【インタビュー】多国籍都市「新大久保」に生きる人々を追った『ルポ新大久保』著者・室橋裕和さん 

イスラム横丁には各国のレストランや食堂が並ぶ
 新大久保の中でも国ごとにコミュニティーの違いはあるのでしょうか?

「それはもちろんあります。どこかの区画に集中しているわけではなく、いろんなところに点在しているんですけれども、たとえばネパール人ならネパール人同志で集まりますし。ただし、コミュニティーにもいろいろあって、ヒンドゥー教のお寺なんかは国ではなく、ヒンドゥーというコミュニティーなんです。そこにはネパール人もいればバングラデシュ人もいるし、インド人もいます。また、商店街というコミュニティーもあって、日本人もいれば韓国人もいるし、ベトナム人もいる。いろんな形のコミュニティーがあるのかなという気はしますね」

 室橋さんがおすすめしたい新大久保のスポットは?

「東京媽祖廟は分かりやすく面白いのと、イスラム横丁ですかね。あそこにある『ナスコ』というスーパーは都内では有数の充実ぶりで、特にスパイス関連の取り扱いは日本でもトップクラスみたいです。あと、ネパールにせよベトナムにせよ、何となく入りづらいようなレストラン。おしゃれでも何でもない街の食堂が、入ってみるとなかなか面白かったりするんです。店員は皆さん日本語が分かってフレンドリーですし、日本人向けでないガチなローカルフードがあります。集まっているのは地元の人ばかりで、日本人が全くいない店もたくさんある。海外に行けない今は旅行気分が味わえますし、そういう店をうろうろしてみるのも面白いかなと思います」

 本の中でも触れていますが、コロナ禍で新大久保の街にも変化はありましたか?

「昨年の緊急事態宣言中は、コリアンタウン(新大久保駅から東新宿駅の間のエリア)のほうはゴーストタウンでした。かなりの数の店が閉まっていたし、学校も閉まったんですよね。あれだけたくさんいた韓流ファンの女の子たちがゼロになって、街を歩いている人は誰もいなかったです。このあたりは日本語学校や専門学校がすごく多くて、そこに通っている留学生たちがこの街の若さを作ってるんですけど、学校が一斉に閉まったので学生の姿も消えました。一時は街全体が死んでしまったような感じになりましたね。

 全国的にも飲食店のテイクアウトが流行りましたが、新大久保では日本人の店よりも外国人の店のほうが対応が早かった。韓国をはじめ中国、タイ、ベトナム、ネパール、インドネシア、台湾といった店がわーっとテイクアウトを始めて、テイクアウトだけで海外旅行のような感じになって面白かったですね。あの時も時短要請は20時まででしたが、営業時間の範囲内でやっている店は多かったです。9月くらいからコリアンタウンのお客さんが徐々に戻ってきて、10月からは学校も開校し始めて新入生が少しずつ増えていたのですが、2度目の緊急事態宣言でどうなるのか。日本語学校や飲食店、留学生たちも持ちこたえられるのか心配です」

 これから『ルポ新大久保』を読む人に、室橋さんからメッセージをお願いします。

「外国人に対して何となく反感を持っている人もいると思うんですけど、新大久保に来るとそういった人たちとけっこう自然に触れ合えます。そこらのレストランや食材店に行けば、店員や労働者、留学生などいろんな人たちがいるので、暮らしぶりを間近に見られるんですね。その姿を見ていると、単なる隣のおっちゃんでありおばちゃんだなというのがよく分かります。もちろんいいことばかりではないんですけど、本を通して『普通の人が普通に生きているよ』ということを知ってもらえたらいいなと思います」
ケバブ店やエスニック料理店、バインミー店の並ぶ通りも