられたら、見ているほうは疲れちゃうじゃないですか。“ああ、答えは2なんでしょ、分かったよ”って言いたくなっちゃう。そうじゃなくて見ている人が悩んでくれれば面白いかなと思うんですよね」

 見ている側が1+1を3にしてもいい。
柄「そう。見ている人に勝手に考えていただけたらなって思い…ます。締まった? これ締まった?(笑)」

『赤鬼』という作品がこの時代にどう受け取られるのかということはもちろん、中屋敷という若い演出家がこの作品をどう料理するのか。そしてこの4人の俳優たちがどんな作品を見せてくれるのか。そんなことを考えると興味は尽きない。
青山円劇カウンシルファイナル『赤鬼』
【日時】6月4日(水)〜15日(日)(開演は平日19時30分、土日13時/17時。※12日(木)は15時の回あり。10・11・14日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)【会場】青山円形劇場(表参道)【料金】全席指定6500円【問い合わせ】ゴーチ・ブラザーズ(TEL:03-6809-7125=平日10〜18時 [HP]http://akaoni2014.com/)【作】野田秀樹【演出】中屋敷法仁【出演】黒木華、柄本時生、玉置玲央、小野寺修二