2021年高校生SDGsコンテストのグランプリチームが提案したSDGsな性教育とは? 【寺尾聖一郎の「SDGsなライフシフト」】
このコラムでは、国内外のSDGsの最新情報を元に、17のSDGsのカテゴリーから毎回、教育、ライフスタイル、アート、スポーツ、ビジネスなどから“日本一わかりやすいSDGsの紹介”を目指して連載しています。
こんにちは、緊急事態宣言も解除され、街には人が少しずつ戻ってきている中、これから年末にかけて人とのリアルな接点は戻りつつあります。
今回は、『日経SDGsフォーラム』(2021年9月13~18日)の最終日に行われた『高校生SDGsコンテスト』で、最優秀グランプリを受賞した三田国際学園高等学校3年生のチームメイト3人を取材しました。
このコンテストは日本経済新聞社が主催で、「SDGsで考える『変えたい』こと」をテーマに、全国の高校生がアイデアや解決策を持ち時間7分で発表し競います。審査委員は村上芽氏(日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト)、藍澤淑雄氏(拓殖大学 国際学部教授・国際学科長)、源由理子氏(明治大学 副学長)です。
身近にある「変えたい」と感じる課題を軸に考えたアイデアを、書類選考を通過した10校の高校生チームが披露し、審査員団で最優秀賞を決定します。高校生ならではの視点で、未来への課題を考えたプレゼンテーション。どのチームからも「これからの世界のありたき」姿を描いた提案が幅広いジャンルで発表されました。
https://channel.nikkei.co.jp/202109sdgs_contest/
性教育の在り方についての提言
最優秀賞は三田国際学園高等学校の「SEX EDUCATION WITH US」という日本における性教育の在り方についての提言でした。SDGsの「4:質の高い教育」「5:ジェンダー平等を実現しよう」を軸に提案します。
きっかけは、提案メンバーの中澤璃々子さん、寺尾洋輝さん、近棟晴太さんの3人が共に感じている性に関する知識の格差からスタートしました。彼らは今年6月に開催された第3回世界環境学生サミットで準グランプリ、「サスティナブルアイデアコンテスト」でも特別奨励賞をW受賞している注目のチームで、現在#withusとう名で活動しています。
https://www.wes-summit.com/about
「Lets’ talk about SEX!」
この言葉を日本で話すことは、3人にはとても抵抗あるテーマであったと言います。「日本語でセックスというとすごく抵抗を感じていて、恥ずかしい、いやらしい、タブーという固定概念が先行し、クローズドな印象を感じていました」(中澤さん)。それにより正しい情報を得られないまま、大人になっていくと、さまざまな問題やトラブルに遭遇することになると危惧していました。
「知る」必要のある知識
例えば、「アフターピル」。日本では避妊するためのピルは処方が必要であり、学生にとっては入手するハードルが高く、お金と勇気が共に必要になります。性暴力に関する実態も、コロナ禍において、大人だけでなく児童への性的虐待などが増加傾向にあることを心配しています。また望まない妊娠は年間61万人、人工妊娠中絶が16万件*に及んでいて、その実態を何とかしたいという思いからチーム内の議論は始まったそうです。
*日本における予定外妊娠の医療経済的評価 大須賀穣, 秋山紗弥子, 村田達教, 木戸口結子より。
小学校の時の「女子だけの授業」に違和感
中澤さんは小学生の時に女子だけ集められて生理についての授業では、生理ナプキンについての説明だけで、生理のメカニズムには触れなかったことに違和感が生じたと言います。また、ニュージーランドに留学した近棟晴太さんは、生徒たちがフランクに性について会話をしていて、日本の学生との違いに違和感を得たそうです。寺尾洋輝さんは高校で初めて学んだ性教育は教科書の読み上げが主で、実践的ではなかったと感じています。調べていくと、日本の教育制度が世界基準(ユネスコの「国際セクシャリティー教育ガイダンス」)にも大幅に後れを取っていることがわかり、誰にも相談できない若者が大勢いるという現実を知り、もっと性に関する事前事後の対応が必要であると感じたと言います。
いま必要な性教育のビフォーケア、アフターケアとは
彼らは、性教育は人生の教育そのものであり、充実した教育プログラムの改善に対して、解決するための新しい教育の在り方について考えます。例えば、双方向の授業スタイルにすることで、具体的な事例やトピックをテーマに生徒と先生、親と子、生徒同士が話し合える環境作りができないか? 海外では5歳から始まっている性教育が日本では極めて遅いスタートとなっているため、性教育年齢の引き下げの必要性を考えています。これは、スマートフォンの所持により性犯罪が年々低年齢化している中で、一刻も早くに低年齢層への教育システムの改善ニーズがあると思われます。
性教育改革のためのPDCA
提案後もこのチームは、「Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)」を繰り返しながら、学校、地域、メディアという3つの身近なコミュニティからアプローチしていくことを念頭に、実践に向かって取り組んでいます。学校内における性教育の授業の実施や、地域活動では地元のクリニックと組んだイベントの実施、問題を認知させるために、大会出場や取材を通してメディアに取り上げてもらう計画だといいます。
当事者である世代から変えていこう
三田国際学園高等学校の3人を取材するにあたり、「性」という扱いにくいテーマに勇気を持って公の場で提案する姿勢に感動しました。誰でもスマートフォンで情報を得られて、リアルな会話や正しい教えがなされないまま、悩みを抱え、命を落とす若者もいる社会で、当事者である世代から変えていこうという意思を強く感じました。
先日、Amazonプライムで『SNS-少女たちの10日間』を視聴しました。12歳に扮した女優たちが援助交際など未成年の性の現実に直面していました。この映画はチェコの警察をも動かしたドキュメンタリーで、PC、スマホを通じて少女たちにアプローチする大人たちが数千名いた事実を取り上げた衝撃的な内容でした。
こうした活動や取材を通じて、性教育の対処法や相談できる環境などが益々重要な時代にあると感じています。高校3年生からスタートした教育現場への提案が多くの同世代に届くことを心より祈っています。彼らの行動は性問題で苦しむ人を減らし、社会がもっと性問題に対してポジティブな環境を作り上げていくでしょう。
1964年 東京都生まれ。(株)リレーションズ代表取締役
エンタテインメント&コンテンツビジネスを中心に31年間勤務した大手広告代理店を2020年に早期退職。自らパーソナルトランスフォーメーション(PX)を志し、人生100年時代のライフシフトを実践挑戦中。”アイデアで世界を繋ぐ”をコンセプトにしたソーシャルクリエーティブ&㏚会社(株)リレーションズを設立。同年ニューホライズンコレクティブ社のプロフェッショナルパートナーとなる。東京浜松町に2020年8月に開業したダイアログミュージアム”対話の森”を始めとする、ソーシャルエンタテインメントのPR&企画プロデュースなどを手掛けている。
趣味は料理、テニス
資格:障がい者スポーツ指導員、准認定ファンドレイザー行政書士、宅建、調理士。
NPO法人LWC理事「クイズに答えてお米を寄付するサイトハッピーライスの運営」
https://happyrice.org/
Twitterアカウント:@recommendertera
一般社団法人 防災キャンパー協会理事。