演出家・黒田勇樹が語る 「コロナ禍での演劇と表現」
舞台『白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます』が3月24日スタート
俳優で脚本家・演出家でもある黒田勇樹が3月24日から始まる舞台『白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます』の演出を務める。昨今は俳優の活動より脚本家や演出家、映像作品の監督での活動が目立つ黒田に作品のこと、そして新型コロナ禍での表現の在り方などについて聞いた。
ここ数年は三栄町LIVEという会場とのプロデュース公演で脚本・演出を務める作品を多く発表してきた黒田だが、今回は別のプロデューサーに演出家として呼ばれ作品を作ることになった。
「今回の作品はいわゆるライトノベルが原作で、今流行っている“異世界転生もの”というジャンルの作品です。異世界転生ものというのは僕らのような日常生活を送っている人が生死の淵をさまよった時に、ファンタジーの世界に行って、現在の知識を使ってその世界に影響を与えていくといったお話。今、“なろう系小説”といわれているものがあって、そういうものを投稿するサイトがあるんですが、そのサイトから人気が出たものが出版されたり、コミカライズされたりアニメ化されたりというムーブメントができているようです。この作品もそういう流れの中で人気が出た作品の一つ。来月には漫画になります。それと同時に舞台化もされることになりました」
なぜ演出を手掛けることに?
「今回の作品はファンタジーなんですが、和洋折衷というか洋風なものも和風なものも中華風なものも混在している世界といった世界観なんですね。プロデューサーの方とは以前に一度お仕事をしたことがあって、それから僕が作っている舞台を見てくださっていたんですが、僕ならこういうごちゃごちゃした世界観のものをうまく舞台化してくれるんじゃないかと思って、声をかけてくれたそうです」
他人の脚本に演出のみで関わるのは初めて。なにか意見交換のようなことはするもの?
「僕も脚本は書くので、添削して僕の色を入れるのはちょっと違うかなと思いました。もらったものをいかに演出するかというのが、演出だけの仕事としては正解じゃないですか。特に今回は原作者さんがいて、脚本家さんやプロデューサーさんがいる。この方たちの意向もあると思うので、三者で話をしてもらって、そこで固まったものを僕がいくらでも面白くするから、という形にしていただきました。演劇のチームから出た意見は編集者さんを通じて原作者に行って、編集者さんを通じて僕らに帰ってくる。僕が原作者さんに直接電話ができる環境だったら“ここはこっちのほうが面白いと思うんだけど”って言えるんだけど、そうはいかないですから。なので脚本もそうだし美術も衣装とかのビジュアルに関しても原作者のイメージが出てくるのが一番いいので、その辺もそちらで決まったことを投げてくれれば後はこちらで考えますよ、という感じです」
昨年は新型コロナの影響でスポーツやエンタメ界は中止や延期になる公演が続出した。その中で黒田は作・演出で4本、出演が3本と7本の作品に関わった。
「実は僕は去年の4月から、コロナの前に受けた仕事しかしていないんです。世の中がどうなっていくか分からないので新しい仕事は一切受けてない。それはコロナでひっくり返る可能性があるからです」
それではそろそろ仕事が尽きてくるのでは?
「そうなればバイトをすればいい(笑)。演劇って公演ができて、チケット代をいただいて、やっとお金になる。でも今は初日に誰かが熱を出しただけで、公演が中止になる可能性があって、ひと公演分の予算がなくなってしまう。それだったら稽古の期間中、バイトをしていたほうがましなんです。でも、これはまた難しい話で、やると言った仕事はやるのが僕たちの世界。それはお客さんばかりでなくスタッフにもキャストに対してもです。“この人はやると言ったらやる人なんだな”って思ってもらわないとダメ。“急にやめる人”って思われたら、オオカミ少年になっちゃって、だんだん信頼を失ってしまう。だからやめるときは“こういう理由でやめます”とちゃんと言わなきゃいけない。でもお客さんはこちらの事情に寄り添ってはくれない。僕らがどんなに重要な判断をしてやめても、いい加減な気持ちでやめても、お客さんは“何回もやめているから、次もやめるかも”と思うもの。逆にお客さんにはそうでいてほしいと思っていて、こっちの事情に寄り添っているファンとしか仕事をしないのは違うなと思っています。今やっている仕事は全部雇われなので、主催者が行政とコミュニケーションを取ってやっていいという判断の限りはやるし、ダメと言われればすぐにやめるというスタンスでやっています。今年は6本演出の仕事をいただいているので、死なない程度には仕事はありそうです。来年以降についてはまだ決まっていないところも多いと思います。そういうところとお仕事ができるかというのも、今ある仕事をちゃんとやっていくことが大事なんだと思っています」