根木慎志「2度目の東京パラリンピックは、 世界に何を伝えられるか」

「CHALLENGED SPORTS 夢の課外授業」(2019年11月)での様子。

「チャレンジする」気持ちを育む

 ライフワークでは、これまで36年間、全国の小中高等学校、約3600校・80万人の子どもたちに体験型の授業を行ってきた。

「僕自身が車いすバスケを始めた1984年当時は、世の中の人はほとんど知らないですよね。ましてや、パラスポーツを子供たちの前でやる取り組みという発想はなかったんです。あるきっかけから始めたときに、子供たちが“うわーすごい!”となって、“僕も根木さんみたいになりたい”と言ってもらえて。そのときに、“これは一生かけて伝えていくメッセージだな”と思いました」

 根木は2000年にスタートした、子どもたちが夢や目標を持つためのきっかけづくりを目指す「夢の課外授業」(主催:二十一世紀倶楽部)にも2015年から参加。これまで小池百合子都知事や舛添要一前都知事、EXILEメンバーなどのアーティストらと共に、都内の小中学校で車いすバスケットボールの楽しさや、心のバリアフリーの大切さを伝えている。舛添前知事が本授業に参加したことをきっかけに、2016年には、銀座中央通りで大規模なパラスポーツイベントを実現させるなど、機運醸成の手応えも感じた。

「夢の課外授業では、自分のやり方でできることと、皆さんの活動だからできることがあると感じています。ご一緒する皆さんと接して感じるのは、歌やダンス、スポーツ、それぞれに夢を持ってチャレンジをして、挫折もあったりと、いろいろな経験をしています。年齢も経験も全く違うのですが、みんな“そのものに出会えてよかった”という気持ちで、そのことを次世代の子供たちに伝えたいと思っているのは一緒なんですよね。子供たちにもたくさんの出会いがある中で、アスリートになるかもしれないし、エンタメの世界に行くかもしれない。それぞれの世界で活躍してくれたらうれしいです」

 根木自身が伝え続けていることとは。

「僕自身の経験や車いすバスケットボールとの出会いを通して、チャレンジすることの素晴らしさを伝えています。授業では、子供たちや先生に車いすバスケを体験してもらうのですが、初めてだからできないことのほうが多い。でも、できなくても、みんなで楽しむんですよね。世の中では夢を語るときに、“できることが素晴らしい”という視点もあるのですが、そもそも、できるとか、できないとか関係なしに、“やりたい”と思う気持ちや、チャレンジすることで失敗して、“難しい・悔しい”という思いも、すごく大切だと思うんです。僕はチャレンジすること自体が素晴らしいということを伝えています」

 そして、そのチャレンジの源泉は、「応援の力」なのだという。

「体験授業では、子どもたちから自然発生的に“応援”が起こるんですね。授業では、“なぜみんな応援するんだろう”という話をしています。練習したり、命令されてするわけではなくて、きっと彼らが今まで生きてきて、周りの人たちから応援してもらっているからなんですね。応援された時のうれしかった気持ちや、頑張れる喜びを知っているから、頑張っている人を見ると応援したくなる。そうやって“応援の輪”が広がっていくことで、難しいことでもチャレンジしようと思えるのではないかと思います」