【インタビュー】北乃きい コロナ禍で気づいた喜劇の意味。 シェイクスピア作品で新たな境地を開拓
2020年秋、東京芸術劇場30周年記念公演「真夏の夜の夢」が上演される。シェイクスピアの不朽の名作を、日本の演劇界をけん引する劇作家・野田秀樹がダイナミックに翻案、ルーマニアを代表する演出家・シルヴィウ・プルカレーテが演出。物語の舞台を、アテネの森から富士のふもとの「知られざる森」へ移し、切なくも美しい恋物語を繰り広げる。本作で愛する者と駆け落ちする割烹料理屋のピュアな娘、ときたまごを演じるのは、女優の北乃きい。映画にドラマ、演劇へと活躍の場を広げる彼女の新たな挑戦に迫った。
北乃きい(撮影・上岸卓史)
初の本格ファンタジー
9月下旬、稽古真っ最中の北乃は胸を躍らせていた。昨年ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」でマリア役を熱演するなど演劇作品でもキャリアを重ねる彼女は、今新たにチャレンジングな試みをしているのだという。
「これまで家族や青春ものを演じる事が多くて、ファンタジー作品はほぼ初めてなんです。特に今回の台本はト書き(登場人物の動きや場面を説明する文章)がほとんどなくてセリフだけが続いているので、“ここはどう動くんだろう?”という部分も多くあって。でもト書きがない分、何でもできるんですよね。挑戦です。いま想像力を膨らましていくという挑戦をしています」
本作で演出を務めるのは、ルーマニアを代表する演出家・シルヴィウ・プルカレーテ。これまで水張りのプールや炎の吹き荒れる野外劇など、奇想天外なアイデアや演出で見る者を魅了してきた演劇界の巨匠だ。稽古にもプルカレーテ流スタイルを随所に取り入れている。
「今はエチュード(即興劇)やワークショップの時間が稽古の大半を占めていて、シーン通りにやることが少ないんです。トレーニングを通して役者にまず雰囲気を分かってもらいたいというような。そういうやり方は海外式というよりは、プルカレーテさんのやり方なのだと思います。私にとっては初めての経験で、とても新鮮です。細かい動きやセリフの言い方よりも、言われたベースの部分を何回も読み返しています」
ストイックに役を作り込む苦労がある一方、「決め込み過ぎない」という作業もまた役者力が問われる技術だ。稽古中には学びも多いという。
「先輩方の稽古に見入ってしまう毎日です。たとえば“踊りながらこっちに来て。でも早めに”と言われたとして、(鈴木)杏ちゃんはスキップみたいな動きをしたり、毎回変えていて。それを見て“あぁ、踊りってこれくらいでいいのか”って。私はダンスをやっていたので“踊って”と言われたら、きっとしっかり踊っちゃう。でも演出家によって“踊り”のさじ加減って違うと思うんですよね。杏ちゃんはいつどこでプルカレーテさんのさじ加減を理解したんだろうと。見ているだけでもすごく勉強になります」